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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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46話 ワクワク修学旅行⑤

 修学旅行最終日。

 今日は首里城を見てから、国際通りで土産を買い、飛行機で帰路へとつく。


 本日の朝飯、昨日と変わっていない。

 っと思ったらゴーヤーチャンプルーがあった。

 何故最終日だけ? もしかして大輔のわがままがシェフの耳に届いたのか? まぁそこらへんは置いといて、沖縄の郷土料理だ。食べていこう。

 味は……独特な苦味があるがクセになりそうな味だ。美味い。


 「ゴーヤーチャンプルうめぇ! さすが沖縄!」

 なんか大輔の嬉しそうな声が聞こえた。

 本当、飯食うの好きなんだなあいつ。それでも大輔にも好きな子がいるのかぁ。

 なんだろう、そう思うたびに好きな子がいないと公言する俺の虚しさが募っていく。



 こうして食後、三日間お世話になったホテルに別れを告げて那覇市内へとバスで向かう。

 バスの車窓から青い海と白い砂浜を眺める。相変わらず綺麗な海とは今日でお別れか。


 那覇市内へと到着し、首里城へとまず向かった。

 といっても、ガイドに連れて行かれながら観光するだけだ。

 首里城は本当日本の城とはまったく毛色が違う。うちの近所にある山田城と比べても、こう陰鬱としていないというか、凄い色合いが派手だ。

 琉球王国の代表的な城と言われるだけある。今、凄い修学旅行しているな俺。


 首里城の観光も終わり、国際通りへと向かう。

 そうして国際通りでは2時間ほどの自由時間となった。

 って事で俺は、誉、哲也、前田と高山の4人と通りに並ぶ土産屋を渡り歩く。

 俺は家族へのお土産と、自分へのお土産を買い、後は誉が買うお土産のみだ。


 「あれ? 英雄じゃん」

 「ん? おう沙希か!」

 偶然にも沙希の居るグループと遭遇する。

 ここで俺と誉、前田、高山と顔を見合わせて、不敵な笑みを溢す。


 「俺、さっきの土産屋の木刀買って来るぜ!!」

 「なに! じゃあ俺も付いて行くぜ!」

 「おいおい俺を忘れちゃ困るぜ!」

 「おい! みんな待てよ! 俺も行くぜ!」

 誉、前田、俺、高山の順に一言言って、風のように哲也と沙希のもとから離れる。

 明らか不自然だが、哲也の事だ。電話してくるはずだ。


 案の定、俺に電話が来た。

 通話ボタンを押して耳に当てる。


 ≪おい英雄! どこに行ったんだよ!≫

 通話早々慌てた様子で早口で聞いてくる哲也。心なしか声が大きくてうるさい。


 「哲也。俺達の行動を無駄にするな。沙希とさらに親しくなれ! 頑張れ! 以上!」

 そうエールを送って哲也に有無を言わせぬまま、電話を切った。

 さて哲也! 頑張れよ!


 「さてと、俺たちは四人で回るか」

 「だな」

 という事で四人で回り始める。

 ここらへんは戦後、沖縄で特に目覚ましい発展をした言わば沖縄の中心地だ。

 沖縄へ修学旅行に来た学生はほぼ必ずここに訪れる事だろう。そしてその学生や観光客を狙った土産屋が立ち並ぶ。

 国際通りに接続している通りもかなり栄えている。近代的な通りもあれば、昔ながらの雰囲気を残した通りもある。行き交う人々は観光客や学生ばかり。

 それでもこの開放的な空気感は沖縄ならではという感じだろうか。歩いて回っているだけで楽しい。


 「うん……?」

 ふととある店が目にとまり、店内をうかがう。

 店の中で大輔を発見した。凄い、めっちゃ食ってる。

 そういやあいつ、沖縄の郷土料理楽しみにしてたもんな。土産よりも郷土料理か。

 それにしても、あんな大輔にも好きな人いるんだよなぁ。ずっと大輔のこと花より団子だと思ってたけど、団子にまさる花が存在したか。

 どうしよう、昨日の大輔の告白。結構ダメージ大きかったんですけど。大輔だけはそういう色恋沙汰から遠い存在だと思っていたからだろう。大輔はそういう話題から避けられる安全地帯と思っていたから、それが崩れてしまったみたいで、これから俺はどこを安全地帯にすればいいんだと思ってしまう。


