25話 修学旅行に向けて
試合が終わりグラウンド整備も終わり、片付けを始める。
ここまで俺が加入して2連勝、しかも現在17イニング連続無失点だ。さすが俺! 一年半のブランクを感じさせない大活躍だ!
「すいません。佐倉英雄君は居ますか?」
ふと相手チームの選手がこちらにやってきた。
そいつは今日の試合で、俺から全打席三振を取られた四番の中島信吾だった。
「あ? 俺だけど、なんだ?」
そういって中島を見る。うわ、坊主のくせにイケメンだ。目鼻立ちがしっかりとしていて二重瞼。眉毛の太さも絶妙。THE・イケメン。
クソが! 女子にモテてる奴爆発しろ!
なんて言葉がとっさに出てきてしまう。何故だろう、全打席三振に取った上にチームが勝利したのに、こいつ見た瞬間全てにおいて負けた気がした。悔しい。
「佐倉君が覚えてるかは分からないけど、中学の時に最後の大会で戦って、君に負けたんだ。丸野海浜中学って覚えてる? 今日はそのリベンジと思って挑んだんだが、まさかまた負けるとはな」
などと呟く中島君。
こいつ、まさかそんな事を言うために俺のところに来たのか? というか丸野海浜中学校……? 覚えていない。県大会で試合した気がしないでもないが、正直頭の中に残っていないという事はそういう事なのだろう。
「今日は負けだが、次対戦するときには絶対! ホームランを打ってやるからな! 覚悟しとけよ!」
めんどくせえええぇぇぇ!
こんな事を俺に伝えるためにやってきたのかよ!?
「あぁ分かった。次も完膚なきまでにぶっ潰してやるからな」
ここまで彼に対し風当たりが強いのは十中八九彼の顔がイケメンすぎるからだろう。
不敵に笑う彼だが、俺は興味なく視線を逸らすのだった。
とりあえず中島君と連絡先交換してから、自軍へと戻らせた。交友関係を広げる意味でも交換しといて正解だろう。こうイラッと来るほどのイケメンではあるが、案外話せば面白い奴かもしれないしな。
さてさて、これで2勝無敗となった山田高校。ちなみに荒城館と兼光学園の試合は5対2で荒城館が勝っている。
他のチームの現在の勝敗。
丸野港南、荒城館は1勝1敗。兼光学園は0勝2敗となっている。
兼光学園は次の試合でなんとしても丸野港南に勝った上で、我が校と荒城館の試合が我が校の勝利になる事で、やっと二位決定戦に進むことができる。
残りの2チームは、勝ち次第では1位である我が校に並べる。つまり港南が勝てば2勝1敗、荒城館が勝っても2勝1敗。荒城館が勝つということは、つまり俺らが負けるという事なので2勝1敗と、3チーム並ぶわけだ。
そうなると再び1位決定戦、2位決定戦をやるので、試合数が増えて面倒だ。なので、次の試合も勝ちたいところ。
次の試合は、一週間後の9月12日、伊原球場で行われる荒城館との試合になる。
翌日、月曜日。野球強豪校に僅差で勝った我らは、どこから情報漏えいしたか知らないが、クラス中に知られていた。おかげで哲也と俺は質問攻め。
哲也は照れ笑いを浮かべながら話す。何故か彼の周りには女子が多い。
対して俺は冗談交じりに時には壮大に話す。何故か俺の周りには男子が多い。
いったい、哲也と俺に何の差があるのだろうか。
「英雄、勝ったんだって! 凄いじゃん」
そんな中で沙希だけが俺に話しかけてくれた。
嬉しくて抱きつきそうになったが、相手が沙希だと冷静に考えて止めておく。
「あんた今、失礼なこと考えたでしょう?」
ふと沙希が、そんな事を聞いていた。
「べ、別に考えてねぇーし!」
「あんたが言うと、全て嘘っぽく聞こえるのよね」
なんだとー! 俺が言った嘘は、来月から牛丼が捨て値クラスの値段で安くなるとか、沙希がライブに行くほど好きな歌手が来月で引退宣言するとか、総理大臣がお食事券購入して辞職したなど、ざっと100個ぐらいしか言ってないぞ!
