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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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54話 ドキドキテスト勉強・最終部

 明日からついにテストが始まる。

 運命のテストだ。なんとしても赤点を回避してやる。

 今日やるのは現代社会の科目。比較的知ってる言葉もあるし、元々社会科は俺の中では得意分野だ。気持ちを楽にして勉強できる。


 「おい英雄! どういう事だ!」

 なのだが、哲也の席から向けられる恭平の汚い声が酷くうるさい。

 現在、鵡川と一緒にテスト勉強をしているのだが、哲也の席で勉強をしている恭平がキャンキャン喚いてやがる。

 確かに恭平のところは、哲也、誉、須田と男子の学力良い生徒が集まる中で、俺は鵡川と二人きりのマンツーマン勉強中だ。恭平が嫉妬するのは仕方がないことだ。


 「黙っててくれないか嘉村くん。俺は今真面目に勉強中なんだよ」

 「てめぇ! 一緒に地獄に落ちようって約束しただろうが! なんでお前天国にいるんだよ! おらぁ!」

 お前、前に地獄に落ちるのはお前だけだとかほざいてたくせになに言ってんだ。


 「悪いな鵡川、恭平は無視してくれ」

 「う、うん……」

 「なんだよそれ! お前らデキてんのか!? どれくらいデキてんだ!? おめでたしてるのかぁぁぁ!?」

 やかましい。マジで静かにしていろ恭平。

 大体、奴も俺と同じレッドゾーン圏内なのに、なんであんなに騒がしくできるんだ?

 いや、おそらく頭が限界値を迎えて暴走しているのだろう。普段の恭平と比べてもかなりうるさいし。


 「恭平、真面目にやろうよ」

 「哲也ぁ! お前はどうなんだ? 英雄と鵡川が二人でイチャイチャしているところを隣で見てて良いのか!? 良くないだろう!! 俺だって女子とエッチな保健体育の実技勉強してぇんだよ!」

 最後のほう、本音がダダ漏れだぞ恭平。しかも俺はお前が言っているような勉強を鵡川とした覚えはないし、したいとも思わない。

 そんな汚い恭平の野次のせいで勉強に集中できないし、鵡川も教えるに集中できていない用だ。


 「鵡川、教室変えるか?」

 「う、うん……」

 という事で二人して勉強道具を片付けて移動を開始する。


 「お、おい! どこ行くんだよ! まさかホテルか!?」

 違う。

 マジで黙って勉強してろよ恭平。



 こうしてA組に移動し勉強開始。

 だがB組から聞こえる恭平の奇声が凄くうるさい。

 しかも卑猥な妄想がだだ漏れで、俺と鵡川が夜の保健体育(隠語)の勉強を実践しているとか、この後二人はホテルに行くだのなんだの言って勝手に興奮している。

 おかげで気まずい。心なしか、普段より鵡川が遠くに感じる。


 「……うちの恭平が申し訳ない」

 「ううん、気にしないで」

 ひとつ謝るがぎこちない返答のみで、沈黙が続く。



 「そういえば今日でおしまいだね」

 恭平の奇声も聞こえなくなり、しばらく快適に勉強をしていると、鵡川がポツリと呟いた。

 そうか、今日で鵡川とのテスト勉強も終わりか。


 「そうだな。悪かったな、俺のテスト勉強付き合ってもらって」

 「ううん、凄く楽しかったから気にしないで」

 お互い、プリント用紙とノートから顔をあげずに話をする。

 今回のテスト勉強でだいぶ鵡川と仲良くなった気がする。


 「しかし残念だな、鵡川ともう勉強できなくなるの」

 「え……」

 無意識に口にしていた。

 本当に残念だと思ったんだ。だって鵡川すげぇいい匂いするし、横顔とかめっちゃ可愛いし、こんな可愛い子と二人きりで勉強できるなんて、滅多にないことだしな。

 終わってしまうのはただただ残念な事だ。

 だが、さすがにこの理由を語ったら、恭平と同じレベルまで評価が落ちそうなので、適当にはぐらかす。


 「いやだってさ、せっかく頭良くなってきてるし、このまま鵡川と勉強してたら学年上位行けるじゃないかと思ってさ」

 「なんだ、そういうことか」

 そういって作り笑いを浮かべる鵡川。

 あぶねぇ、絶対変な意味で捉えられてた。危うく恭平と同じレベルまで評価が落ちるところだった。

 いつだって俺の女子からの評価は崖っぷち。崖の底で恭平が待ちかねている事を忘れてはいけない。油断すれば最後、崖の底から伸びる恭平の手に掴まれて奴と同じ評価の奈落へと落ちていく事だろう。


