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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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49話 恋のキューピッド大作戦①

 数日が経過した。

 今日も俺は機嫌が良い。沙希に勉強を教えてもらえるということで、生存確率が高まったからだ。

 そんな中で俺や恭平、大輔を始めとした選ばれし野郎どもが、昼休みに一教室に集まってある作戦会議を始めた。


 修学旅行で好きな子を暴露をしたあの夜、10名の男達はそれぞれが狙う女子へと歩み始めた。

 すでに連絡先を入手した奴や、初デートをした奴、中にはすでに交際にまで発展している奴もいる。

 現在、交際にまで発展した奴とデートした奴がそれぞれ1名、連絡先入手が3名と、哲也、誉、恭平、大輔、俺を除く5名は、今のところ順調に行っている。

 それもこれも我ら10名の連携プレイのおかげとも言えるし、俺らに後押しされて勇気を振り絞った本人のおかげとも言える。


 そして今回、ついに野球部の大輔の目標攻略を開始する。

 大輔の好きな子は、C組の三浦里奈(みうらりな)と言う女の子だ。


 漫画研究部の部長だが、漫画を読んでいる姿はあまり見ない。どちらかというと小説を読んでいるイメージ。

 どちらにせよクラスでは大人しい系の女の子だ。

 いじめられてそうな雰囲気を醸し出しており、現に一年の頃はいじめられていた。

 凄く地味だし目立たない。あの女大好き恭平ですら「地味すぎて顔がなかなか出てこない」と言われるぐらい地味だ。


 しかし大輔は彼女が好きらしい。

 大輔曰く「助けてあげたくなる」との事。さすが兄貴肌の大輔だ。

 まぁこいつが彼氏になれば、そこらへんのチンピラじゃ、手を出せないだろうなぁ。


 だが大輔は三浦と会話した事がない。もちろん三浦もだ。

 何故、そんな子を大輔が好きになったかと言うと、一年生の頃、放課後に一人で掃除を真面目にしていた三浦を見て、どんなにいじめられても、健気に頑張る姿に胸を打たれたらしい。あと顔もタイプらしい。

 しかし、あの食事馬鹿で、花より団子を地に行き、食事以外はなんも考えてなさそうな大輔にすら好きな人が居て、その子と付き合うために頑張ろうとしているのに、俺と言う奴は……。



 さてどうするか、と言うところで、とりあえず昼食場所を我がクラスから恭平のクラスでもあり、三浦のクラスでもあるC組に移動することが決定した。

 そこから少しづつ、三浦さんとの会話のきっかけを作ろうという戦法だ。

 とりあえず大雑把な作戦内容はできた。今回の作戦は10人全員でかかるのではなく、俺と哲也、恭平の親友3人で作戦を展開していく。

 

 問題は起きないような作戦を組んだが、なにが起こるかは分からない。

 一番の問題は大輔の女子からの人気だ。

 大輔は俺や恭平とつるんでるくせに、女子からの人気は高い。顔は男前って感じで普通に格好いいし、性格も男らしいといえば男らしい。またちょっと抜けているところがグッと来るみたい。

 なので、大輔のことを好意的に思う女子がたくさんいるわけだ。


 そこでもし三浦と大輔が仲良くなっているのを、大輔の事が好きな女子にバレると、最悪三浦がいじめられる可能性があるわけだ。

 そういう問題が発生しないよう。慎重に事を進める必要がある。



 そして、作戦が決まった翌日の昼休み。

 最初の知り合うきっかけを作る戦術について話そう。

 作戦コードネームは恭平命名「ボール爆撃」である。


 まずは俺達で野球談義で盛り上がる。そして恭平の鞄からボールを取り出し、それを用いて話し合う。

 そこで三浦の席にボールを転がし、大輔に取りに行かせると言うもの。

 馬鹿らしい作戦だろう? 馬鹿しかいないから仕方ないさ。



 と言うわけで決行。

 俺と哲也、大輔が真剣に議論する。特に大輔とは、バッティングでのインコースの変化球のさばき方について熱く語る。

 あまりにも熱く語りすぎて、本来の趣旨を忘れてしまうぐらいにだ。


 どう、さばくかと言うところで、恭平の鞄から硬球を取り出し、俺がボールを左手で握ったまま、バットを構えている振りをする大輔に向ける。

 それを大輔が、スイングするふりをして自分の右手を、俺の左手に当てる。そこでわざと離し、三浦のもとへと転がす。上手いぞ大輔!  演技派だ!


