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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
3章 青春の過ごし方
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42話 ワクワク修学旅行①

 沙希の爆弾発言の翌日、俺は飛行機に乗っていた。

 現在俺たちが乗る飛行機は那覇空港へと向かって飛んでいる。

 今日から修学旅行。だというのに俺の気分は地獄にまで届きそうなぐらい落ちている。


 昨日あの後、沙希の家へと向かった。

 そこでマセガキに成長した弟どもに「英雄と姉ちゃん付き合ってるの~?」などと茶化された挙句、それを聞いた沙希が顔を赤くしながら、何故か俺を殴った。いくらなんでも理不尽すぎる。そこはマセガキどもにしろよ。

 そして今日は今日で、恭平どもに「あの後どうだった?」とか「修学旅行中は交わるなよ!」などとからかわれた。

 いくら否定しても「まだエイプリルフールじゃないぞ英雄!」とか「俺らはお前らの恋愛応援してるからな!」などと優しい微笑みを浮かべながら言ってくる。


 「最悪だぁ……」

 ため息混じりにそう呟いて、俺は背もたれに体を預けた。

 せっかく小学生以来の飛行機だというのに、まったくテンションが上がらない。

 大体、何故飛行機の中央の席なんだ。これじゃあ窓からの景色を楽しめないだろうが。


 「なぁ哲也」

 「どうしたの英雄?」

 隣の座席に座って小説を読む哲也に声をかける。


 「昨日のあれ、お前の方からも言ってくれないか?」

 「別にかまわないけど、今回も少し経ったらすぐ噂消えるでしょ。これで何回目だって、英雄と沙希が付き合ってるって奴」

 中学三年生の頃に下の名前で呼び合い始めた時と、高校入学後の二度、そして今回で三度目だ。

 いくらなんでも噂になりすぎだ。これは沙希と付き合えという神からの啓示なのだろうか?

 いや、さすがに沙希は駄目だ。


 「まったくだよ。別に沙希とは、中学からの友人ってだけだしなぁ」

 何日かすれば噂の海の藻屑となって消えるだろう。というか、そう祈るしかない。

 それまでは、のらりくらりと、恭平たちの質問攻めを避けるしかない。


 「ねぇ英雄」

 「どうした哲也?」

 「もしもだけど、沙希が英雄に告白したら、付き合う?」

 「はぁ?」

 小説を読みながら哲也が小声で聞いてきた。横顔はすごく真剣な表情を浮かべている。

 いつもなら冗談で話すが、どうやら真面目な問いらしい。ならば真面目に答えるしかないだろう。と言っても答えは一つだが。


 「まぁ無理だな。今の俺は野球で頭がいっぱいだし、お前は沙希が好きだし、なによりあいつと付き合っている俺を想像できん」

 結論から言って、俺は沙希と付き合うつもりはない。

 たとえ彼女が俺のことを愛していると情熱的に告白してこようとも、ちょっとクーデレっぽく愛の告白をしてこようとも、ランジェリー姿になって「私を抱いて」みたいな官能的な告白をしてこようとも、俺は絶対に断る。

 沙希は無理だ。あいつじゃ俺のストライクゾーンには入れないさ。


 「まっ、そんな事まずないだろう。沙希の俺に対する態度見てみろよ。ありゃ脈なしだ間違いない」

 真剣に答えたあとは冗談交じりに言葉を続ける。

 最近俺に対する沙希の態度が冷たい。

 いや、冷たいのは学校内だけか。暇なときは遊びに誘われたりするしな。

 おそらく俺と付き合っている風にみられるのが嫌なのだろうか? 前に俺と付き合うのは無理だと完全否定していたし。いくら沙希とはいえ傷ついたぞあの時は。


 「……そう」

 俺の回答を聞いた哲也は興味無さげに答えた。

 まぁ色々理由つけて沙希は無理だとしているが、結局こいつがいる限り、俺が沙希と付き合うことはないだろう。

 哲也と沙希が付き合う事が親友としての理想の結末だ。友達と女、どっちを取るかなんて質問は俺には愚問だ。間違いなく友達を取る。

 あいにく、親友の好きな人とイチャイチャできるほど、俺は鈍感な性格はしていない。


 しかし、彼女か。

 高校生だし、一度くらいはそういう関係になる女子がいてもいい気がするが、どうだろうか?