 「そういえば、女子の間で噂になってるんだけど」

 ここで鵡川が言いづらそうに口にした。


 「……佐倉君、加太山さんを叩いたって本当?」

 どこか不安そうな目で鵡川は俺を見てきた。

 やっぱり、彼女の耳までその噂は届いたか。

 加太山は学年の女子グループの中で最大級の大きさを誇るグループのリーダー格だ。彼女が泣きながら俺に叩かれたと被害者ヅラすれば、たちまち女子どもは俺を非難する。

 現に俺は女子の評価をかなり落としている。前までは無視だったのが、今では避けられている。もうあれだ。恭平と同等クラスになった。気づかないふりをしていただけで、俺は今、崖の底で恭平と肩を組んでいるのだろう。


 「あぁ本当だ」

 はぐらかす事なく俺は彼女に伝えた。


 「そうなんだ」

 どこか落胆したような声。

 正直鵡川の評価を落としたくはなかったが、これは事実だしな。


 「その……佐倉君って、女の子の顔叩けるんだ」

 「まぁな。叩くときは叩くよ」

 どういう経緯で彼女の耳に届いたかは分からないが、おそらくねじ曲がった情報が彼女の耳に入っているだろう。

 加太山の事だ。三浦をいじめててそれを俺に阻まれて叩かれたなんて言わないだろう。適当に俺が悪者になるよう改ざんしているはずだ。

 誰かに褒められたくてやった事でもないし、わざわざ訂正する事でもないだろう。


 「あ、そうだ。話変わるけど鵡川に頼んでおきたいことがあるんだが……」

 「え? なに?」

 「C組のさ、三浦さんいるだろ? ほら、去年俺たちと同じクラスだった」

 「三浦さん? あぁうん、三浦さんがどうしたの?」

 今の話題の後にこの話をすると白々しいけど、前々から考えていたことを鵡川に話した。正直、こうして鵡川と二人で話せるのも今日までだろうし。

 三浦さんは大輔の活躍もあって、なんとか目立っていじめられる事は無くなった。けれど彼女にはまだまだ仲間が少ない。なので鵡川の女子グループだけは味方に引き込みたい。


 「あいつさ、大輔の彼女なんだけどさ、鵡川だけでもいいから仲良くしてあげてくんね?」

 「え?」

 俺の頼みに鵡川は素っ頓狂な声をあげた。


 「えっと……別に良いけど、なんで?」

 そして鵡川は俺に理由を求めてきた。

 適当に理由をつけようかとも考えたけど、変に嘘を言って彼女の心に届かなかったりしたら嫌だし、ここは本心を口にしておくか。


 「三浦さんさ、いじめられてるんだよ。鵡川が仲良くしてくれれば、いじめの標的から外れると思うわけだ。面倒くさいかもしれないが、出来れば頼む」

 「佐倉君……もしかして……」

 俺の理由から何かを察した鵡川。

 これ以上は何も話すつもりはない。俺は鵡川の誤解を解きたいために、こんなことを口にしたわけではないのだからな。今日この話しようと思ってたら、先に鵡川からこの話題しちゃったせいで、スゲェ白々しくなっちゃったけども。


 「うん、任せて」

 優しい笑顔を鵡川は浮かべた。その笑顔を見て俺も微笑む。

 また彼女に借りを作ってしまったな。


 「そういえば、定期テストも終われば次は文化祭だな」

 なんだか自分の武勇伝を誇示しているような気がして恥ずかしくなったので話題を無理やり変えた。

 野球の活躍ならば大仰な身振り手振りで英雄譚を語る吟遊詩人のように声高に語れるのだが、いかんせん今回の三浦さん解放運動は、俺からしたら青臭いセリフ吐き出しまくりの恥ずかしい話でしかない。ので、とっとと話題を変えた次第だ。