「それで、次の試合勝てば県大会確実なんでしょう?」
「まぁな。でも相手は夏の大会ベスト8で、甲子園で好投した斎京学館のエース様から大量得点を奪った荒城館だしな。いくら俺でも油断は出来ねぇな。まぁ打たれる事は無いだろうけどな」
俺が冷静に分析にして沙希の質問に答えると、彼女は大きく溜め息を吐いて、一瞬頭を抱えそうになっていた。
「……英雄、あんた十分に油断してるから」
「そうか? 相手は夏大ベスト8だぞ。油断してるわけないだろう?」
「その割には打たれないとか言ってるけど?」
「そりゃそうだ。俺が荒城館打線程度に打たれるわけがない」
「……そう。馬鹿は気楽で良いわね」
そう言って立ち去る沙希。そんな彼女に首をかしげた。
なんて事を考えてたら、朝のホームルームが始まった。
そうして昼休み、今日も哲也、恭平、大輔と四人で机を囲んで弁当飯。
と思ったら、岡倉がやってきた。
「岡倉、お前なんできたんだ?」
「だって英ちゃんと食べたいんだもん!」
「……お前、先日のこと忘れたのか?」
先日の事とは岡倉胸張り事件だ。
あのあと飯山さんと絶対に話し合ったはずだ。
「麻子ちゃんからは、ちゃんと許可をもらったよ! 凄いでしょ!」
そういって「ふふーん」と鼻を鳴らしながら勝ち誇った表情を浮かべる岡倉。
俺はそんな彼女を見てため息をついた。
「もう知らねぇ。勝手にしてくれ」
願わくば、彼女が恭平の変態談義に染まって、変態にならないことを祈ろう。
「修学旅行も来月だな」
「そういえばそうだな」
珍しく恭平がエロ関連じゃない話題を出してきた。今までの自分のエロい話題連発に対し思うことがあったのだろうか?
ちなみに修学旅行は来月10月の上旬におこなわれる。行き先は沖縄だ。
「話だと海水浴もするらしいなぁ!」
食い気味に話し始める恭平。あ……そういうことね。
やっぱり恭平からエロい話題は切り離せないようだ。だがしかしその話題、詳しく聞こう。
「さらに話だと水着は持参らしいなぁ!」
「そうだな」
「おい英雄! 水着だぞ! どうしてそうテンション低いんだよお前はぁ!」
お前がテンション高すぎるんだよ。
言っとくが俺のテンションの高さぐらいが、思春期真っ盛りの高校生レベルだぞ? お前が異常なんだぜ?
「岡倉はどんな水着持っていくんだ?」
平気で女子に水着の話題を聞く恭平。
さすがにそれはアレだわ。恭平、少しは口を慎もうな。
「私はワンピースタイプの水着だけど?」
そして岡倉、お前も答えるな。
お前ら別に付き合ってるわけでもないんだろう?
「ワンピースタイプの水着かぁ……岡倉はビキニが似合うと思うんだよなぁ俺! 迫力、っていうの? そういうのが増すと思うんだよねぇ!」
だから恭平、お前は少し言葉を選べって。
「ビキニかぁ……英ちゃんはどっちがいいと思う?」
そうしてお前らは俺を巻き込もうとするな。
「スクール水着かな」
そして俺も少しは自重しような?