 俺は幸いにも、女子からはある程度の人気があるという情報を耳にしている。

 本気で頑張れば、彼女の一人や二人余裕な気がしないでもない。

 だけど俺のこと好きな女子って誰だろうか?

 ……岡倉か。

 あいつは普通に可愛いし、性格もふわふわしているから同じレベルまで知能を低下させれば、ほんわかできそうな気がしないでもない。

 なにより胸がでかい。恭平も絶賛の大きさを誇る。男のエロス心をくすぐるという点でも評価は高いか。


 ふと後ろのほうから岡倉の騒ぐ声が聞こえる。


 「わー! 雲さんが下にいる! すごいよ麻子ちゃん!」

 どうやら窓から見える雲を見て騒いでいるみたいだ。

 うん、やっぱりあいつはダメだ。あいつと話をするとめっちゃ疲れるということを忘れていた。マジで岡倉さんデーモンやでぇ。

 大体、雲をさん付けで呼ぶな。ガキかあいつは。



 飛行機は予定通り那覇空港に到着し、バスに乗って早速沖縄の有数の史跡へ。

 沖縄の修学旅行の定番とも言える平和祈念公園へとバスは走る。

 第二次世界大戦における日米最後の大規模戦争とも言われる沖縄戦で戦没した人々の氏名が刻まれた礎などが並ぶ公園。


 公園に到着し早速ガイドに連れられ公園を見て回る。

 それにしても暑い。本州に比べるとやはり気温も天候も全く違うな。さすがは日本で一番赤道に近い県だ。

 じんわりと汗を掻きながら、整然と立ち並ぶ碑を見ていく。


 特に何も思いはなかった。

 戦争はすべきじゃないってのは誰だって思ってることだし、ここに来て改まる必要もない。

 ただ、こんな膨大な数の人々が亡くなったという事実は、やはり目をそらしてはいけないものだろう。


 「やっぱり戦争って良くないね」

 隣で見ていた哲也は改まっているようだ。


 「そうだな」

 適当に相槌を打つ。

 ふと沙希が目に入った。彼女も女友達と何かを話している。

 沙希の様子はいつも通り、昨日の事は忘れているようだ。と、沙希と目があった。そして逸らされた。まさに一瞬の出来事。

 なんだその行動は。相手が女の子だったら今頃俺のハートはめちゃくちゃ傷ついていたぞ。相手が沙希で良かったよ。


 平和祈念公園をガイドに案内されながら、別のクラスにいる恭平と大輔について考える。

 あいつら今頃何を考えているのだろうか? おそらくこういう場所でも恭平はエロい事、大輔は飯の事しか考えていないのだろうな。

 なんだろう、あぁいう奴らばっかだったら戦争も起きないんじゃないかな。いや、戦争が起きなくても、それ以上に酷い世界になってそうだ。



 この後、バスでガマのほうへと向かった。

 沖縄本島にある鍾乳洞で沖縄の方言でガマと呼んでいたらしい。戦時中に野戦病院や一般住人の避難所として利用されていたそうだ。

 中はまごうことなき洞窟だ。暗いしジメジメしているし、ゴツゴツしていて歩きづらい。こんな場所に隠れるなんて俺には無理だ。


 「やべぇ! なんだここ! ライトの灯り消えたら触り放題やんけ!」

 洞窟に反響して恭平の馬鹿声が聞こえた。

 あいつ、ここがどんな場所か分かってんのか? あんまふざけたこと言ってると祟られるぞ。

 呆れてしまった。やっぱり、あいつは相変わらずどんな所でもあんな発想するのな。


 やはり暗い上に歩きづらいこともあって、女子のキャーキャー言う悲鳴が反響しまくる。

 こういう時そばにいたら、さりげなく手を繋いだりできるのではないだろうか?

