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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
2章 天才、七転八起する
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28話 佐倉英雄誕生祭②

 昼休みの後、移動教室に向かう最中、龍ヶ崎と出会った。


 「よぉ佐倉」

 「おぉ龍ヶ崎か。お前から声かけてくるなんて珍しいな。どうした?」

 龍ヶ崎に挨拶されたと思ったら、なんか投げ渡された。

 それを受け取る。学校の自動販売機で販売している缶コーヒーだ。


 「なんだこれ?」

 「やるよ」

 「マジで? もしかして誕生日プレゼント的なやつか」

 急に渡された缶コーヒーに困惑しつつも、冷静に対応する俺。


 「別にてめぇの誕生日だからって訳じゃねぇよ。俺も飲み物を買ったから、そのついでだ!」

 ツンデレかお前は。いやまぁ嬉しいけど。


 「悪いな。ありがたくもらうよ」

 「おぅ」

 そういって背を向けてそそくさと歩いていく龍ヶ崎、本当に素直じゃないなぁ。

 まぁ根は良いやつだけど。



 「あ! 佐倉ぁ!」

 龍ヶ崎から缶コーヒーをもらった帰り道、藤川百合に呼び止められた。

 あの模擬合コンから毎日とは言わなくても定期的にメールをしあっている関係でもある。こう学校で会えば一言二言は会話する仲にはなった。


 「おぅ藤川か。どうした?」

 「今日誕生日なんでしょ? これあげる」

 そういって彼女から手渡されたのは、山田市のゆるキャラである「やまぽん君」の携帯ストラップだ。タヌキをデフォルメした感じのキャラクターだ。

 モチーフは、かつてあったとされる山田城で起きたとされるタヌキに化かされた伝説から来ているらしい。


 「悪いな。ありがとう」

 「いえいえ、いつもメールしてくれるお礼だから! じゃあね」

 軽く手を振りながら走って立ち去る藤川。

 岡倉ほどではないが、彼女の笑顔も中々キュートだ。


 それにしても今日はたくさん貰い物しているな。

 まぁその分、友人の誕生日には俺からも飲み物なりなんなりプレゼントしてるんだけどさ。

 しかしこの携帯ストラップどうしよう。俺基本スマホとかにはストラップ付けない主義なんだけどなぁ。とりあえず家に置いておくか。



 そんな感じで今日一日たくさんの人達から祝福され誕生日プレゼントと称した品を貰いまくった。

 そうして帰りのホームルームが始まった。依然、沙希からの殺意のこもった視線がぶつけられる。

 やはりなにかあるのだろう。とりあえず放課後、話してみよう。


 ホームルームも終わり、放課後へ。

 とりあえずジッとこっちを睨む沙希の下へ。


 「なぁ沙希」

 「なに?」

 冷たい対応。やはりなにか怒ってる模様。


 「さっきから、ずっと殺意のこもった視線をぶつけてきてるけど、どうかしたんか? なんか悪い事しちゃってたか?」

 「……はぁ、別に殺意なんか無いんですけど? ……英雄、はい誕生日プレゼント」

 一度深く溜め息を吐いて、沙希は言うと一枚の紙切れを渡してきた。

 そこには現在上映中の「夢と共に去りぬ」と言う恋愛映画のチケットだった。男女一組限定の無料チケットだ。

 ちなみにこれと同じチケットが今、俺の財布の中にある。岡倉からもらった奴だ。


 「お前……」

 「別にあんたと行きたいわけではないけど、まぁ……うん……」

 なんでお前も岡倉と同じ映画のチケットをプレゼントするんだよ。

 だから俺は恋愛映画嫌いだっつうの!


 「俺、恋愛映画嫌いなの知ってるよな?」

 「……知ってるけど?」

 知ってて渡すとか嫌がらせかなにかかこれは。


 「しかも期限が9月23日って明後日までかよ! てめぇ期限切れそうだから、俺に渡したな!」

 「違うわよ!? そんな訳ないでしょう! ……で、誰と行くつもり? 私は……その……その日は暇、だけど……」

 またもや後半、頬を赤く染めながら、モジモジして小声で呟く沙希。

 お前、そんな分かりやすい事されたら誘うしかないじゃん。


 「分かった。一緒に行こう」

 「ふ、ふん! 英雄がそこまで言うなら行ってあげてもいいけど……」

 お前が行きたそうにしてるから誘ったんだからな?