 「そうだね」

 そして鵡川は何か言うことなく話題に乗ってきてくれた。

 彼女の声はどこか嬉しそうというか、先程の俺の話題の時よりも明るい声になっていた。


 「文化祭なにが楽しみ?」

 鵡川が聞いてきた。


 「そうだな。これといってないけど、うちっていちいち派手なイベントにするし、盛り上がるからな。空気感でも楽しもうかな」

 そういえば去年は恭平と大輔と三人で馬鹿騒ぎしたっけか。

 去年を思い出す。懐かしい。今も楽しいけど、あの頃も楽しかったな。


 「文化祭といえば、去年の三冠王は今年も出るのか?」

 去年の三冠王とは鵡川のことだ。

 文化祭のイベントとしておこなわれた「着物が似合う女子コンテスト一位」「山高水着コンテスト一位」「ミス山高」の三つのタイトルを獲得したことからきている。


 「どうだろ。去年は友達の推薦だったから、今年はでないと思う」

 「そうか。まぁ出たら去年と同じ結果になっちゃうだろうしな。鵡川可愛いし」

 「え!?」

 なんかめっちゃ驚かれた。

 しまった。無配慮すぎたか。いくら仲良くなっても所詮は男女だ。興味のない男から可愛いなんて言われて鵡川が嬉しいわけがない。これはドン引きされたか。


 「あ、ごめん」

 「う、ううん……」

 凄い気まずい空気が流れた。

 これなら恭平と同じクラスで勉強していたほうが、まだ気楽だった気がする。

 くそ、仲が良くなったせいで逆に距離感が掴めなくなった。あまり他人行儀なのも良くないが、岡倉や沙希みたいにバリバリ思ったことを口にできる相手というわけでもないし、凄く難しい関係だ。


 「あ! そういえば文化祭の出し物なにやるんだ?」

 こういうときは強引に話題を変えるに尽きる。

 別の話題で評価をあげていくしかない。


 「わ、私のクラスは……メイド喫茶……」

 「なに?」

 鵡川のメイド姿? ……良い、控えめに言おうとしても凄く良いとしか出てこない。想像だけで凄く良いのだから、実物はとんでもないぐらい良いはずだ。

 でもそんなことを口にしようものならダブルプレーでツーアウトだ。下手するとスリーアウト。もう鵡川がドン引いて近寄ってくれなくなるかもしれない。言葉選びは慎重に行こう。


 「そうなのか。てことは男子は裏でお仕事か」

 大輔たちは厨房とかで働くのだろうか。


 「ううん、男子も着るよメイド服」

 「……マジ?」

 「うん」

 マジかよ。大輔のメイド服とか絶対笑っちゃう自信あるわ。


 「佐倉君のほうはなにやるの?」

 「俺のところはー……」

 なんだっけ?


 「まー色々かな。色々」

 「雑貨屋さんみたいな感じ?」

 「うーん、まぁそう取ろうと思えば取れるし、取れないと思えば取れないかな」

 首をかしげている鵡川。


 「もしかして佐倉君、なにやるのか知らないの?」

 「そうだなぁ、世間一般的に言うならば、そうとも言えるかもしれない!」

 そういって爽やかに笑顔を見せてみる。

 俺の様子を見て鵡川はクスクスと笑った。


 「佐倉君らしいね」

 それは誉め言葉としてとるべきなのか? これが俺らしいって一体。



 こうして最後の鵡川とのテスト勉強が終わりを迎えた。


 「最後までありがとう鵡川」

 「いえいえ、良い点数になることを願ってるね」

 「あぁ、最低でも赤点全て回避したい」

 赤点でも1点2点程度足りないぐらいだったら、佐和ちゃんに土下座すれば許してもらえそうな気がする。

 とにもかくにも、やる事はやったし、できる限り良い得点を出すよう頑張らないとな。


 「鵡川のほうはテスト勉強進んでるのか?」

 「私は佐倉君に勉強を教えることで復習になってるから大丈夫。心配してくれてありがとう」

 ニコッと笑う鵡川。相変わらず笑顔が神々しい。そして俺に対する配慮も忘れない。まごうことなき女神、この世知辛い俗世に降臨した現人神(あらひとがみ)

