50話 恋のキューピッド大作戦②
時刻は過ぎ、放課後を迎える。
明日からテスト期間に入るので、今日から野球部の練習は休みとなっている。
そうして俺と大輔、恭平、哲也はB組でその時を待っていた。
今日は三浦が掃除当番。
三浦と同じ掃除当番の男子生徒は予想通り、仕事全てを三浦に押しつけて早々に教室を出て行ったと、恭平が話していた。やっぱり三浦は今日も一人で掃除当番か。可哀想に。掃除当番サボる奴はロクでもない奴しかいないな。
とにかく、いじめをする奴らが何かをするなら、今日がチャンスというべきだろう。一刻も早く大輔と三浦の仲を裂きたがってるだろうし。
「大輔、大丈夫?」
今から好きな子がいじめられている現場に行くんだ。哲也が心配するのもわかる。
だが、俺は大輔よりもいじめっ子どもを心配している。下手すりゃ、大輔の平手打ちで脳しんとう起こすぞ。
「大丈夫だ」
などと言ってる大輔だが、めっちゃ貧乏ゆすりしている。
どんだけ緊張してるんだお前。
そうして生徒が居なくなる頃を見計らって、C組へと歩みを進めた。
帰宅部、幽霊部員ばかりの我が校は、すぐに生徒が消えていく訳ではない。
長い奴らなんて1時間なんてザラで居残っている。掃除当番が掃除を終えても、居残っている奴がいたりすることもある。
つまり三浦は、掃除を終わらせてすぐ帰れば、いじめっ子どもにいじめられる事なんて無いだろう。
だが、こういうのは後が怖いというものだ。
今は逃げれても、いつか積もり積もった分の仕返しが来るかもしれないし、怯えて逃げられないかもしれない。
俺はいじめられた事がないし、誰かをいじめた事も無いから、いじめられっ子の心中も、いじめっ子の心中も、全てを察することはできない。
だが、今まで道徳教育で大人たちから教えられてきた事柄だけで言うならば、いじめは「ごめんなさい」で済むような問題じゃないという事だ。
もう生徒は完全に下校しただろうか。
さすがに明日からはテスト一週間前だし、いつもより早く帰るだろう。
少なくともC組には、三浦とそれを取り囲む数名の女子しか居なかった。
ドアを軽く開き、室内の声を盗み聞き、彼女たちから見えづらい位置で室内の様子を確認する。
「ねぇ三浦さん。最近三村君と仲良いみたいね」
オーケー感度良好。しっかり聞き取れる。
学校自体が生徒が減り静かなのも幸いした。一字一句聞き取れている。
「………」
ドアについている窓から教室内を盗み見る。
三浦は何も言わず、じっと口を閉じているようだ。
これから行われる事に絶望しているのだろうか? それとも我慢をしているのか? 不安で仕方がないのだろうか? 彼女を知らない俺には、今ひとつ判断できない。
三浦が黙っている中で、中心人物であろうC組の加太山林檎が、ここぞとばかりに暴言を浴びせまくる。
もう男の俺ですら、言うのもはばかれそうなぐらいにヤバい言葉をぶつける。もう放送禁止用語バリバリ放ちまくってる。お前本当に女子か? 俺の知る女子は、もうちょい清楚で可憐なイメージだぞ?
隣でその光景を隠れて見ている大輔の体がプルプルと震えている。怒りを堪えているのだろうか? 無理はないか。好きな人が、目の前で馬鹿にされているんだ。怒るのも無理はない。
大輔の隣の恭平も何故かプルプル震えているが、あっちはどうせろくでもない理由だろう。放っておこう。
さて、ここで飛び出すか? いや、まだだ。
ここで飛び出してもインパクトに欠ける。
ヒーローってのは、ピンチで登場するもんだ。
「あんたみたいな奴が、三村君と話すな! 明日から声をかけられても無視しろ! これは命令よ! 逆らったらどうなるか分かってるでしょう?」
最後に加太山が強く三浦に言いつける。
一年の頃も加太山は三浦をいじめるグループにいた。結局いじめは暴露され、教師の指導が行われ、グループのリーダー格は二年に上がる前に退学や転校をしている。残っているのは加太山ぐらいだ。
さて、罵声を浴びせられ、最後には話しかけるなと言われた三浦。ずっと沈黙を続けていたが、ゆっくりと回答を口にした。
「……私は、馬鹿にされても良いです。なにをされても我慢できます。……でも三村君を無視だけはできません」
彼女は優しい口調ながらも強い意志のこもった声で、しっかりといじめる女子たちに告げた。
無視できないだと? どういう事だ?