 「どうした英雄?」

 「いや、なんでもない」

 少し先まで歩いていた三人のもとへと向かう。

 どうしたものか。俺は色恋沙汰に足を踏み入れたくない。恭平や大輔や哲也とバカやって、野球部員のみんなと白球を追いかける。そんな変わらずも充実した日々を送りたいのだがな。



 「あ! 英ちゃん!」

 こうして土産屋巡りをしていると岡倉と会った。

 そばには岡倉の友人である飯山さんと宮田さんがいる。どちらも高校一年の時同じクラスだった。


 「うっす。土産選びは捗ってるか?」

 「うん! 英ちゃんのほうは?」

 「もう俺は買い終わってる。紅芋のタルトとちんすこうだ」

 まさに沖縄銘菓の定番中の定番の土産物だ。


 「紅イモのタルトかー美味しい?」

 「いや食べたことないからわからんけど人気らしい」

 「そっかー」

 そういって「うーん」と悩む岡倉。

 その様子を一瞥して飯山さんたちに視線を向けた。


 「こいつ、どれくらいここにいるんだ?」

 「……30分ぐらい」

 答えたのは飯山さん。

 こいつ、どんだけここで悩んでるんだ。


 「岡倉、いい加減決めろって」

 「うーん、でもお菓子よりストラップとかのほうがいいのかな? でもお菓子の方がお土産っぽいし……」

 悩みすぎだろう。

 贈る相手のことを考えての優しさではあるのだろうが、それのせいで友人を待たせていたら世話ない。


 「お前悩みすぎだろ。こういうのは直感がベストだぞ」

 特にお前みたいな天然系はな。


 「うーん、英ちゃんはどっちがいい?」

 「何故俺に聞くんだよ。俺は男だから食い物の方が嬉しいけど」

 「そっか。じゃあこれにしよう」

 俺の一言が決め手になったのか、さっきまで唸って悩んでいたのが嘘だったかのように呆気なく商品を手にとる。先ほど俺が紹介した紅芋のタルト。

 そうしてレジで会計して戻ってくる岡倉。


 「はい! 英ちゃん!」

 「ん?」

 なんだこいつ、急に今買った土産物を俺に向けてきたぞ。


 「これお土産!」

 …………??????


 「待て岡倉、俺は今沖縄にいるんだが?」

 「知ってるよ?」

 「なんで沖縄にいる俺に沖縄の土産を寄越すんだ?」

 「え、英ちゃん好きだから?」

 お前、好きだからって土産品をあげちゃダメだろう。


 「岡倉、家族の分はどうした?」

 「家族の分も買ったよ。だから英ちゃん、はい!」

 はい! って言われても。

 一度飯山さんと宮田さんに「こいつをどうかしてくれ」と視線を送る。だが二人は微笑ましそうに俺と岡倉を見ている。なんだ、その我が子を見守るような慈愛に満ちた目は。

 友人たちへと視線を向けるが、気づいたら彼らはいない。まるで先ほどの哲也にした仕打ちみたいだ。なるほど、今度は俺がやられる番だったか。クソが、後で覚悟しとけよあいつら。


