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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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59話 恋の相談

 広島東商業高校との一戦後、休みを開けて月曜日。

 放課後になり練習開始だ。


 俺はブルペンで投げ込みをしながら、暇があれば左手を見ていた。


 広島東商業との試合で145キロを記録した時の指の縫い目へのかかり具合。

 あれを再現できれば、もっと球速があがる可能性が高まる。下手すりゃ150だって夢じゃないレベルだぞ。


 「おい英雄。なに指ばっか見てるんだ? マメでも潰したのか?」

 隣で俺の投げるボールを見ていた佐和ちゃんが俺の指をのぞき込んでくる。


 「いや、一昨日の試合で145キロを記録したって言うから、あのボールを投げた時の指の縫い目へのかかり具合を再現したくてな」

 「そんな事か。気にするな。どんなに指にボールがかかった所で、ストライクゾーンに入らなかったら意味が無い。大事なのは、球速を上げる事じゃなくて、ストライクゾーンに決める事だ」

 相変わらず佐和ちゃんは球速よりコントロールを意識するよう言う。

 まぁ確かにそうだけど、やはり気になるじゃん。

 いまだ納得できていない俺を見て、佐和ちゃんはわざとらしく大きなため息を吐いた。


 「いいか? 試合中無意識に出来たんだ。それを馬鹿みたいに意識して、ボールも投げられなくなったらアホだぞ。きっとお前の事だ。試合になれば、無意識にでも出来るだろう」

 「まぁ確かに、そうかもだな。俺天才だし」

 佐和ちゃんの言うとおりだ。

 俺はプレートを踏み哲也を見つめる。そして、いつも通り投げ放った。


 乾いたミット音が鳴り響いた。


 「そうだ。その調子で行け」

 「うっす!」

 佐和ちゃんの言う通り、気にせず投げていこう。



 そういえば今日の練習、恭平は来ていない。

 てか学校にも来ていない。おそらくスーパーミラクルハイパー佐和スペシャルの余波が原因だろう。

 朝、恭平にスーパーミラクルハイパー佐和スペシャルがどうだったか聞こうと電話したら


 「……英雄か……いくらお前が友人でも、その名を呼ばないでほしい……あの人は、きっと俺に対して恨みがあったんだよ……。じゃないとあんな事を平然とできないもん……俺があれをやるなら……間違いなく殺したい相手にやるさ……やばっ、思い出して……あああああああ!!!!」

 鼓膜が破れるくらいの叫び声を上げたので、思わず電話を切ってしまった。

 よっぽど思い出したくなかったんだな。


 「佐和ちゃん」

 「今度はなんだ?」

 「スーパーミラクルハイパー佐和スペシャルって、どんな練習やるの?」

 怖いもの見たさに聞いてしまった。

 正直、ネーミングからはどんな練習をやるのかまったく想像がつかない。とりあえず凄そうという感じだ。

 大体、なんだこのネーミングセンスは。最近のガキでもこんなネーミングつけねぇよ。


 「なんだ聞きたいのか?」

 佐和ちゃんはどこか楽しげに口元を歪めながら、質問を質問で返してきた。


 「……やっぱりいいです」

 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを見ている。そんな言葉もあるし、興味本位だけで聞くのはやめておこう。



 明日からは文化祭準備の為に、午前で授業を終えて午後は文化祭準備になる。

 佐和ちゃんは学校行事を優先する監督と自称しているので、各クラスの文化祭準備にしっかり取り組むよう言われている。

 練習に来れるのもまちまちになってしまう。せっかくテスト期間があけたというのにすぐこれか。


 ただし文化祭前日には練習試合が組まれている。本当に佐和ちゃんは学校行事を優先する監督なのだろうか? 優先させるなら普通前日に練習試合なんて組まないだろうに。

 次の日曜と月曜が文化祭当日、その前日土曜日におこなわれるその試合にあわせ、文化祭準備を2時間ほどしたあとは、火急の用がない限りはグラウンドに集合することが決まっている。


 「学校行事も楽しんだうえで野球も楽しめ。高校生活は長い人生で3年しかないんだから、しっかりと遊びつくせよ」

 いつだったか、佐和ちゃんが言っていた言葉だ。

 野球部の監督以前に教師やってるなぁあの人。いや正しい教師は勉強しろと言うのか。そもそも正しい教育者ならば、文化祭準備でクソ忙しい時期にわざわざ練習試合など組まない。

