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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
7章 怪物の休日
312/324

311話

 1月26日。沖縄入り。

 那覇空港を出たところで、冬とは思えない暑さに驚いた。


 「来たな沖縄」

 到着ロビーを出て空を見上げて独り言をつぶやく。

 青空さんさん太陽キラキラな空を期待していたが天気はあいにくの曇り。沖縄の冬は晴れる事が少ないらしい。少しばかり残念だ。

 沖縄に来たのは二年の修学旅行以来だ。あの時は確か、沙希と俺が付き合ってるとか言う誤解の中で来たんだっけか?

 あの頃、また来るなんて思いはしたが、まさか本当にまた来れるなんてな。とりあえず実現できてよかったよ。


 「お、ルーキー」

 っとボケッとつったっていると後ろから声をかけられた。

 振り向くと見知った顔が……ってこの人。


 「鵜城(うしろ)さん?」

 「お、俺の事知ってたか」

 そういってはにかむ男。この笑顔、やっぱり間違いない、鵜城航大(うしろこうだい)さんだ。

 広島シャークスのエースナンバーを背負う若きエース。昨シーズンは味方の援護も少ない中で10勝あげている。

 うわ、間近で見るとオーラというか雰囲気がすげぇ。これが……一球団のエースナンバーを背負う男の風格……。


 「いや、さすがに知らないなんて言えませんよ。むしろ俺の事知ってて光栄です」

 「毎日馬鹿みたいに記事になってるからな。いやでも覚えるっての」

 そういって笑う鵜城さん。相変わらず笑顔が格好いい男だ。

 別段憧れとかそういうものはないが、テレビ越しで見ていた男をこうして間近で見ると、それはそれで緊張するものだ。


 「これからホテル行くんだろう? 一緒に行こうぜ」

 「至極恐悦でございます。ありがとうございます」

 「はは、なに緊張してんだよ。お前ゼッテーそういうタイプじゃねーだろ」

 そういうとまたも声出して笑う鵜城さん。

 思わず俺も頬を緩ませてしまう。良い笑顔だ。人の緊張をほぐし親近感をもたせる。


 入寮してからまだ一ヶ月しか経っていないが、こうして年上の人達と関わってきて分かったが、おれはまだまだ未熟だ。自身の幼稚な所が浮き彫りになってくる。

 同時にこういう大人になりたいと思う人がたくさんいる。

 俺は数年後、理想の大人になっているのだろうか?



 「スゲェ…」

 鵜城さんとタクシーに乗って、今日から泊まると言う宿泊施設の前に立ったところで、驚嘆の声が口からこぼれてしまった。

 まぁプロ野球選手なんだから、こんな豪華なホテルに泊まるのは普通なんだろうけど、やっぱり貧乏魂が染み付いた俺には驚きの大きさだった。


 「これぐらいでビビんなよ。部屋見たら腰抜かすぞ」

 鵜城さんは俺の姿を見て笑いながらすたすたと歩いていく。

 それにつられるように、俺もホテルへと入った。



 チェックインを済ませた後は、監督に到着を報告し、その後は鵜城さんに誘われてホテル近くの料理屋へと向かった。

 鵜城さんと数人の先輩方。あとちゃっかり川村さんも来ている。

 酒が入りいつものように悪酔いする川村さん。先輩方にもダル絡みをして困らせている。鵜城さんも酒が入ってるからか、川村さんを煽るような発言をして大笑いをしている。そんな様子を遠巻きに見つつ呆れ笑いを浮かべる俺だった。



 「ぐはー! 疲れたー!」

 ホテルに戻り、自室となった部屋に入ったところでそんな声を張り上げて、ベッドへと飛び込んだ。

 結局鵜城さんが煽って、川村さんにひたすらダル絡みされていたせいで、やけに疲れた。

 天井を見ながら深いため息を吐きつつも、「けど楽しかったな」とぼそりと口にする。


 「あ、そういえば」

 ここでふと思い出し体を起こすと、そのまま立ち上がり机へと向かう。

 机に置かれたノートパソコンを起動する。

 そういえば選抜甲子園の出場校が決まっていた事にいまさら気づいたからだ。


 選抜甲子園で検索をかけるとあっという間に出場校一覧が見つかった。

 案の定山田高校は選ばれていた。そら中国地区大会準優勝だもんな。


 「近畿には隆誠大平安か。あの奈川がいれば当然だな」

 奈川は今年の夏で経験したことを自分の糧にしているはずだ。あいつは正直最後の夏にはうちの大輔を上回るバッターになってそうだ。怖い反面楽しみでもある。

 調べると奈川はすでに高校通算30本塁打を越えているらしい。新聞の記事には「最後の夏までに100本以上ホームラン打ちます」と奈川の発言が書かれている。

 強気発言を見るとこっちまで不敵に笑ってしまう。いいぞ奈川、それぐらいの目標を口にして達成してこそだ。

 一方で夏春連覇がかかる山田高校のキャプテン亮輔は「優勝できたらしたい」と少々弱気発言。前キャプテンの弱気を受け継ぐんじゃない。もっと強気発言していけ。


 「おぉ! アントニオの母校出てるじゃん」

 アントニオ榎木こと、榎木毅一の母校である由布商業も出場している。

 その他、知っている学校がちらほら出ていて、一覧を見ているだけでも無駄に闘争心が沸き上がってくる。



 「選抜か…」

 一通り見終えて椅子の背もたれに体を預けながらぼんやりと呟き、後頭部で指を組み天井を見上げる。

 一度で良いから、春の甲子園とやらも経験したかった。


 一年の頃から入部していれば、春夏連覇できたのだろうか?

 うん、必ず出来たはずだ。なんて言ったって二年の夏から始めて三年夏で優勝決めたんだからな。一年から始めていたらそりゃ余裕だっただろう。

 俺が入部して、早々に佐和ちゃんが本気出して、恭平や大輔も入部して……。

 一年のうちに結果を出していたら、二年の時の入部希望者ももうちょっと多かっただろうし、野球経験者で優れた選手も入部していたことだろう。あの夏共にしたメンバーよりも優れたバックの中楽々投げれていたかもしれない。

 そしたら俺はもっと……もっと今より……怪物に近づいていたのだろうか?


 「…なに考えてるんだ俺」

 我に返ってぽつりと一言呟いた。

 背もたれに預けていた体を起こし、頬を両手で叩く。

 たられば話はスポーツではご法度だ。どんなに妄想しても何も変わらない。過去は帰ってこない。逆に未来を消費するだけだ。

 俺は途中入部して甲子園優勝したんだ。それで良いだろう?


 「今考えるべきは先の事、キャンプにオープン戦、そして一年目のシーズンだ」

 とりあえずここまでは順調に来ている。無事キャンプも主力組にも入れた。

 監督は俺に期待している。ならば期待に応えるしかない。

 期待に応え続けて、開幕一軍でスタートして先発ピッチャーとして結果を残していく。そして数年後に日本一を達成しメジャーに行く。そんでもってメジャーでも活躍する。

 まだまだ俺の目標は始まったばかりだ。プロ入りは最初の一歩に過ぎない。

 

 「よし、頑張ろう」

 自らを奮い立たせるように。一言呟いて俺はパソコンの電源を落とすのだった。

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