 こいつ、絶対チケットもらったのは良いけど、男で行く相手いないから俺を誘っただろ。


 「明日は用事あるから明後日でいいな?」

 「うん」

 「あとその日、部活あるから終わったあとで良いな?」

 「うん」

 顔を赤くしながら頷く沙希。

 なんで俺は二日連続で同じ映画を見に行かないといけないんだ。しかも俺の苦手な恋愛映画を。


 「終わったら連絡するよ」

 「分かった」

 ってことで俺は財布にチケットをしまう。

 岡倉からもらった奴とこれで二枚だ。なんて事だ。



 放課後の練習。

 三連勝して県大会進出を決めたが、練習は何一つ変わることなく普段通りの練習が続いている。

 夏休みに比べれば練習時間も短くなり、厳しさは幾分落ち着いたが、それでも佐和ちゃんは容赦ない練習で俺たち部員を苦しませる。


 俺は地区予選で変化球のコースが甘くなるという弱点が見つかったので、投げ込みでは変化球を多めに投げて、欠点を直していく。

 佐和ちゃんからは、リリースポイントを気にして投げろとのこと。

 一朝一夕で直るものでもないし、これは日々の積み重ねだ。慌てる必要はない。


 「そういえば佐和ちゃん」

 「なんだ英雄?」

 「今日、俺の誕生日なんだけど」

 「そうなのか」

 マウンドで佐和ちゃんにフォームを見てもらいながら雑談をかわす。

 腕を組んでいた佐和ちゃんは驚いた顔を浮かべている。


 「だからさ、おめでとうの一つぐらいほしいんだけど」

 正直あってもなくてもかまわない。

 ただ、話すこともないしそんな話題をぶつけた次第だ。


 「そっか、それじゃあ英雄。あとで俺からのプレゼントをやるよ」

 「マジ?」

 笑顔でうなずく佐和ちゃん。意外に人間らしいところあるんだな佐和ちゃんも。


 そう会話をしたのは十数分前の出来事。

 現在、俺は普段はやらない分のポール間走をしていた。


 「英雄ぉ! 誕生日プレゼントだ! 喜べ!」

 喜々としてそんな大声をあげる佐和ちゃん。

 やっぱり、あの人悪魔だ。悪魔、鬼、鬼畜、佐和慶太。



 午後6時、今日の練習が終了となる。

 それにしても昼休み以降、岡倉のテンションが凄く高かった。

 ってか俺に絡んでくるな。ただでさえ今日は誕生日プレゼントと称したやらなくてもいい練習をさせられて疲れていると言うのに。


 「英ちゃん英ちゃん!」

 「なんでございましょうか?」

 グラウンド整備も終わり、ベンチで休憩中にスーパーハイテンションの岡倉に声をかけられる。


 「えへへぇ! ありがとね! 誕生日おめでとう!」

 「……そうですか」

 お疲れモードの俺はなにも考えられず、ありきたりな答えしか出せなかった。

 こんな感じで、俺の名前を呼び「ありがとう」だけ言う事が続いている。正直に言わなくてもダルい。


 「英雄。お前、岡倉にナニしたんだ?」

 隣に座る恭平が耳打ちしてくる。


 「昼休みの一件以外なんもしてねぇよ」

 本当にそれ以外なんもしてないので、真実を答える。


 「嘘だ!」

 急に耳元で大声をあげる恭平。

 思わず裏拳で恭平の顔面をたたく。見事鼻に当たり恭平は悶絶する。


 「耳元で叫ぶな! うるせぇ!」

 「だ、だけどよぉ! あそこまでテンションが上がってるんだぜ? 俺はてっきり、女の子が喜びそうなことをしたんだと思ってよぉ!」

 鼻をおさえながらしゃべる恭平。

 こいつの言う女の子が喜びそうなことが、卑猥なことしか出てこない。

 まさに恭平のイメージが原因なのだろう。


 「んなわけねぇだろう。なんもしてねぇよ」

 「そんなわけあるか! 変態のお前なら、岡倉とナニの一つや二つしているはずだ! くそぉ! 考えてきたら興奮してきたぁ!」

 っと言って再び悶絶し始める恭平。

 普段ならそのまま無視して帰るところだが、恭平に変態扱いされた事に腹が立った俺は、恭平の足を引っかけて転がし、足四の字固めを決めておく。



 恭平がギブアップしてから、部室に戻り受信しているメールを返す。

 中学時代の友人からのお祝いメールが何件も来ている。


 丸野港南の中島君からもメールが届いていた。

 バッティンググローブの画像付きで「お前への誕生日プレゼント画像」と書かれている。

 お前、画像送られても嬉しくねぇよ。実物くれよ。

 しかし中々面白いメールなので許してやろう。


 そして部室を後にしたのは午後7時過ぎ、部活が終わるなりさっさと帰った龍ヶ崎を除く部員たちと、それぞれの別れ道まで馬鹿話をしながら話す。


 「英ちゃん英ちゃん!」

 っと岡倉が絡んできた。


 「なんだ?」

 「えへへぇ! なんでもない! 誕生日おめでとう」

 なんだこいつ、マジでダルい。

 だがダルいなんて言わず、紳士的に対応する俺。なんて優しいんだ。



 帰宅後、俺の誕生日の夕飯は、大根の煮付けとアスパラガスのベーコン巻きだった。

 母、父からのおめでとうの一言もなく、当然誕生日ケーキなんていうハイカラなものもなかった。

 息子の誕生日とは思えないほどの地味な夕飯だった。


 「そういえば、今日英兄誕生日だよね?」

 「そうだぞ」

 夕飯を食べ終えたところで、やっと恵那が気づいた。


 「親父! 17歳になった息子になんかプレゼントはないのか?」

 「高校生にもなってプレゼントをせがむなんて子供っぽいぞ。そういうのいい加減止めろ。みっともないぞ」

 それガキん頃からずっと言われてるんだけど?

 千春や恵那なんかは、プレゼントは貰えなくても誕生日ケーキ買ってもらってるんだけど、なんで俺だけそういうの無いんだ……。


 自室に戻った俺はノートパソコンを開き、ネットサーフィンをする。

 別に恭平が調べるようなサイトは調べていない。

 高校野球の情報サイトなどを回って、新しい情報がないかを確認している。


 俺と同学年にどんな奴らがいるのか、俺の後輩にどんな奴らが居るのか、そういう情報はないよりはあったほうがいい。

 一通り目を通してから、軽く筋トレをして、風呂に入り、日付が変わる前に布団へと潜る。

 こうして、俺の誕生日は終わりを告げるのだった。

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