 そうして俺は隣を見る。哲也が立っている。


 「哲也」

 「なに?」

 「女の子と歩きたかったな」

 「なに恭平みたいなこと言ってるの?」

 その人を馬鹿にするような目で見るのはやめてくれ。

 うん、今の俺、恭平レベルまで落ちてたわ。


 「アレだったら一緒に手でも繋ぐか?」

 「ごめん、英雄がなにを言ってるのか僕には分からない」

 まったくだ。俺自身もなにを言ってるのかよく分かっていない。


 「英雄君、僕の手なら繋いでいいよ」

 ふと哲也のいないほうから声が聞こえて、反射的に哲也の陰に隠れる。

 須田が立っていた。しかも覚醒状態の須田だ。

 凄い目で俺を見ながら口元をほころばしている。怖い、怖いよ。


 「どうしたの英雄? 急に隠れて」

 「い、いやなんでもない……」

 不思議そうにする哲也。こいつは須田の本性を知らないからなぁ。

 須田がなんか小声でつぶやいている。「可愛い」の部分だけは聞き取れた。須田怖い。



 このあとはバスで宿泊地となる名護市まで向かう。

 明日からの旅行の日程だが、明日は海で泳ぎ、美ら海水族館へと向かい観光。

 明後日は首里城を見てから、国際通りで買い物をして、帰路へつくこととなる。


 そうして俺たちはこれから宿泊するホテルへと到着する。

 四人一部屋という構造。ちなみに修学旅行の定番とも言える大浴場はない。各自部屋にある風呂を利用するという形だ。

 これについては恭平がめっちゃ不平不満を言っていた。

 女子風呂の覗きが出来ないと、大浴場のあるホテルに変えろと教師に直訴すらしていた。結果は言わなくてもわかるが、恭平は依然納得していないみたいだ。


 俺、哲也、誉、前田は513号室。

 須田たちの部屋は隣の514号室。近いなぁ、いやだなぁ。怖いなぁ。

 ちなみに女子は別の階層になる。



 部屋に入り、やっと一息つけた。

 ベッドの上に寝転がり、俺は安堵の息を吐く。朝早くから学校へ向かい、そこからバスで空港に向かって、沖縄についたら即観光地巡りだ。

 楽しかったが、やはり疲れと眠気が半端ない。


 「なんだよテレビ番組、地元と変わらねぇなぁ」

 「いやでも、この番組は放送時間ちがくね?」

 誉と前田はテレビを見ながら、そんな事を話している。

 哲也は隣のベッドに座って修学旅行のしおりを確認している。


 まだ飯まで時間はあるな。


 「俺、先にシャワー浴びてきていい?」

 「あぁいいぞ!」

 俺が体を起こしながら誉たちに聞く。

 前田からは快く了承をもらったので、早速シャワーの準備をする。

 浴室はユニットバス。トイレと風呂が一緒になっている形だ。一応ドアの鍵は閉めておく。なにが来るかわからないからな。

 服を脱ぎ、浴槽とトイレを区切るようにあるカーテンを閉めて、オッケー。


 シャワーで今日一日の汗を流す。

 出来れば湯船にも浸かりたいが、この後ほかの奴らも使うし、浴槽にお湯は張れないか。

 一度お湯を浴びてから、シャンプーで頭を洗い始める。


 「え! 今英雄風呂入ってんの!?」

 っと、ドアの向こうから喜々とした声が聞こえた。この聞き慣れたアホ丸出しの声は、恭平か。

 うわ面倒くせぇ……。マジかよ。


 「英雄ぉ! 英雄ぉー! 大丈夫かー!」

 ドアをどんどん叩きながら恭平が聞いてくる。うるせぇ黙ってろ。


 「ちょっと! 俺トイレ入りたいんだけど! 鍵かけてんじゃねーぞ!」

 「うるせぇ! まだ終わってないんだよ! もうちょい待て!」

 「え? なにが終わってないの!?」

 風呂以外、なにがあるというんです?

 というかガチャガチャとドアノブをひねるな。壊れたらどうするんだこいつは。


 「まだ洗い終わってねぇんだよ! 大体お前うちのクラスじゃねーだろ! さっさと戻れ!」

 頭を洗いながら、恭平へと対応をする。

 一気に洗い流すつもりで、シャワーの水量をさらに増やした。


 「洗い終わってないって事は、もう終わったのか! はえぇなお前!」

 他に何が終わったというんです?