 「悪いが岡倉、俺はいらない」

 「えー! そんなー!」

 「だからこれはお前がむしゃむしゃするんだ。自分へのご褒美的な感じのやつでどうだ?」

 「でも英ちゃんになんかあげたいし……」

 そういう男を甘やかそうとする精神はダメだぞ岡倉。

 そういうのを狙ってヒモと呼ばれる男たちが生まれるわけなんだからな? でも岡倉は守ってくれるというより、守ってあげたいタイプの女子ではあるか。


 「じゃあ飯山さん達にあげろよ。日頃のお礼をかねる感じでさ」

 いつも岡倉の疲れさせるスピーキングを聞いてもらってるお礼にあげてもいいと思う。


 「えー佐倉君、それはいくらなんでも」

 「意気地なし」

 岡倉の後ろにいる飯山さんと宮田さんがなんか言っているが無視だ。

 意気地なしで結構結構コケコッコー。自分が情けない意気地なし野郎なのは、岡倉の告白を保留した時点で自覚している。だからここでなにを言われようと傷つきはしない。


 「じゃ」

 岡倉もなにか言いたそうだったが、俺は一言別れの言葉を告げて、俺を置いていった野郎どもを探すためにその場を後にした。

 少し離れたところで三人と合流する。


 「英雄、お前本当女との噂絶えないな」

 「岡倉とは野球部の付き合いだ。一年の時は同じクラスだし、最近じゃ昼飯も一緒に食うことになってるしな。あいつと仲がいいのは仕方がないさ」

 高山に茶化されるが、別に気にしていない。

 岡倉はふわふわしているから、突発的にあんな行動をしたのだと思う。

 それにしても恭平、大輔、岡倉と俺の周りには変人が集まるな。俺は変人ホイホイか何かなのだろうか。それとも俺が変人すぎるから同調した変人が集まるのだろうか?

 前者だったら嫌すぎるし、後者だったら余計に嫌だ。



 「あ! 佐倉だ!」

 そして本日も藤川御一行と遭遇する。

 そばには鵡川、それを見て俺たちは誉へと視線を向けた。

 誉は「任せろ」と言わんばかりの表情を浮かべている。哲也や俺を一人にさせた以上、誉も頑張らないといけないな。


 「どうしたの?」

 「いやなんでもない。ってかお前らと遭遇する確率高いな」

 「わかる。昨日も二回あったし、運命かなー」

 そういって笑う藤川。

 俺と運命感じちゃうのは色々とまずいと思うぞ。主に女子の評価的な意味で。


 「佐倉は何買ったの?」

 「紅芋のタルトとちんすこうだ。沖縄銘菓のダブルエースだな」

 「あー私も紅芋のそれ買った。美味しそうだよねー」

 「だよな。今から帰って食べるのが楽しみだ」

 凄くいい加減な感じで藤川と話す。

 とにかく今は彼女たちグループを引き止めて、誉と鵡川に会話をさせたい。

 高山、前田も他の女子と話をして間を繋げる。



 こんな感じで、なんとか話を繋げつつ、集合時間まで鵡川班と暇を潰した。

 この後、集合場所で合流した哲也にこっぴどく叱られたのは言うまでも無い。

 だが、沙希と二人で話せたらしい。良かったね!


 こうして、俺達は沖縄を後にする。

 あっという間の修学旅行。総評しなくてもすげぇ楽しかった。

 景色も良かったし、また沖縄来たいなぁ。

 次、沖縄に来るのはプロ野球選手になってからの春季キャンプかな? なんてことを思いながら、飛び立った飛行機の窓から見える沖縄本島を見つめる。

 帰りは窓際の座席に座れて良かった。やっぱり空の旅は窓際じゃないとな。

 ちなみに哲也は高所恐怖症なので窓際には座れず、中央の座席に座っている。今回の隣は誉だ。


 「英雄」

 「なんだ?」

 「今日はサンキューな。鵡川とあんなに喋ったの初めてだ」

 最後の最後で鵡川としゃべれた事に大喜びしている誉。

 その誉の笑顔は、おそらく今まで見てきた彼の笑顔の中で一番のスマイルだろう。おそらく億円は越えているレベルのスマイルだ。

 そういう笑顔は鵡川に見せなさいな。


 「喋っただけで満足するなよ。まだこれから文化祭もあるんだぞ」

 「そうか、文化祭もあるのか」

 この後待ってるのは文化祭。これまた高校のイベントの中でも一大イベントに含まれる行事だ。

 我がクラスの出し物は、確か……。


 ………。


 ………まぁいい、きっと楽しい出し物なんだろう。

 今年は友人たちの恋愛成就の手伝いもあるし、色々と頑張らないとな。

 それに高校生活の一大イベントだ。楽しまないとな。


 だがイベントばかりにうつつを抜かしている暇はない。

 野球のほうも頑張らなければ、修学旅行が終わって最初の週末には練習試合が待っている。

 明日からはまた野球漬けの毎日だ。楽しんで気合入れて頑張っていこう。



 地元最寄りの空港到着後、そこで解散となり、俺たちはそれぞれの自宅へと帰宅した。

 帰宅後は、久しぶりの母上の料理を食べつつ、思い出話に花を咲かせるのだった。

 こうして俺の修学旅行は終わりを迎えるのであった。

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