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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
46/324

45話 ワクワク修学旅行④

 二日目も夜が更けていく。

 夕飯を食べ終えて、消灯までまだ時間がある。

 そんな中で俺らの部屋では修学旅行恒例の好きな子告白タイムが始まった。

 参加者は、俺、哲也、誉、前田の同室4名と、恭平、大輔2人を加え、さらに隣部屋の4名の高山、三島(みしま)木下(きのした)服部(はっとり)の計10名で行われる。ちなみに須田は不参加。居たら居たでなんか大変な事になりそうだし、居なくて良かった。


 「いいか。今ここにいる10人は、これから好きな子の名前を皆に告白する。そしてそれを聞いた俺たちは、皆の恋が成就するよう協力しあう。今ここに非モテ連合童貞組合の結成を宣言する!」

 いつの間にか司会進行役になった恭平が意気込んでいる。

 今恭平が言ったとおり、この10名が協力して一人一人彼女を作ろうという計画だ。 チームのネーミングが極めて最低だが。

 しかしここで問題が一つ。残念ながら俺は好きな人が居ない。


 そんな中で始まった好きな子告白タイム。

 一人一人、違う女の子の名前を言っていく。その度に聞いてる連中が歓声をあげて、口にした奴はその子の良さについて語っていく。

 鵡川に一極集中を予想していたが、思いのほかバラける。しかも岡倉とか沙希とか、恭平曰く人気の女子の名前も中々上がらなかった。意外な展開だ。

 逆にアレか。鵡川レベルは高嶺の花、憧れの対象だから付き合うという事を考えたら除外してしまうのかもしれない。そうだとしたら可愛すぎるのも考えものか。


 「俺は鵡川だ。鵡川梓だ!」

 「なに恭平もか!? 俺も鵡川だ!」

 6人目にしてついに被りが発生した。

 誉と恭平は鵡川を選んでいるようだ。


 「恭平、お前とは敵同士って事か。負けないぜ」

 「何を言ってる誉。俺たちは共闘していこうじゃないか! そして俺、誉、鵡川の三人で仲良くやろうぜ!」

 馬鹿の答えに呆れ笑いを浮かべる一同。

 恭平、お前好きな女子じゃなくて抱きたい女子の名前言っただろ。


 次は大輔。

 正直大輔に好きな子がいるんだろうか? それは少し気になる。

 現在ですらパンを頬張っている程に食欲の権化である彼が、食事以外で求めるものなどあるのだろうか?


 「俺はC組の三浦」

 「三浦!? 三浦ってあの三浦か!?」

 と思ったら大輔は呆気なく答えた。嘘だろ、大輔にも好きな女子いるのかよ。

 三浦って、あの三浦里奈(みうらりな)か。


 いわゆる影が薄い系女子だ。いつも教室の端っこで一人読書をしているような女子生徒。当然友達も少ない。

 三浦自身と話したことはないが、彼女の友人とは話したことがある。

 というのも、三浦は一年の時女子の間でいじめに遭っていた。そのことを彼女の友人に相談され、陰ながらに暗躍して、いじめっ子どもに制裁を加えることで、いじめは収まっていたはずだ。

 確かに思い浮かべれば可愛いかった気はしないでもないが、地味な感じが半端ない。


 「また意外なチョイスしたな大輔」

 「そうか? 三浦って可愛くね?」

 驚く恭平に対しあっけらかんとしている大輔。


 「いや確かに可愛いけどさ。エロさないじゃん」

 エロさで好き嫌いを選ぶのはお前ぐらいだ恭平。


 「別に三浦に対してエロい感情はねーよ。なんていうんだ? 守ってやりたいっていうかさ、そういうアレかな?」

 大輔が語る。

 うわ、マジで大輔にも好きな女子がいるのかよ……。

 あの食事ぐらいでしか頭を働かせない食事馬鹿の大輔にすら、好きな人が居るのに、俺と来たら。

 一方で恭平は大輔の理由に噛み付いた。


 「大輔、エロい感情がないのに好きってのはおかしくねーか?」

 おかしくねぇよアホ。

 むしろエロい感情でしか好き嫌いを判断できないお前のほうがおかしいわ。



 そして次は哲也の番。みんな正直に告白している。

 それが哲也の後押しになったのだろうか。


 「僕は沙希。山口沙希のことが好き」

 あのむっつりで奥手で人見知りの哲也が好きな人を暴露する。

 彼の答えを聞いて「おぉ!」と歓声を上げる一同、視線は俺の方へと向けられる。


 「英雄! ライバル出現だぞ!」

 「幼馴染対決か。面白くなりそうだな!」

 と周りが茶化してくる。

 だから沙希とはそんなんじゃないって。苦笑いしか出てこない。


 次は誉だが、すでに鵡川が好きと告白しているので、そのまま最後に俺の番となった。

 さて、どうするか……。


 「俺は居ない……って言う真実を言っちゃマズい?」

 「そもそもお前の真実は山口だろ! 何回乳繰り合ったんだぁ!?」

 恭平が興奮気味に声を荒げる。うるせぇ黙れ。

 沙希は確かに良い奴だと思う。沙希が男子からモテるという噂も頷ける。可愛いか可愛くないかと言われれば即答で可愛いと答えるぐらいには、正直彼女の可愛さを認めている。だが彼女にはできない。