 コロコロとボールは転がり、三浦の机に当たった。

 本を読んでいた三浦は顔をあげて、机の下に落ちている硬球を拾う。予定通り行動してくれた。まぁ彼女が無視して本を読むという可能性はないからこそ、この作戦にしたわけだがな。

 彼女はいじめられているし、地味だし影も薄いが、優しい子だ。それは大輔の口から語られている以上、事実として受け止めるしかない。

 硬球を手にした三浦は不思議そうに首を傾げてから、俺たちの方へと向いた。

 行け大輔号、取りにいけ。 


 「あぁすまん。ありがとう三浦」

 そういって大輔が三浦へと歩み寄る。

 彼女はきょとんとした顔を浮かべたあと大輔に手渡しする。


 「そこは里奈、だろうが」

 小声で恭平がぼやいている。いや、さすがに普段会話してない男子から下の名前で呼ばれるとか怖すぎだろう。恭平、お前そういうところだぞ。


 三浦からボールを受け取る大輔。

 二人の間に別段会話はなかった。三浦はボールを渡すと、すぐさま自分が読む本へと視線を移した。

 まぁ初日なら上出来だろう。


 戻ってくる大輔の顔を見る。

 今まで見たことがないような笑顔を浮かべている。うわ、マジかよ。大輔でもあんな緩々の笑顔を浮かべるのかよ。


 「あぁ、やべぇ緊張した」

 ボソリと呟く大輔。

 チャンスの場面で打席に入ってもケロッとしている大輔が緊張するとは……。三浦やべぇなあいつ。


 だが上々の立ち上がりだ。

 この調子で、どんどんきっかけを作っていこう。



 翌日の昼休み。

 今日も大輔は三浦に攻めていく。

 今回の作戦は俺たちの位置を三浦の席に近づかせ、俺たちの会話中、大輔が三浦に話を振るというもの。

 とりあえず、酢豚にパイナップルはいれるかどうかで議論を白熱させる。

 パイナポー入れる派の哲也と、パイナポー入れない派の俺が激論を繰り広げる。大輔はどっち入れても美味い派で、恭平に至っては「酢豚よりもチャイナ服の女の子ってエロくね!?」とか意味わかんないことを口にした挙句、一人で興奮し始めたので、仕方がなく俺と哲也で白熱した議論を繰り広げる。


 そこで大輔号が三浦に話を振ってみる。


 「三浦さんは、酢豚にパイナップル入れる?」

 自然な感じで三浦に聞く大輔。

 話を振られると思ってなかった三浦は慌てている様子。あ、この慌ててる姿ちょっと可愛いかも。うん、大輔が惚れるのも分からんでもないな。


 「わ、私は……入れません……」

 マジかよ。三浦分かってるなぁ。俺とお友達にならないか?

 てか、こんなくだらない質問に答えてくれるとか、優しすぎるだろ三浦。

 ここから大輔が三浦と会話に発展させていく。

 大輔が話すのは好きな料理の話題。お前、本当食事が好きすぎるだろう。三浦から好きな料理とかそういう話を聞いて同意したりしている。


 もうね。見てて「大輔がっつきすぎ」とツッコミを入れたくなるくらい話している。

 自分の好きな読書を中断されているのに、三浦はしっかりと返答している。やはり大輔の言う通り、彼女は優しくて良い子なのかもしれない。

 いや、酢豚にパイナップルを入れない奴に悪い奴はいないし当然か。


 哲也と議論を交わしながら、大輔と三浦の様子をうかがう。

 うん、彼女の様子を見れば見るほど、大輔の言っていた優しいという評価が納得できる。

 なんたって、ほぼ初対面のような相手に自分の趣味の読書を邪魔され、馬鹿みたいな話題で話しかけられているのに、 しっかりと受け応えしている。笑う顔だって、どうみても作り笑いには見えない。こんなの普通の人間じゃ、中々できない(わざ)だ。

 馬鹿か天然か、超絶優しいか。それぐらいの奴にしかできないことだろう。


 だが大丈夫なのだろうか?