いや、スクール水着も好きなんだけどさ。
「お、英雄わかってるな! スクール水着も良いよな!」
恭平が嬉しそうに同調してきた。やめろ、同調するな。マジで泣きたくなるから。
「英ちゃん、スクール水着って別に授業で行くわけじゃないんだよ?」
岡倉、そのマジレスやめてくれ。分かってるから。
「でも英ちゃんが好きって言うなら、少し考えるけど……」
それから真剣に悩まないでくれ。
冗談だから、冗談で言っただけだから。
「冗談だよ。ワンピース水着でも良いんじゃねぇの? 大切なのは着る人物に合ってるかどうかだろうし」
「英雄、お前良く言った。さすが俺が認めた男だ」
本当お前には認められたくなかったよ恭平。
「ちなみに哲也はどんな水着が好きなんだ?」
恭平が頬を赤くしながら、こそこそと弁当を食べていた哲也に爽やかな笑顔を浮かべながら聞いた。
「え!? ぼ、僕はそういうの詳しくないから……」
「嘘つけ、お前マイクロビキニが好きだったろ?」
「ち、違うよ! マイクロビキニなんて、そんな……エロいの好きじゃないよ!」
俺が追い打ちをかけると必死に否定する哲也。
そういうの詳しくない割には、マイクロビキニは知ってるみたいだな。だからむっつり言われるんだぞ哲也。
「エロいの好きじゃないだと? 哲也、お前は本気でそれ言ってるのか? エロくない男は生物的に欠陥品にすぎないぞ! どうやって俺たちが生まれた? 先祖が揃い揃ってエロく、女とエッチしたためだろ? つまりエロいんだよ男たちは、そうだろ? そうじゃなきゃ、俺たちは生まれてない。そして哲也、お前もエロいんだ。次の世代にバトンタッチする為に、エロいことをする必要があるんだ。分かるか?」
だから恭平、お前はエロを崇拝しすぎだ。
哲也もだいぶ慣れたようで呆れている。
「分かったから、恭平一度落ち着こう」
「俺はいつだって落ち着いている」
は? 何言ってんだこいつ?
「恭平、ナースについてどう思う?」
「英雄お前の好きなジャンルだったな。ナースは一見エロスを感じない清廉な部類の存在だろう。しかし、逆に純真で清廉潔白だからこそ汚したいという男の欲が生まれる。これはシスター、天使に対しても言える事だ。いかなる神聖なものであろうと男の前では全て同じということだ! うおぉぉ想像したら興奮してきたぁ!」
案の定、勝手に妄想し始めて興奮する恭平。
こいつの辞書に「落ち着く」という言葉はまず存在しないだろう。
「大輔は修学旅行なにが楽しみだ?」
「そんなの本場の沖縄料理に決まってるだろう? ゴーヤチャンプルーにソーキそば、足ティビチ、クーブイリチーに、あとは魚介料理だな。こっちと違う種類の魚を使った料理が多いらしいからな。食べ歩きしたい」
こっちも案の定の答えが返ってきた。
相変わらず食事に関しては全力だなこいつ。
「あと菓子もだな。サーターアンダーギーとかちんすこうとか」
「は? ちんこ?」
黙ってろ恭平。
「哲也は何が楽しみだ?」
「やっぱり観光かなぁ。美ら海水族館に首里城は日程通り回るけど、最終日の国際通り巡る自由時間に近くのやちむん通りにも行きたいなぁとは思ってる。もちろん沖縄に行く以上は沖縄戦の史跡も巡らないとだけどね」
相変わらず哲也は普通だった。
本当、変人しかいないこの席で唯一まともな気がする。
「英ちゃん! 私には聞かないの!?」
ここで岡倉が絡んでくる。
いや、だって岡倉に話振ると、めっちゃ怠いんだもん。
「じゃあ岡倉は?」
「私はね、美ら海水族館でお魚さん見たいし、お土産とかも買いたいし、あとは夜に友達と一緒にお泊りするのも楽しみ! あとそれから……」
ほら、こうやってどんどん話を広げてくー。
しかもなにかこちらが言うと、別の話題にぶっ飛んでいくから、マジで話してるだけで疲れるんだ。
「そうか。そうなんだ」
適当に相槌を打ちながら岡倉の話を聞き流す。
修学旅行も楽しみだが、まずは荒城館高校との試合、そして県大会優勝を目指さないとなぁ。




