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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 Extra Inning
262/324

261話

 甲子園が終わり、しばらくゆっくりできると思ったのもつかの間、野球部は地元に帰ってから大忙しだ。

 学校にて優勝報告をおこない、県庁にも赴いて優勝報告をおこない、山田市の市役所にも赴いて優勝報告をおこなう。

 ローカル番組のニュース番組にも出演したし、山田商店街の連中が選手たちを祝いたいと、祝勝会を催してくれたりと連日東奔西走する騒ぎだった。


 スカウトも毎日学校にやってきては俺や大輔をはじめてとして、選手たちにアプローチをかけてきた。

 プロ野球球団のみならず大学、社会人の強豪チーム、果ては四国や北信越の独立リーグのスカウトからもうちに来ないかと誘われたものだ。


 そうしていると日付はあっという間に過ぎて、俺と大輔の二人は神奈川に来ていた。

 夏の大会終了後におこなわれる18歳以下のアジア大会の代表選手として召集されたからだ。

 優勝チームはなんと来年の世界大会に出場できる。なんてこった。嬉しくねぇ。なんで来年なんだよ。来年じゃ俺出場できねーじゃねーか。

 世界の頂点にも立ちたいのに、俺達世代に許されたのはアジアの王者のみ。世界一とアジア一ではまったくもって評価が変わってくる。だからと言ってアジア一を目指さないわけではないがな。

 やるからにはアジア一位だ。準優勝や三位チームで満足するつもりはない。

 開催地は我らが日本。神奈川の三球場にておこなわれる。 



 日本代表選手の宿舎にて、共に戦う選手たちと合流する。

 どの選手も今年の高校野球を象徴する極めて優れた選手たちばかりだ。

 まずピッチャー陣。日本代表18名のうち7名がピッチャーだ。

 その一人は俺。今大会も背番号1番をつけることになる。続いて隆誠大平安の楠木、横浜翔星の箕輪、郁栄学院の畑中と対戦してきたチームの好投手たちも選ばれた。

 あとは浜野の神田、帝光大三のエース越阪部(おさかべ)、夏の大会は出場こそ逃したが、選抜のほうで活躍をした座間味(ざまみ)高校のエース与那城(よなしろ)が選出されている。


 続いて野手陣。キャッチャー3名、内野手5名、外野手3名という形だ。

 まずは横浜翔星の正捕手の長塚、北海道の武翔館で大会能力を評価されていたキャッチャーの石田、選抜のほうで活躍した海藤大相模(かいどうだいさがみ)のキャッチャー望月(もちづき)も選ばれた。


 内野手は園田、中村、吉井、西川と俺が対戦したスラッガーが選出されている。

 あと一人は、初出場ながらベスト8に進出した由布商業のキャプテンでショートを守っていた榎木(えのき)の5人。

 外野手は大輔と郁栄学院の門馬、北九州短大付属の注目選手だった本庄(ほんじょう)の3人。

 以上が日本代表18名だ。

 監督は横浜翔星の渡邉(わたなべ)監督が指揮を執り、コーチとして埼玉の浦和明星(うらわみょうじょう)高校の森本(もりもと)監督と群馬の前橋第一(まえばしだいいち)高校の鈴木(すずき)監督が招へいされた。

 大会開幕は28日。本日24日から数日間かけて連携を重ねて大会に備える。


 大会の出場チームは8チーム。

 日本、韓国、台湾とアジアの三強の出場に加えて、タイ、フィリピン、スリランカ、香港、パキスタンの5つの国が出場をする。


 4チームづつに分かれて総当たり戦を行うグループ予選の上位各2チームが決勝トーナメントに進出し優勝国を争う。

 要するに5連勝すれば良いという事だ。なんて簡単な事だ。

 俺達と同じグループになった国は台湾とスリランカとタイだ。まずはこの3チームと総当たり戦で試合をこなしていく。



 宿舎でこれから少し間だけ仲間となる連中と顔を合わせた後は、近くの市営球場にて初練習がおこなわれた。

 アジア大会で使われるバットやボールに感覚を合わせていくところから始まった。特にバットは日本の高校野球で使われる金属バットではなく木製バットだ。選手によっては感覚が合わず打てなくなるレベルだ。

 一方で大会で使用されるボールは、普段使われているボールよりも、気持ち滑りやすく感じるが、そこまで酷いほどでもない。キャッチャーの望月に向かってどんどんとボールを投げ込んでいく。