 恭平は主語こそ抜いているが言いたいことはわかる。マジで黙っててくれ。俺はもう今日は疲れてヘトヘトなんだ。お前のテンションに付き合ってられるほど余裕はない。というかシャワー浴びている時ぐらいゆっくりさせてくれ


 「ネタはなんだ!? やっぱり山口かぁ!?」

 「だーもう黙ってろ!」

 やっぱり恭平は俺の予想通りの事を考えていた。

 あぁもう面倒くさいなぁ。シャワーでシャンプーを洗い流し、すぐさま体を洗う。

 その間も恭平の馬鹿声がドアの向こうから聞こえる。


 「英雄ー! 腹減ったぞー!」

 さらには大輔もドア越しに声をあげ始める。

 なんで大輔まできてるんだよ。お前らそれぞれ別のクラスだろうが。ドアノブをひねるな、ゴンゴンとノックするな。ゆっくりさせろ。


 「どうしたの? え!? 佐倉君が今風呂入ってるの!?」

 ここで須田の声が聞こえて血の気が引いた。

 やばい。早く体を洗って着替えないと……やばい……!

 まだ洗い途中だが、すぐさまシャワーで泡を落としていく。


 「おぉ須田! 英雄のやつ出るの遅いんだよぉ!」

 「そうなの? 佐倉君大丈夫? 手伝おうか?」

 何が手伝おうかだ須田。

 マジでドアの向こう側がうるさすぎる。

 ガチャガチャドアノブを回されてるし、ドンドンとノックされるし、須田はなんか興奮気味に声をかけてくるし、マジでなんなんだあいつらは。


 「英雄! いくらなんでも遅すぎるぞ!」

 「ただシャワー浴びてるだけだ!」

 恭平の言葉に突っかかりつつ、体の洗い終えてバスタオルで体を拭く。


 「英雄ぉ! 腹減ったぁ!」

 「うるせぇ! 俺に言うな教師に言え!」

 大輔の文句に反論しつつ、体を拭き終えてパンツを履く。


 「英雄君! 大丈夫!? いまどこまで終わったの!?」

 興奮気味の須田の声には無視して新しい服を羽織った。


 ドアの鍵を開き、外へと出る。

 恭平と大輔、須田もいるし、鉄平や中村っち、高山など見知った面々もいる。どんだけ俺たちの部屋に集まってるんだ。


 「英雄! スッキリした顔してるな!」

 「お前らがドアの前で叫んでくれなきゃ、もうちょいゆっくりと体洗ってたんだがな」

 そういって、俺は着ていた服や使ったタオルをカバンにしまった。


 「佐倉君、なんか色っぽいね」

 須田がなんか言ってる。すごい怖い。


 「なに言ってんだよ須田ぁ! 英雄のどこが色っぽいんだよ! こんなブサメンに色っぽさはねぇよ!」

 須田の言葉を聞いて笑い出す恭平。

 思わず恭平をベッドに引き倒し、関節技を決める。


 「いだだだだ! ギブ! ギブ!」

 「おらぁ! お前のご所望の寝技だ。満足したかおらぁ!」

 「いだい! いだい! こんな寝技はご所望じゃないから! いだだだ!」

 騒ぐ恭平を見て、呆れ笑いを浮かべる一同。

 少ししてから解放し、ベッドから起き上がる。


 「おー! ここやけに人集まってるなー! そろそろ夕飯だから、一階の会場に集まれー!」

 とドアのほうから佐和ちゃんの声。


 「おっしゃあ! 来たかぁ!」

 待っていたとばかりに大輔が声を張り上げた。

 生徒たちはそれぞれ返事をして、ゾロゾロと出て行く。


 「英雄君、今度僕にも寝技かけて」

 っと一人残った須田が笑顔で頼んできた。


 「いや、ごめん無理」

 即答で断る。ごめん、俺はお前を受け入れるほどの度量はない。


 「えぇ……嘉村君にはしたのに?」

 なんで潤んだ目で俺を見てくるんだ。怖い、怖いよ須田。

 しかし須田はイケメンなのに、なんで男に走るんだろうか? 須田ほどのイケメンなら女も入れ食い状態だろうし、男好きになった理由が分からない。

 いや、イケメンだからこそ、男に走るのかもしれない。こう、あまりにもたくさんの女性と知り合うせいで、女性の悪い所が目に行きそして女性に飽きてしまうのかもしれない。


 「英雄君かわいい」

 ボソリと呟く須田。

 うん、やっぱりこいつの事を深く考えるのは止めよう。

 さすがに俺の手には負えないわ。

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