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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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55話 新ヒロイン登場?

 一生とも思えるぐらい長く苦しいテスト期間が終わりを告げて数日。

 俺は無事、定期考査を乗り切った。

 テスト終了後、哲也は語る。


 「まさか英雄にまで勉強を教えるとは思わなかった。たった一週間なのに10キロ近く痩せたと思う」

 そう赤裸々に、頬をやせこけた哲也が神妙な面持ちで語っていた。

 さてテストの結果だが、問題児Aの俺は赤点全回避出来た感はある。これも鵡川と哲也さまさまだ。

 一方で問題児Bの恭平に関しては分からん。話によると、テスト中の記憶がないらしい。やばすぎるだろう。どんだけ追い込んでこいつ。しかもテスト期間が過ぎてもなお、普段の元気を取り戻しておらず、生きた屍のようになっている。これでスーパーミラクルハイパー佐和スペシャルを受ける羽目になったら、恭平はきっと人間を辞めると思う。


 そして今日からはテスト返却。

 朝のホームルームを終え、だいぶやせ細った顔立ちが治ってきて元気になり始めている哲也とテストの話題で話す。


 「英雄、大丈夫?」

 「問題ない。俺には勝利の女神の加護がある」

 「勝利の女神?」

 「そうだ」

 俺は頷いた。生きる女神鵡川神(むかわのかみ)の加護が俺にはある。だからおそらく赤点は回避できると思う。

 最悪、佐和ちゃんに土下座し、佐和ちゃんの靴を舐めてでも回避してやる。


 「やっほー! 二人共昼休み暇?」

 ここで沙希がやってきた。

 あの日以来、沙希はなんだか機嫌が良さそうだ。


 「どうした?」

 「いや、久しぶりに3人で昼食とらないかって思ってさ」

 沙希から誘ってくるなんて珍しいこともあるな。

 いや、沙希はあの日以来なにか吹っ切れたように俺と哲也に話しかけている。

 昼飯誘ったり、放課後遊ばないかと誘ったり、休みの日に遊ばないかと誘ったりしてくる。俺も哲也もテスト期間があけて野球部の練習が始まったので、中々遊ぶ機会はないがな。