 「ナイスピッチ佐倉君」

 「そっちこそナイスピッチング」

 俺の隣のマウンドでは楠木が石田に向かって投げている。その向こうでは神田が長塚に向かって投じている。

 おそらく今大会は俺と楠木、そして神田の三人が先発の要となる事だろう。

 近くではコーチの鈴木監督が見守っている。普段は佐和ちゃんに見られながら哲也に向かって投げていたから、なんだか不思議な感覚だ。妙に緊張感がある。



 グラウンドの方では木製バットを使ってのバッティング練習がおこなわれている。

 木製バットに慣れない選手が多数いるようで、そこまで快音が聞こえてこない。園田ですら木製バットに四苦八苦しているようだ。

 その中でひときわ木製バットの小気味よい音を響かせるバッターがいた。


 大輔だ。

 一発一発ボールを打ち抜くたびに、打球は悠々と外野のフェンスを越していく。近くで見ていた野手たちから歓声があがった。


 「凄いなあいつは、本当高校生かよ」

 隣で呆れる楠木。この前の決勝戦でさんざん大輔に打たれまくったからな。

 この大会でも大輔のバッティングに期待できそうだな。



 軽く投げ込みをした後は、越阪部と入れ替わる。

 味方となったチームの戦力を把握する。

 まずピッチャー陣、楠木と神田は抜きんでている。どちらも高校生離れしたピッチングだろう。

 畑中は日本代表でも豪速球を投げ込んでいる。箕輪も相変わらずボールは荒れ気味だが球威の乗った良いボールを投げ込む。

 越阪部と与那城は対戦したことが無いが話には聞いたことがある。

 越阪部は日帝大三のエースとして甲子園ベスト4に進出に貢献したサウスポー。平均球速は130キロ後半だがコーナーをつく制球力を武器とする技巧派。

 与那城は選抜甲子園で活躍したピッチャーだ。大きく曲がるカーブを最大の武器とする右腕。最高球速も145キロと、例年の高校野球ならばナンバー1ピッチャーと評価されてもおかしくレベルだろう。


 続いて野手陣。まずはキャッチャー。

 長塚は横浜翔星の正捕手。バッティングはいまいちだがキャッチャーとしての能力の高さは他選ばれた二人よりも頭一つ分抜き出ている。

 石田は武翔館の強肩強打の捕手。高校通算の盗塁阻止率は9割を誇るという。バッティングもパワーがあり通算32本のホームランを放っている。

 望月は選抜甲子園で活躍した捕手。一応現役の高校生キャッチャーではナンバー1という噂だ。守備能力はもちろんバッティングも高いレベルを持っているらしい。


 次に内野手。

 まずは園田。こいつは何も言うまい。この大会でもきっと中軸を任される事だろう。

 中村も同じく。薩摩の怪童としての活躍を期待したいところだが、まだ木製バットに苦戦中のようだ。

 サードは吉井が当確だろう。佐倉二世という異名以上の活躍をしてほしい所。 

 ショートは2人いる。一人は弁天学園紀州の西川。甲子園の申し子と呼ばれているだけあり、経験値ならば西川がトップだろう。一応今回のチームのキャプテンもあいつが任されている。

 もう一人は榎木。こいつとも直接対決はなかったが、こうして見てみると上手いバッティングをしている。守備も悪くないし、仲間として十分期待できるだろう。セカンドが誰も選ばれていないし、おそらく榎木がセカンドを守る事になるだろう。


 最後に外野手の3名。

 まずは門馬。こいつのバッティング技術の高さは群を抜いている。大輔のような大きな当たりは打たないが、守備の隙間を狙うような上手いバッティングを見せている。守備も走塁も高いレベルを持っているし、センターのポジションは当確だろう。

 続いて本庄。直接対決はなかったが噂には聞いていた。確かに悪くない選手だ。走攻守三拍子を兼ね揃えた選手と評価されているだけあり、同じ評価をされる門馬と比べれば幾分劣るが、それでも十分期待できるバッターだ。

 大輔は言わずもがな。日本の四番として大車輪の活躍を期待する。



 練習メニューの守備練習へと移る。

 元々技術的に高いレベルを持つ選手たちが集まったこのチームは、技術面の指導よりもチーム連携を高める練習が中心となる。

 同時に大会で使われる木製バットとボールに慣れる練習などで組まれている。


 セカンドの選手が誰一人として選出されていないため、守備練習では榎木が守っている。おそらく本番でも榎木はセカンド起用になるだろう。

 本職ではないはずだが、動きは俊敏だ。なるほど代表に選ばれるだけあって守備が上手い。


 だがどこか今日の練習は味気ない。あれか。恭平みたいに馬鹿騒ぎする奴がいないからか。どこか湿っぽいというか元気がない。

 練習中にふざけるやつがいないのは、さすがの日本代表というべきか。俺としては恭平ぐらいのふざけた野郎がいたほうが和やかに練習を楽しめるのだがなぁ。


 こんな感じで初日の練習は終わりをつげた。

 今まで敵同士だった奴らとこれからチームというのは不思議な感覚だが、滅多に出来ない経験だし楽しもう。

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