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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
1章 佐倉英雄、二年目の夏
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4話 デンジャラスモンスター

 教室を後にした俺と誉は馬鹿話に花を咲かせながら、昇降口へと向かった。


 「あっお兄ちゃん」

 昇降口で偶然、妹の千春(ちはる)と出会う。

 うむ、相も変わらず可愛いすぎる妹だ。


 「よぉ、相変わらず可愛いな千春。さすが俺の妹だ」

 「キモッ」

 その一言で俺の発言切り捨てるのやめてくれます? 俺結構豆腐メンタルなんだから、地味に深い傷ついてるんだからね? もう一人の妹恵那(えな)はそういう汚い言葉使わないぞ? もうちっと見習えお前は。

 でも妹の発言だから許せてしまう。きっと俺は世にいうシスコンという奴なんだろう。否定はできない。


 「ふふ、相変わらずツンデレだな千春は。で、帰りか?」

 これ以上のシスコン発言はマジでドン引きされそうなので、話題を変えておく。


 「うん、お兄ちゃんも?」

 「もちろん。そうだ一緒に帰るか?」

 「ごめん、一緒に歩きたくないから無理」

 だから、もうちょいオブラートに包んでくれよ妹よ。

 っとここで千春の後ろにいる可愛らしい女の子が目に入った。


 「ん? なんだ友達といたのか。悪いな引き止めて」

 「ううん。あ、そうだ紹介するね。同じクラスで友達の倉崎美咲(くらさきみさき)ちゃん」

 そういって紹介する千春。

 何故ここで紹介したのかが理解できないが、紹介された子を見る。


 「倉崎……美咲です……。よろしくお願いします」

 そういって頭を下げる千春の友人。

 ふむ、中々のべっぴんさんだ。こういう女の子が応援に来てくれるなら張り切れるというものだ。しかし年下というのが残念だ。いや、別に年下が嫌いなわけじゃないけど。


 「倉崎さんね、俺は千春の兄の佐倉英雄って言います。ハンサムで最高に格好いい英雄先輩と呼んでくれ」

 自己紹介をして、ニコッと笑ってみせる。

 俺の自己紹介に困惑しているのか、倉崎さんから返答はない。


 「略して「むさい英雄先輩」だな」

 隣に立つ誉が俺のさっきの発言に茶々を入れる。

 誉、あとで覚悟しとけよ。


 「ね? 美咲ちゃん、ろくでもないでしょ?」

 と千春が呆れたような顔を浮かべて倉崎さんに聞く。

 なんだその、普段から俺の事を陰ながらにけなしてるような言い草は?


 「じゃあ倉崎さん、これからも馬鹿でアホでろくでなしの千春をよろしく頼むよ」

 ガキみたいな罵倒をしてから、誉と二人でその場をあとにする。

 後ろから聞こえる千春の罵詈雑言を聞き流しながら、俺と誉は昇降口を後にした。



 「倉崎さん可愛かったな」

 「だな」

 「だが鵡川には数百万倍及ばなかったがな」

 学校最強の美少女の二つ名を持つ鵡川と比べるな誉。ってか、お前から見たらテレビの向こうのアイドルですら鵡川を前にすれば霞んで見えるんだろうが。

 恋は盲目というが、いざその言葉を体現する男を目にすると、同情すら湧いてしまう。


 しかし、せっかくなら倉崎さんと歩いて帰りたかったなぁ。

 なんだって野郎二人で帰らなきゃいけないんだ。恋愛ゲームで高校生活を勉強した俺からしてみれば、こんなのは正しい高校生活じゃない。


 「なぁ誉」

 「なんだ英雄?」

 「死にたくなった」

 「お前らしいな」

 誉の穏やかに笑う顔を見て、さらに虚しくなった。

 大体なんでこれが俺らしいんだ。誉でも容赦しないぞ?