 「悪い暇じゃない」

 「英雄はいつもそうやって嘘つく」

 「いや今回は嘘じゃない。昼休みに妹に用がある」

 マジで今回は朝、千春に「昼休み私の教室に来い」と呼び出しを食らっているんだ。


 「千春ちゃんか。元気にしてる?」

 「そりゃもう元気バリバリだよ。今じゃテニス部のエースだからな。山田高校テニス部の未来を担っていると言っても過言ではない。さすが俺の妹だ」

 千春と哲也は面識がある。そりゃ哲也は幼馴染だから、何度も俺の家に来ているからな。自然と佐倉一家とも交流を持つさ。

 ちなみに千春の初恋の相手は哲也だ。といっても小学校に入る前の頃の話だ。

 当時はおままごとをするたびに、哲也と夫婦設定で遊んでたな千春。ちなみに俺は二人で飼っている犬か猫の役目をやらされていた。

 あの頃は「将来は哲也君と結婚するー」なんて可愛いことも言ってたのに、一体どこで道を間違えて須田を選んでしまったのか……。


 「という事で沙希、今日は哲也と二人で食事してくれ」

 「わかった。それじゃあ哲也、昼休み屋上で」

 「う、うん!」

 そう一言言って沙希は、哲也と約束をして自分の席に戻っていった。


 「やったな哲也。二人きりだぞ」

 「そうだね。でも、どうなるわけでもないけど」

 「どうなるわけ? 違うだろう、どうにかしなきゃ始まらないぞ哲也。恭平風に言うなら、押し倒してほにゃらららーんだ」

 「あー恭平なら言いそうだね」

 呆れ笑いを浮かべる哲也。

 まぁ恭平ならもっとダイレクトなことを言うんだろうけどな。



 さてテスト用紙の返却が開始される。

 ちなみに我が校の赤点は30点よりも下の点数。つまり20点台からレッドゾーンだ。

 これまでの俺は全科目のアベレージは26点ぐらい。だが今回はしっかりと勉強した。10点ぐらい上がってもおかしくないと自負している。


 では、まずは現代文から返却される。

 これは鵡川に教えてもらった所が、ズバリ出てきたので、赤点は回避出来ていたはずだ。

 結果は……36点。余裕の赤点回避! さすが俺だ。


 続いて数学。

 英語の次ぐらいに苦手な科目だが、鵡川の分かりやすい解説のおかげで、だいぶ計算問題を解けた気がする。何とか赤点を回避したい。

 結果は……30点。マジでギリギリ赤点を神回避!! ありがとう鵡川! やっぱり彼女は勝利の女神だ!


 次は現代社会。

 社会科は前々から得意科目なほうだったし、ずっと赤点を回避しているだけあるので、赤点にはなっていないはずだ。

 結果は……51点! 来たぜ、高校での定期テスト自己ベスト記録更新だ。これまでは一年の頃に記録した39点が最高だったから、大幅アップの結果となった。

 やはり鵡川と勉強したことで、だいぶ俺の知能は向上している。岡倉とは正反対の結果を出してくれるな鵡川は。


 午前のテスト用紙返却最後は生物。

 化学と生物のどちらかを選択して授業を受ける我が校。俺は生物を選択し、鵡川と哲也は化学の方を選択している。

 なので生物だけは、誉の力を借りて勉強をした。赤点を回避したい。

 結果は……35点。これも何とか赤点回避。


 ここまで四科目ともに赤点回避だ。

 あとは日本史と英語で、今回の中間テストの返却は終了となる。

 日本史は前々からあと1点とか2点で30点って感じの結果だったので、おそらく今回は赤点回避余裕だろう。だが英語は不安だ。



 そして昼休みに突入。

 かなり疲労感があるが、千春から頼まれているし一年教室に向かう。

 重い足取りで俺は一年教室がある一階へと向かう。



 一年B組、千春のクラスに到着した。

 ちなみに俺は去年E組で、恭平、大輔、岡倉、鵡川、須田などと同じクラスだった。

 別学年の教室だが躊躇はしない。ずかずかと教室に侵入する。


 先輩が入ってきたことに生徒たちが困惑しているが知らん。俺は教室内から千春を見つけ出した。


 「よぉ千春」

 椅子に座り、テスト結果を見比べていた千春に声をかけた。


 「あ、お兄ちゃん」

 「愛しのお兄様が来てやったぞ。それで用件はなんだ? 早く飯食いたいんだ。2文字でまとめろ」

 「死ね」

 酷い。いくらなんでもその答えは酷すぎる。 男の俺でも泣くぞこの野郎。


 「じゃなくて、お兄ちゃん! 野球部の先輩にさ、嘉村先輩って居るよね?」

 「嘉村先輩? あぁ恭平か。奴がどうした? ……ま、まさか! あんな奴をお前は好きになったのか!?」

 一気に恭平に怒りが沸いた。

 俺の妹に何をしやがった。今すぐ関節技を決めて吐かせてやろうか、あの野郎!


 「そんな訳ないでしょ。私は須田先輩一筋だって」

 そう誇らしげに語る妹千春。

 須田も須田で、問題が多い気がする。


 「私じゃなくて、友達が嘉村先輩の事好きなの」

 「マジで?」

 俺が聞き返すと千春は無言でうなずいた。

 恭平が好きになるならまだしも、恭平の事が好きになるなんて、狂気の沙汰だぞ。

 いやしかし、一年の方まで恭平の噂は広がっていない可能性もあるか。

 まぁ見た目だけなら、それなりにイケる顔してるし、猥談しているところを見ていなければ、ただのお調子者のノリが良いやつに見えるし、可能性は無くはないのか?