 「沙希は友人であって付き合ってもいないし、恋愛対象でもない! だから居ない!」

 「嘘つけ! いつも女といるお前が好きな子いないとか、許されるわけないだろうがぁ!」

 「だから居ないもんは居ないんだよ! いいか! 俺の好きな人は、現実にはいない! 画面の中にしかいないんだよ!」

 「嘘をつくなぁ!」

 などと、意味不明なごり押し発言をしつつ恭平と口論をする。

 っで、結局哲也が間に入り、何とか俺の事は後回しという形となった。

 こればかりは居ないものは居ないんだとしか言い様がない。



 そして全員の告白タイムが終わり、これから一人一人、どうくっつけるかを討論をする。

 とりあえず恭平と誉の件は後回しになった。まぁかなり難しい問題だもんね。


 俺は好きな人が居ないので、サポート役に回るわけだ。

 俺以外の全員が成功すればと思う。


 特にこの中でも特に仲が良い恭平、大輔、哲也の親友3人には絶対に成功して欲しい。

 ……恭平は、かなり難しいけどな。


 その後、消灯時間になり、やってきた佐和ちゃんに恭平は最後まで抗うも「練習量が大変な事になるぞ」と言う佐和ちゃんの脅しに敗れ、自分の部屋に帰ることになった。

 明日には帰宅。沖縄、最後の夜は更けていく。



 消灯時間まであと少し。私、鵡川梓はベッドに寝転がりながら、自分のスマートフォンの画面を見つめる。


 アドレス帳のさ行の一番上「佐倉君」の文字を見て、自然と頬が緩んでしまう。

 幸福感が胸の中にいっぱい広がって、なんとなく体を動かしたくなってしまう。

 思わず枕を抱きしめて、ベッドの上でゴロゴロしてしまった。それぐらい嬉しい。


 佐倉君に今すぐ連絡したいけど、でもなにを送ればいいんだろう。

 正直、私はこういうのをやった事がない。恥ずかしながら、私は今まで男の子にメールを送ったことがない。

 だから、どういうメールを送れば良いのか、何一つとして思い浮かばない。


 ……百合に聞こうかな。百合、男の子とのメールのやりとり慣れてるし、的確なアドバイスをもらえる気がする。

 でも百合は、佐倉君のこと気にしていたはず。だったら聞けないか。

 百合に話して複雑な気持ちをもたれてもアレだし。


 やっぱりメールしなくてもいいか。

 とりあえず佐倉君のメールアドレスと電話番号を手に入れたから、今は満足だし。

 それにこれからメールをしていけばいいし。

 これから佐倉君と……。


 色々と確定していない未来を思い浮かべては、気持ちだけが高ぶる。

 思わず私は口元に枕を当て、声にもならない叫び声をあげながら、再びベッドの上でゴロゴロしてしまう。


 「梓、さっきからなにやってんの?」

 私の挙動不審な行動を見ていた友人の帆波(ほなみ)が不思議そうに聞いてきた。

 帆波も私と同じく野球部員に恋をしている。私とは違って三村君のほうだけど。


 「え、いや別に」

 「スマホ見てたでしょ? もしかして彼氏とか?」

 そう冗談交じりに言う帆波の言葉に、私は凄く動揺してしまった。

 一気に顔が熱くなってしまった。耳まで熱い。

 こんな分かりやすい態度をとった私を見て、帆波は驚き、そして嬉しそうに聞いてくる。


 「本気で彼氏なの!?」

 「違うの! 彼氏じゃなくて……その……」

 言葉に詰まってしまった。好きな人、そんな簡単な言葉が言えない。

 恥ずかしい。思わず俯いてしまう。

 頭の上からは「ほぅ」と嬉しそうな帆波の声。


 「好きな男子のほうか。誰? 見せて」

 「あ! ちょっと帆波!」

 途端、私の手にあったスマートフォンを取られた。

 そして帆波は、画面を確認した。確認した途端表情が一気に変わっていく。


 「え、もしかしてこの佐倉君って人?」

 困った表情を浮かべた帆波が聞いてくる。

 私は顔を熱くさせながら小さく頷いた。


 「佐倉君って、あの佐倉英雄だよね?」

 「え、えっと……うん……」

 再度頷いた。そんな私を見て、帆波は自分の顔を右手で軽く叩き「あちゃー」と小さくつぶやいていた。


 「なんで佐倉だし。佐倉よりも格好いい人いるでしょう?」

 「佐倉君は格好いいと思うよ」

 頬を火照らせながら、私は自分の思いを帆波に伝える。

 だけど彼女には伝わっていない様子。


 「そういえば百合も佐倉が最近キテるとか言ってたっけ。あいつのどこが格好良いわけ? いつもだらしない顔してるし、うるさいし、嘉村とつるんで下ネタばっかしてるし、駄目でしょあれは」

 帆波が佐倉君の悪口を口にする。

 私はその言葉を聞いて気分が悪くなり、むかっとしてしまった。


 「いくら帆波でも、彼の悪口を言ったらさすがに怒るよ」

 「そんな怖い顔しないでよ。冗談だから」

 そう言って、苦笑いをする帆波。

 だけどこの不快な気持ちは収まらない。ムッとした表情のまま帆波を見つめる。


 「でもさ。梓は可愛いんだし、あんなのより、もっと良い男と付き合えると思うよ。須田とかどう? あいつなんか完璧だしイケメンじゃん」

 「帆波。いい加減にしないと、本当に怒るからね」

 そう言って私は帆波からスマートフォンを奪い取る。


 「佐倉君は本当は凄く格好いいんだから」

 それだけ帆波に言って私は布団を頭からかぶった。

 布団の向こうからは帆波のため息が聞こえた。


 こうして、修学旅行最後の夜は更けていく。

 佐倉君は今頃、何をしているんだろうか……。

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