 彼女を勝利の女神に据えて、我が守護神としてテスト試験の加護をもらいたいぐらいだ。


 「まぁお互い、高得点目指して頑張ろうな」

 「うん!」

 鵡川の高得点とはまさに100点満点だ。一方の俺はレッドライン越えが高得点だ。なんなんだこの差は。



 とりあえず正門のところまで一緒に並んで歩く。

 そして昇降口にて妹千春と美咲ちゃんに見つかった。


 「え? お兄ちゃ……え!?」

 俺を見るなり困惑する千春。

 そして鵡川と俺の顔を交互に見る。


 「どうしたマイシスター? 俺のイケメンフェイスに動揺したか?」

 「いや、どういうこと?」

 「どういうことって、そりゃあ我が父上と母上の遺伝子を受け継いでだな……」

 「お兄ちゃんの汚いツラの話じゃなくて、その隣! なんで鵡川先輩と並んで歩いてるの!?」

 千春が鵡川を指さしながら驚愕している。

 今、汚いツラって言ったな。もう絶対に許さないぞ千春。


 「俺が誰と並んで歩こうと勝手だろうが」

 「いや、ありえない。なんでお兄ちゃんと鵡川先輩が並んで歩けるわけ? ありえない!」

 何回ありえないというんだこいつは。


 「えっと佐倉君、この子は?」

 「あぁ俺の妹の佐倉千春。俺に似らず可愛いだろう?」

 困惑している鵡川に千春を紹介する。

 ちょっと兄馬鹿の一面を見せてしまった。


 「佐倉千春です。その、不出来な兄がお世話になっているそうで……」

 「千春ちゃんね。鵡川梓です。佐倉君と仲良くさせてもらってます」

 礼儀正しく自己紹介を始める千春と仲良くしていこうとする鵡川。

 どうやら一年の千春でも鵡川のことは知っているみたいだ。さすが学校一の美少女と呼び声高い完璧超人だ。


 「あ、あの佐倉先輩……」

 千春と鵡川が軽い会話をしているところで、美咲ちゃんが話しかけてきた。


 「どうした?」

 「えっと、その……鵡川先輩とは付き合ってるんですか?」

 美咲ちゃんは不安そうな顔を浮かべて小さな声で聞いてきた。

 そっか、この子俺に興味あるって前に言ってたな。だから不安そうにしているのか。


 「いいや、テスト勉強教えてもらってただけだよ」

 「そうなんですか。良かった」

 そういってホッと安堵の息をはいている。

 うーん、岡倉ほど子供っぽくないが、やはり後輩だけあり幼さを感じるなぁ。こういうのが年下好きのツボにはまるのだろうか。俺は年上のお姉さん属性なのでよく分からない。

 鵡川と会話をしながら恐縮している様子の千春。それにしても鵡川凄いな、一年からもビビられるぐらい噂されてるのか。


 「それじゃあ、これからも不出来な兄をよろしくお願いします」

 「いえいえ、こちらこそ佐倉君にはお世話になりっぱなしだから」

 頭をペコペコ下げる千春。お前は取引先にいるサラリーマンか何かか。

 そして頭を上げた千春が俺をキッと睨みつけた。


 「お兄ちゃん! くれぐれも鵡川先輩と交際とかしないでね! お兄ちゃんじゃ鵡川先輩と釣り合わないから!」

 「うっせ! お前のほうこそ須田とじゃ釣り合わねーんだよ! ターコターコ!」

 凄い子供っぽい悪口を言って、俺は千春たちの前から立ち去る。

 千春の罵声は無視だ。鵡川と並んで帰る。


 「妹さん、可愛かったね」

 「ふふっ、そうだろう? 自慢じゃないが、俺の妹は可愛いんだ。自慢になってしまったがな」

 妹を褒められてちょっと嬉しいお兄ちゃん。うん、俺はまごうことなき兄馬鹿だな。


 「佐倉君って結構妹思いなんだね」

 「まーお兄ちゃんだからな。憎まれ口叩かれようとも、嫌いにはなれないものさ」

 「なんていうか意外、佐倉君って結構兄弟とかに厳しそうなイメージあったから」

 「そうかぁ? 落胆したか?」

 俺ってそんな感じだろうか? いや確かに兄貴には厳しいな。

 大体、俺が妹自慢をするなんて滅多にないから、意外と言われたのは初めてだ。


 「ううん、むしろ佐倉君のこともっと……」

 ここで口の動きが止める鵡川。

 もっとなんだ? 何故そこで止める!?


 「もっと……見直したかな」

 言い直した鵡川は作り笑いをうかべた。

 うわ、この反応、絶対引かれてるわ。悲しい。

 でもまぁ鵡川との関係も今日で最後だ。明日からは放課後にテスト勉強なんてしないし、鵡川と喋る機会も減るだろう。

 また前のような関係に戻るだけの話だ。


 「そうか。それなら何よりだ」

 そう適当に流して、俺達は正門へと向かう。

 こうして、俺のテスト前の足掻きは終了となる。

 あとは明日からの中間テストを全力で挑むのみだ……!!

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