思わず俺と哲也は顔を見合わせていた。
「はぁ? 逆らうつもり?」
「ごめんなさい、これだけは無理です。私、一年の頃から三村君の事が好きだったんです」
なん……だと……!?
大輔を見る。顔がぽかんとしている。無理もない。なんたって一年の頃から好きだった女子と実は相思相愛だったんだ。
こりゃ、とんだラブストーリーになっちまったな。
クソ、なんだ? なんだかすごく、ムカムカしてきた。何故だ。何故ムカムカしているんだ俺は。ここは素直に祝福すべきだろうに。
哲也なんかどこか嬉しそうに大輔の肩を軽くたたいている。普通はそうだ。もっと喜ぶべきだろう。
「いつも明るくて、みんなから頼りにされて、どんな嫌なことでも笑って吹き飛ばしてくれて、常識にも囚われない三村君は、私にとって高嶺の花っていうか……私とは正反対な性格で、憧れの存在だったんです」
まぁ確かに、大輔は小さい事気にしないし、嫌なことがあっても不機嫌にならない。
それに授業中にマイ枕使って寝るほどの図々しさから、弁当は常人の二倍三倍もデカさを誇る。確かにここまで常識に縛られていないと、見ているだけで笑えてくるし、元気をもらえるのかもしれないな。
「そんな憧れの人が、最近私に話しかけてきてくれたんです。三村君の声を聞いていると、どんなに辛い事があっても気持ちが和らぐんです。彼の傍に居ると、安心できるんです。だから……私の安心できる場所までは、奪わないでください。お願いします」
そう言って彼女は加太山へと深々と頭を下げた。
大輔を見る。うわ、めっちゃ顔赤い。
好きな子にあそこまで高評価されちゃったら、そりゃ顔も赤くなるか。
なんだ、大輔がめっちゃ恋愛している。すごい……ムカムカしてしまう。
何故だ。何故俺は恋愛をしていないんだ。
いや野球あるから良いんだけど、目の前でこんなクソ甘ったるいラブストーリー見せられちゃうと、俺だってラブストーリーしたくなっちゃうって。
ムカムカしながら加太山を見る。加太山もめっちゃムカムカしいるようだ。
そら、こんな甘ったるいラブストーリー見せられたら、どうしようもなくムカムカするわな。
「分かった。あなたの気持ちは分かった。三村君と話すためならなんでも我慢するのよね?」
「……はい」
「そう、じゃあこれ我慢出来るかしらね」
そう言って彼女は自分のバッグから「ある物」を取り出した。
「うわっ……」
バッグから取り出した物を見た瞬間、思わず声が出てしまった。
それはいわゆる……男の象徴の形を模した、マッサージ器のように震える物だ。まぁ要するに卑猥なマッサージ器ですよ。マッサージといってもえげつない動きをしますけどね。
「いや、おかしいだろう」
小声でぼやく。なんで、あんなもの持ってるんだあいつ!? どう考えてもダメだろう!? 校則違反とかそういうレベルの問題じゃないだろう!? なに考えてるんだあいつは!?
てかどこのエロゲーだよ。なんだよこの展開、ここはビンタとか暴行に発展するんじゃないのかよ!?