 もしこれで彼女のいじめが再発したら……。


 「その時は、俺達で彼女を守ろうぜ」

 小声で恭平がつぶやき満面の笑みを浮かべた。

 表情に出ていたかな? しかし恭平に心を読まれるなんてな。

 それに意外と良い事を言うじゃないか恭平。少しは見直したぞ。


 「そして、そんな俺を見て恋をする女子ども。うおぉぉぉぉ! 最高じゃないか!!」

 そう言って今日二度目の暴走をし始める恭平。

 俺の見当違いか。お前を見直したのは間違いだったよ。



 さらに翌日、大輔はまたも三浦と話す。

 今回は俺たちから離れ二人で話をしている。一応、もうちょい話題振る作戦をやろうと思っていたのだが、大輔が「今日からは二人で話してみたい」とわがまま言ったので、こうして二人にさせている。

 しかし今日は三浦からも大輔に話題をもちかけているようだ。


 大輔は食い物の話題や野球の話題。三浦のほうは本の話題を提供しているようで、お互いがお互いの趣味を否定する事もなく、むしろ受け入れているようだ。

 たった三日でここまで仲良くなれるのか。

 両者の人柄故か、それとも相思相愛だったか。


 三浦は大輔の良さに気付いたのかもしれない。大輔を一言でいえばとても良い奴だ。

 食事馬鹿なところを除けば、面倒見の良い頼れる兄貴のような性格だし、食事中と眠い時以外なら普通にノリも良い。

 遠くから二人を見ていると、お似合いカップルに見えてくる。なんだか大輔が羨ましくなる。俺もあんな性格の良い子とイチャイチャしたいなぁ。

 笑顔で談笑する二人を見ていた俺だが、一度辺りを見回した。


 ……いた。三浦と大輔の二人を睨みつける女子。

 あいつは確か、去年も三浦をいじめていた奴だな。


 「お? ついに俺らの出番か? もちろん、大輔の好きな子をいじめるような女には、お仕置きが必要だよな?」

 そう言ってニヤニヤする恭平。なんて下卑た笑みをしているんだお前は。

 言葉の節々からもいやらしさがにじみ出ている。

 ここまでお仕置きという言葉を卑猥な意味にしか感じさせない男はいないだろう。


 「まぁなんにしても、今日が勝負かな。最悪、女子の顔を叩く事になるかもな」

 「大丈夫大丈夫。俺のサディズムが、熱く燃えたぎるぜ!」

 完璧に卑猥な事しか考えてない恭平。

 問題起こさなきゃいいけどなぁ。


 「英雄は、女の子の顔を叩けるの?」

 一人で興奮し悶絶し始めた恭平を無視しながら哲也が質問してくる。

 俺は一度考えてから、口を開いた。


 「相手が誰であろうと、大輔の好きな子をいじめようとするなら容赦はしない。それに三浦は良い子じゃないか。そんな子がいじめられてるのなら、俺は全身全霊でいじめを止めさせてやる」

 そう俺は自分の意見を言う。

 俺の仲間に関する奴らは、みんな助ける対象だ。俺はそういう男でありたい。


 「英雄らしいね」

 そう哲也は一言言うと、子供っぽい幼さを残した笑顔を見せた。

 何度も見てきた哲也の笑顔。きっとこいつも、友人の好きな子のためなら女子に手をあげるタイプだろうな。


 そうして時刻は放課後へと進んでいく。

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