 絶対佐和ちゃんは俺達が文化祭準備と野球の練習で右往左往する姿を楽しむつもりだ。だってあの人、人の皮をかぶった悪魔だもん。



 練習終了後、何故か俺は龍ヶ崎に呼び出されていた。

 部室から離れた体育倉庫前で俺と龍ヶ崎が向き合っている。


 「なんだ龍ヶ崎?」

 なんかもじもじしている龍ヶ崎。

 この光景、何度も見たぞ俺。


 「もしかして愛の告白か? 悪いが、俺はそっちの気はないんだ。すまないな」

 「ちげぇよ! ……実は恋の相談なんだが……」

 マジかよ。

 まさか龍ヶ崎に恋の相談をもちかけられるとは思わなかった。


 「お前は、何組もカップルを作ってるらしいな……」

 うわ、恋バナが始まった。

 正直龍ヶ崎とはこんな会話したくなかった。もうちょっと野球の話題で盛り上がりたかったよ。


 「まぁそうだな」

 龍ヶ崎の言う通り、俺は何人もの男女をカップルとして組み合わせてきた。修学旅行で好きな子の発表した10人のうち、これまで俺と哲也、誉、恭平を除く、6名をカップルにさせたからな。


 「それでだ。折り入って、相談がある」

 「マジかよ……」

 絶対お前岡倉とイチャイチャしたいんだろ。恭平風に言うなら岡倉と乳繰り合いたいんだろう。

 言わなくても分かってるよ。だから言わないでくれ、マジで。


 「俺と……岡倉を、その……カップルに出来ないか?」

 あー、やっぱりそうなるよね。

 龍ヶ崎、なに顔を赤くしながら言ってんだよ。マジふざけんな。ふざけんなよ。なんで他人の恋愛の相談に乗らなきゃいけないんだよ。こちとら自分の恋愛事すら疎かにしてるんだぞ?

 大体、岡倉のどこが良いんだ? あれか? お前も岡倉の笑顔の虜にされた一人なのか? それとも奴のパイオツに魅了されたのか? 出来れば前者が理由であってほしい。


 「マジで言ってるのか?」

 「マジじゃなきゃ、てめぇなんかに相談するか! ……頼む。この通りだ」

 そう頭を下げる龍ヶ崎。

 あのプライド高い龍ヶ崎が頭を下げるなんて、どんだけ岡倉とイチャコラしたいんだお前。


 「……まぁ、最善は尽くすよ」

 「本当か!?」

 俺の肯定的な発言を聞いて笑顔を浮かべる龍ヶ崎。

 龍ヶ崎の自然な笑顔初めて見た。さすがクール系イケメンの龍ヶ崎だ。時折見せる笑顔は凄い衝撃的だ。ここに女子がいれば間違いなく一人くらいは股開いていたな。


 「あぁ、龍ヶ崎には一昨日の練習試合でも助けてもらったしな。それに岡倉とお前がくっつけば、俺も気が楽というものさ」

 主に岡倉が寄り付かなくなってくれる。

 若干寂しさはあるが、あいつと話していると、せっかく高めた知能をどんどん放出していく事になるからな。だから、さっさと龍ヶ崎と付き合ってもらいたい所だ。


 「悪い、ありがとう」

 「いや気にするな。それにしても……岡倉のどこが良いんだ?」

 とりあえず聞いてみる。


 「そ、それは……」

 顔を赤くし視線を逸らす龍ヶ崎。

 いや、そこで照れるなよ。もっとシャキッと言わなきゃ岡倉はなびかないぞ?

 あいつは子供っぽい性格だから、好きなら好きとはっきり言わないと伝わらない。大人みたいな遠まわしな言い方では絶対響かない。

 だから今のままじゃダメだぞ龍ヶ崎。


 「……岡倉の笑顔が好きなんだ。あとあの明るくて元気なところもいい。見ているだけでこっちまでパワーが湧いてくるような気になる」

 「そうか」

 岡倉のあのふわふわした所が好きなのか。

 うん、聞きたくなかった。こんな龍ヶ崎、見たくはなかったよ……。


 「とにかく、これから頼む」

 「あぁ、最善は尽くすよ」

 そう一言龍ヶ崎に告げる。龍ヶ崎は一つ頭を下げて、部室へと戻って行ってしまった。

 うーん、さてどうしたものか……。


 「あっ! 英ちゃんだ!!」

 「ん? あぁ岡倉か」

 ここで岡倉さんと遭遇。


 「今日一緒に帰ろう!」

 そう言ってニコッと笑う岡倉。

 この笑顔に騙された龍ヶ崎(アホ)に、付き合えるよう協力して欲しいと頼まれた俺が一緒に帰るわけ無いだろう。


 「やめとく」

 「えー! どうしてよー!」

 「どうしてじゃない。今日はそういう気分じゃない」

 「えー! なんでよー!」

 これは何を言っても、どうして? とか、なんで? と何度も聞き返してくるパターンだ。岡倉と話してるとよくある。マジで面倒くさい。


 「また今度な。今日は練習で疲れててそういう気分じゃないんだ」

 「うー……なんでダメなの?」

 だから今理由話しただろうが。


 「とにかく、今日は無理。またの機会にしてくれ」

 「うーん、わかった。そうする」

 意外に早く折れてくれた。聞き分けのいい子供は好きだぞ。

 てことで部室へと戻る。さて、これからどうやって岡倉と龍ヶ崎をくっつければ良いものか……。なんだか頭が痛くなってきた。

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