やばい、想定外の展開過ぎて、いくら俺でも動揺している。マジで何を考えてるんだ加太山。分からない。俺には加太山の考えてる事が分からないよぉ……。
「なに……バイブレーターだと……。けしからん奴め、俺が、お前に使ってやる……」
と小声で恭平が興奮してる。
まずい。恭平と加太山を組み合わせたらまずい。ビッグバンが起きるほどにまずい。なんて最悪のタッグだ。
三浦の様子をうかがう。なんかキョトンとしている。あれがなんなのか良く分かっていないっぽい。岡倉かお前は。
「これは純粋なあなたには分からないわよね? これをね……」
そう凄く濃厚に説明を始める加太山。
聞いてる俺、めっちゃドン引き。さすがに変態の俺でもドン引きだ。哲也も大輔もガチで引いている。恭平だけが元気になってきた。
三浦も濃厚な説明を聞いて理解したようで顔を真っ赤にしている。その姿がちょっと可愛く見えた。
ここで三浦が他の女子に腕を掴まれ、身動き取れない状態となった。
「お、おぉ……」
吐息を漏らしながら鼻息を荒くする恭平。
お前、趣旨忘れてないか?
「クソ、大輔の好きな子じゃなかったら、事が終わるまで見てるのに……クソ……クソ……!」
めっちゃ小声で悔しがる恭平。
ダメだ。卑猥なおもちゃを見て恭平が元気になってる。これはまずい兆候だ。
「これを使ってるところ写真で撮って学校中に拡散してあげる。三村君にも届くと良いわね」
しかしこの加太山、ノリノリである。
いや、マジでお前の台詞、恭平から貸してもらったエロ漫画に書いてあったぞ。それぐらいのエロ漫画の定型文だぞ。
ここで大輔を見る。さっきまでドン引きしてる表情だったが、すでに怒りが再加熱しているようで、今にも飛び出しそうだ。
うん、そろそろ頃合いだろう。確かにこの後ちょっと気になるけど、さすがに恭平レベルまで落ちたくはない。
「汚れたあなたを映した写真を見て、彼が好きになるのかしらね? あんたみたいな女。死んじゃえばいいのよ」
教科書通りの煽り発言ありがとう。
大輔の怒りの起爆剤にはぴったりだ。
さぁいけ大輔号。お前の怒りを爆発させたれ。
ついに大輔がぶち切れ、ドアを勢い良く蹴り飛ばして入室。
うそーん。お前そこはガラッと開けようぜ。
勢いよく蹴り飛ばされたドアは大きな音をたて床に倒れた。ドアのガラスは割れていない。よかった。窓割ってたら、間違いなく器物破損で停学処分受けてたわ。
「ふざけんな!! 三浦が死んでいいわけないだろうが!!」
そして大輔の怒号が教室に響いた。
大輔の登場に、教室内にいた一同が驚いている。
そこに俺達は意気揚々と入場する。
「み、三村君……」
三浦が驚いた顔を浮かべながら大輔を見ている。
もちろんチーム加太山の皆さんも、こちらを呆気に取られた顔をして見ている。
「やぁやぁ皆さん。お待ちかねの正義のヒーローのご登場だ。あいにく正義のヒーローは、遅れてやってくるってのが相場で決まってるものでね。待たせて悪いな! 俺はリーダーのイケメンイエローこと佐倉英雄!」
軽い調子で自己紹介を始める俺たち。
「百合プレイなんざ、画面の向こうだけで十分だぜ! いつも脳内はピンクの嘉村恭平様だ!」
俺の軽口に合わせて恭平も自己紹介をする。
画面の向こうで十分とか言っておきながらも、鼻息荒くして興奮している恭平。万年発情期の犬かお前は。
「いじめはよくないよ。こんな事許されるものじゃない…!」
「そう語るは我らの参謀、クールでナイスガイの冷静ブルー野上哲也君だ」
ムスッとしている哲也の紹介もしていく俺。
「んで、最後は……。恋の炎に燃え滾る、我らのヒーロー、男前レッド三村大輔だ」
俺は最後に大輔の紹介をして不敵な笑みを浮かべる。
「加太山ぁ。俺の親友の好きな子をいじめた事、覚悟しろよ」
そう加太山に向けて言葉を放つ。
彼女はバツが悪そうに俺をにらみつけた。
言葉を失うチーム加太山と三浦。
その中で大輔が一歩前へと踏み出し、深く頭を下げた。
「すまなかったな三浦。俺はずっと、お前がいじめられてるのを知ってたのに、助けてやれなれなかった……。だけど、これからは……俺が絶対にお前を守る! 俺はお前のことが好きだ!」
そう大輔は下げた頭を上げると、今度は三浦の目をジッと見つめたまま力強い言葉で告白した。
なんとも男らしい告白に三浦は顔を真っ赤にしたまま「は、はい……」と小声で返事を返す。
あまりにもクサイ台詞に俺まで恥ずかしくなり、後頭部をポリポリと掻いた。
「わお、大胆だなお前。まぁお前らしいけどさ。それでどうするのよ加太山さん? あんたの好きな人、いじめてる子に取られちゃったよ?」
目の前で好きな男子の告白を見せつけられた加太山は俯いて震えている。
うん、俺だったら多分精神的ショックで引きこもると思う。
「……るさいわよ……」
「あっ?」
加太山は俯きながら、なにかを呟いた。
まず右手に持ってるその卑猥なマッサージ器を置こうな?