 「お前、恭平がどんな奴か知ってるのか?」

 「噂で聞いてるけど、下ネタばっか言ってる変態でしょ? 同じクラスの友達が下ネタで声かけられて、ナンパされたって言ってた」

 うん、やっぱりダメだ。奴の噂は学年どころか学校中にまで轟いているみたいだ。

 だが、それでこそ我が親友。いつまでもベストフレンドだ恭平。

 だとすると、恭平の下ネタ力を知っている上で好きになったのか。とんでもなくクレイジーな奴だな。


 「それでどんな子だ?」

 「今、紹介するね。乙女(おとめ)ちゃん。ちょっと来て!」

 「は~い!」

 乙女って名前なのか。なるほど名前からして可愛らしい。

 しかし声が、おっさんみたいに低かったぞ?



 そうして目の前に乙女ちゃんが現れた。


 「……はい?」

 これは……デカイなぁ。

 目の前には、乙女と言う名前からは想像できないほど、豊満すぎる女性がいらっしゃった。なんて、なんて恵まれた肉体をしているんだこのお方は。

 良い言い方をするならば極めてふくよか、悪い言い方をするならば極めてデブ。


 「紹介するね。椎名乙女(しいなおとめ)ちゃん」

 乙女? 乙女? 乙女か?

 話をする前から女子だと聞いていたので、なんとか女性として見ることができているが、何も知らなければ女装している男にしか見えない。

 もう横綱と大関を2でかけたような、お顔と体格じゃないですか。

 でもこんな事言ったら、俺がつっぱりで殺されそうなので、いえない小心者。

 そしてここまで考えて、俺めっちゃ失礼な事考えてるなぁと思う。彼女がサトリなら今頃俺に張り手を飛ばしていることだろう。


 「初めまして~椎名乙女で~す! 千春ちゃんのお兄さん! 今回はよろしくお願いします~! 嘉村先輩紹介してくださ~い♪」

 ……声が無理に裏声でしゃべってるおっさんみたいだ。乙女の声をしていない。

 とりあえず語尾を伸ばすのやめろ。


 「どうお兄ちゃん? 可愛いでしょ?」

 「え、えぇ、お名前は……」

 彼女を褒めれるところが、名前しか出てこない辺り、俺という男の限界を感じてしまう。天才と言えども所詮は矮小な人間。世界は広い。そう感じてしまう。

 てか千春、お前には可愛いと思えるのか。女子の可愛いの基準は男子と大きく異なるというが、これは異なりすぎだろう。千春の美的センスを疑うぞ。いや、千春。お前にはいつまでもそういう心を持っていて欲しい。いつまでも誇れる妹であってくれ。


 「それで嘉村先輩に紹介してくれる?」

 千春が聞いてくる。こいつもこいつで友達思いなのは分かるが……。

 絶対に恭平と合わせたら、あいつはこの子(仮にボブ)に酷い事を言うだろう。そういう奴だ。思った事を何でも口にしてしまう素直な性格だ。

 裏表が無い人物と言えば聞こえは良いが、こういう性格は人を選ぶ。

 ボブは見た目凄いメンタル強者に見えるが、実際のところはどうか分からない。好きな男性から口汚い罵倒を浴びせられたら、相当なメンタルの(つわもの)ではない限り深い傷となるだろう。だから、素直に紹介してやるとは言えない。


 「紹介するしない以前に、恭平のどこが良いんだ? あいつの変態具合は知ってるんだろう?」

 「はい~! 知ってますよ~! わたし~そういう嘉村先輩が好きなんですよぉ~! なんていうか、うーん、嘉村先輩色に染められたいって言うんですかね~」

 やめろ、語尾を伸ばすな。


 「恭平は変態なだけじゃなくて、結構口が汚いぞ? みんながみんな、君を可愛いと思うわけじゃないし、もしかすると恭平の趣味に合わなくてブスだの怪物だの、ボブだの、悪口を言われるかもしれないけど、それを耐える自信はあるか?」

 「望むところです~! むしろ~嘉村先輩に罵られるなら本望ですね~! あんまりいうようだったら~私の唇で~悪口ばかり言う嘉村先輩の唇を~封じちゃいますけど~!」

 なんか恐ろしい事を聞いてしまった気がする。

 千春は「キャー! 乙女ちゃん大胆!」なんてキャッキャッしているけれど、今の発言はホラーでしかないだろう?