 「それより帰りにラーメン屋寄る?」

 「悪い、今日の晩飯は珍しくカレーなんだ」

 今日は、佐倉家恒例月に一度のカレーの日だ。母上殿はカレーライスを作るのがたいそう上手なのだが、面倒だからとか、あまりカレーを作るのは好きじゃないとか言って作りたがらない。だからこういう日は重宝したい。

 「残念だ」などと言う誉と並んで歩き、正門を後にした。



 「あれっ? 岡倉(おかくら)さんじゃまいか」

 ふと歩いていると目の前からこちらに向かってきている女子に気づき、声を掛けた。

 岡倉美奈(おかくらみな)。一年の頃に酢豚にパイナップルを入れるか入れないかで昼休みを潰した仲だ。

 ちなみに俺は入れない派だ。家族は全員入れる派なので、家の酢豚は食いたくなかったりする。

 話を戻すがこの女、とんでもなくふわふわした性格である。いわゆる天然。しかも人工的に作られた天然ではなく、まさに生まれ持った天性の天然だ。

 どれくらい天然かと言うと、自己紹介の時に頭を下げすぎて机にぶつけたりとか、話している最中に急にあらぬ方向に話題が飛んでいったりと、マジで化け物クラスの天然だ。こいつと一緒にいると知能指数が低下していく気がしてならない。

 しかも自分は天然じゃないと否定する。ここまで筋金入りの天然だと、可愛いを通り越して危険な性格をしている。


 「あぁ(ひで)ちゃんじゃん!」

 俺を英ちゃんなどと言うあだ名で呼ぶのはこいつぐらいだ。

 彼女の手に持っているビニール袋を確認する。おそらく部員への差し入れだろう。

 岡倉は野球部のマネージャーだ。中学は選手として野球部に入部していたらしい。


 「大会前なのにマネージャーがサボりっすか! さすが岡倉さんっす! マジパネッす!」

 「そんなわけないでしょ。部のみんなにアイスを買ってきたの。今日も暑いし、これからも暗くなっても練習だし」

 そういって彼女がみせたのは「キャラメルアイス リッチWトリプルキャラメル味」と書かれた商品。

 前に一度食べたことがあるが、アイスというよりキャラメルを食べているような気分になる商品だ。はっきり言って、吐き気を催すほど疲れきった状態の時には食べたくない代物。


 「お前、大物なのな」

 「え? そぉ? 何か嬉しい」

 そう言って岡倉はえへへと笑う。その笑顔に幾人の男が騙されたか。こいつの話だと入学してから現在までに10人以上の男子からお付き合いを申し込まれたらしい。

 だが全て「今は野球部が大事だから」と言って断っている。鵡川梓に負けず劣らずの男キラーだ。俺は騙されんぞ。

 ちなみに俺が大物と言ったのは、厳しい練習で吐き気すら感じるほど疲れてる中で、こんなアイスを食う気になれないから、こんな物を買ってくるなんてとんでもない奴だなっていう意味である。まぁ山田高校のレベルならそこまで厳しい練習はしていないだろうけど。


 「英ちゃんも野球やれば良いのに。今なら可愛いマネージャー付きだよ?」

 「悪いが女のために野球をやる気はない。焼肉をおごってくれるなら考えてやってもいい」

 「焼肉かー。私はカルビが食べたいなー」

 ほら来たよ。今野球部の話してるのに急に焼肉の話に変わりやがった。

 マジでこいつと話してると、頭が悪くなっていきそうな気がする。


 「俺はハラミかな。それじゃあ部活頑張れよ岡倉! あばよ!」

 「あぁうん! またね!」

 そういって小さく手を振る岡倉。

 こいつの対応策はとにかく話を広げないことだ。話せば話すほどに頭の知能指数が低下していく以上、やばいと思ったらすぐ話を打ち切るべきだ。

 ニコニコ笑う岡倉の横を通り過ぎて俺と誉は並んで歩く。


 「相変わらず岡倉やべぇな」

 誉も驚く程の天然っぷりを発揮した岡倉。

 去年一年間、あいつとそれなりに関わったが、とにかくやばい。

 それでもあの性格が良いと言う男どももいるし、岡倉は本当やばい。


 そういえば岡倉のせいで野球部がどこの学校と試合するのか聞くの忘れてしまった。

 強豪とかだったら出場したくないなぁ。

 ……とか言いつつも、野球選手としての俺が強豪を所望している。胸がざわついて、闘争心がにじみ出てくる。

 一つため息を吐いて、胸の内の闘争心を消し捨てる。まぁいいや。これは明日にでも哲也辺りに聞いてみよう。

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