「うるさいって言ってんのよ!! なんで私じゃなくて、こんなのが選ばれるわけ!! こんな根暗で、いつも陰気くさくて、本ばっか読んでるようなゴミクズみたいな女のどこが良いのよ!!」
そう怒鳴り散らす加太山。本性丸出しだ。見ていて逆に清々するほどのクズっぷりだ。
俺はわざとらしく深いため息を吐いてからのろりと歩きだし、彼女の前へと向かい、右手で彼女の左頬を勢い良く叩いた。
パチンッ!
と乾いた音が教室に響き、室内は静まり返った。
「悪い。さすがにお前……ウザすぎだわ」
そうして無意識に出た声。
自分でも驚く程に冷たい声だった。
「思い通りに行かないからって馬鹿みたいにわめいて、挙句の果てには、大輔の好きな子をゴミクズ呼ばわりだぁ? いいかよく聞け。お前は、お前の言うゴミクズに負けたんだ。つまりお前はゴミクズに負けたゴミクズ以下って事だ」
自分で言った言葉が、自分の首を絞めている。
まさに頭の悪い状態だ。
「ゴミクズ以下の奴はなんて呼べばいいんだろうなぁ。その足りない脳みそで考えてくれよ」
さらに追い打ちをかけるように俺は彼女に言って鼻で笑っていた。
ここまで無意識のうちに出た言葉だ。
おそらく俺は今、めっちゃブチギレているのだろう。それにしてもなんとも冷たい言葉を考え出る脳みそだ。良い性格をしてないな俺。
「人をゴミクズ呼ばわりするような奴が、大輔を振り向かせようなんて、1億と2千年早いぞ。異世界転生してから出直してこい」
そう俺が口にする。
叩かれた頬を押さえながら加太山が俺を睨みつける。
「佐倉、私を叩いたって事は女子を敵に回したって事だからね」
怒りのこもった目で俺を睨みつけながら、怒りに震えた声で宣言してくる。
それを聞いて俺は腹を抱えて笑うところだった。
なんだその脅し文句は?
「俺の女子の評価はすでに地の底だから、その脅しは効かねーよバーカ」
どっかの誰かさんのせいでなぁ!