 しかし、これは……この子は……もしかすると恭平と相性がいいかもしれん。

 恭平の変態具合が好きなんていう女子を初めて見た。いや、このボブを女子と言えるかは別としてだが。

 前に恭平、自分と同じぐらいエロい女の子と付き合いたいって言っていたし、これは紹介して損はないだろう。

 なにより、恭平の裏表のない性格を受け入れられるとまで口にした。彼女の愛はきっと本物だ。俺に、この本物の愛を止めることなんてできやしない。なんだろう、凄い口元がにやけてきた……!


 「そうか、ボ……乙女ちゃんの思いはしっかり伝わった。恭平に話してみるよ」

 「ありがとうお兄ちゃん」「ありがとうございま~す♪」

 って事で千春とボブには、恭平に話すよう伝えて教室を後にした。

 恭平、自分のエロスを受け入れてくれるエロい女の子とやっと知り合えるんだな。まったく自分と趣味が合う女の子が見つかるなんて羨ましいものだ。

 ふと水飲み場に備え付けられている鏡を見た。悪い笑みを浮かべている俺が映っていた。


 「あ! 佐倉先輩!」

 鏡を見ていると声をかけられた。

 女子トイレから出てきた美咲ちゃんとエンカウントしたようだ。


 「よっす!」

 「どうしたんですか? ここ一年生教室前ですよ?」

 「あぁ、ちょっと千春に用があってな」

 「そうだったんですかー」

 そういってニコニコ笑う美咲ちゃん。

 うーん、やっぱり年下好きにはたまらない感じの後輩だな。俺は後輩の女の子に慕われるより、先輩の女の人に可愛がられる方が好きなので、彼女にはグッとこないのが残念だ。


 「テストの結果どうだった?」

 「いつも通りでした。佐倉先輩のほうは?」

 「ふふっ……自己ベスト更新の51点を叩き出したぜ。すごいだろう?」

 自慢げに語りピースしてみる。美咲ちゃん、凄くぎこちなく笑ってる。

 そりゃ、51点が自己ベストとか言われたら困惑するよな。むしろ困惑してくれて助かった。これで岡倉みたいに「ふふん! 私は52点でした!」なんて低レベルな張り合いをしてこようものなら扱いに困っていたところだ。


 「そういや、ボブのこと知ってるか?」

 「ボブ……ですか?」

 あ、やべ……蔑称のほうが出てしまった。


 「あー違う。えーっと……そう! 椎名乙女ちゃんのこと」

 「あー乙女ちゃんですか。あの子可愛いですよね」

 ニコニコ笑いながら答える美咲ちゃん。

 女子の可愛いの基準とは一体……。いや、俺の目が悪いのか? なんだかそんな気がしてきた。


 「話だと柔道部期待の星らしいですよ」

 「マジか」

 まぁあの体格なら期待の星なのも頷ける。

 そこらのやわい男どもなら、束でかかってもうっちゃりとか寄り切りとかしまくって勝てそうな気がするもん。


 「乙女ちゃんがどうしたんですか? もしかして先輩、乙女ちゃんのこと……」

 「違う。乙女ちゃんは好きじゃない」

 即否定していた。

 ここは認めちゃいけない気がする。いや認められない。


 「そうですか、良かった……」

 ホッと安心している美咲ちゃん。

 待て、君は乙女ちゃんと争ったら負けるかもという不安があるのか? 自己評価が低すぎないかそれは?


 「乙女ちゃんが俺の野球部の同期のこと好きらしくてな。千春経由で紹介してくれって事で知り合ったわけだ」

 「そうだったんですか。乙女ちゃんはとっても良い子だし、面白いし、頼りになるので、絶対その人喜びますよ!」

 美咲ちゃん、君は案外えげつない性格をしているな。

 あれで喜ぶ男は、少なくとも野球部にはいないだろうなぁ。


 「あ、そろそろ戻んないと、それじゃあまた」

 「はい!」

 ぺこりと頭を下げる美咲ちゃんを一度見てから、俺は二年教室へと戻った。

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