ニヤリと笑う俺を睨む加太山。ここで彼女の下僕的な女子たちが、彼女を連れて行く。
そして教室には、俺達と三浦だけが残った。
「英雄、ありがとう」
大輔は嬉しそうに微笑みながら、俺に感謝をしてきた。
そして頭も下げようとしてきたので、それを俺は手で制した。
「頭下げんな大輔。これはお前の為じゃない。俺がむしゃくしゃしてやったんだ。後悔はしていない。それに……」
俺は一度、まだ事態を理解しきれていない三浦へと視線を向ける。
「俺に感謝するより先に、三浦に言わないといけないだろう? 色々とさ」
そう俺は、頭を下げようとしていた大輔に言って口元を綻ばす。
俺の笑みを見て、大輔も嬉しそうに笑った。
ここからは俺たちはいらない。あとは大輔と三浦の問題だ。
恭平と哲也と共に教室を後にした。
きっと大輔と三浦はハッピーエンドで終わるだろう。
むしろハッピーエンドじゃないと困る。こういうコテコテのラブストーリーの結末は、ハッピーエンドってのが相場で決まってるからな。
なにより恋のキューピッドなんていう柄でもない事をしたんだ。ハッピーエンドで終わってくれないと骨折り損だ。加太山を敵に回してまでビンタした事も、あんなクサいセリフを吐いたことも、全て無駄になってしまう。
まぁ俺達はやれるだけの事をやったんだ。後は、あいつら次第だ。
「てか英雄、さっき格好良かったぞ!」
「あぁ? なにが?」
帰り道、恭平がめっちゃ笑顔を浮かべている。
「だから加太山をぶっ叩いた時! 思わず惚れそうになった! てか、俺を抱いても良いぞ!」
「ざけんな。野郎を抱く趣味はねぇ!」
「当たり前だ! 俺だって英雄なんか抱きたくねぇ!」
そういっていつものノリで、吐くようなポーズをして「うげぇ!」からの「イエーイ」のハイタッチ。
普段は呆れる哲也だが、今回ばかりは微笑みを浮かべて笑っていた。
「でも英雄いいの? 加太山さんの言ってたとおり、女子敵に回しちゃったよ?」
哲也の質問。
彼の言うとおり、俺は明日から女子の大部分を敵に回すことになるだろう。
あいつはいじめっ子ではあるが、女子のリーダー格の一人だ。彼女の呼応に従う女子も多いことだろう。だが……。
「それがどうした? 俺はすでに女子から嫌われまくってるからな。今更すぎるぜ」
そういって歯を見せて笑ってみせた。どっかの誰かさんのせいで、俺の評価は地に落ちてるからな。
哲也は俺の回答を聞いて、どこか嬉しそうに笑った。
「そうだね。英雄と恭平、嫌われてたもんね」
笑顔でえげつない事を口にする哲也。いくら親友のてっちゃんであろうとさすがに容赦しないからな?
「何故そこで俺の名前をあげる哲也! 俺は英雄と違って嫌われてないぞ!」
どこの口が言うか恭平。
大体7、8割ぐらいは、てめぇのせいで俺の女子の評価が酷くなってんだぞ?
などといつものようなくだらない雑談をしながら、俺と恭平、哲也3人は夕焼けで赤く染まった道を歩いて帰るのだった。
翌朝、学校に登校するなり、大輔が俺の椅子に座っていた。
「うっす!」
「おぉ、昨日あのあとどうだった?」
「無事に付き合うことになった。ありがとう英雄」
無事交際開始か。良かった。
加太山が卑猥なマッサージ器を取り出した時は、どうなるかと思ったが、なんとか大団円で終わりそうだな。
「別に感謝される事はしてねぇよ」
「いや、お前があそこでスパッと言ってくれたおかげで、あいつらも諦めてくれたと思う。だから改めてありがとう」
「だからあれはむしゃくしゃしてやっただけだし……」
「お前がむしゃくしゃしてやったとしても、俺はお前に感謝をしたい。ありがとう」
何度も感謝をする大輔。なんだか照れくさい。
別になにかが欲しくてやったわけではない。こいつの幸せそうな顔を見るだけで満足だよ俺は。
「じゃあ昼休みに購買の唐揚げおごってくれ」
「おぅ! それぐらいお安い御用だ!」
なんて思えない俺は、結局、購買の唐揚げ(400円)を買ってもらったのだった。
こうしてらしくない恋のキューピッド大作戦は大成功に終わった。
これは野球にまみれる青春の中で数少ない色恋沙汰の思い出になる事だろう。数年後、数十年後、またみんなと会ったときに話題に上がる事だろう。
さてさて、これで重荷が一つ肩から下りた。学生の青春。野球、恋愛ときたら次は勉強だ。明日からテスト期間、真面目に勉強頑張っていこう。




