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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
2章 天才、七転八起する
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21話 今日のおすすめ 佐倉英雄

 秋の地区予選の初戦である30日は月曜なので、その前日となる日曜は本来休みの曜日だが、午前の数時間だが軽く練習予定となった。

 そのため本日22日日曜日が、大会前最後の休養日となった。


 俺はと言うと、何故か恭平と大輔と須田の四人で、山田駅前の良く分からんモニュメントの前に立っていた。


 「まず聞かせてもらうぞ大輔。俺らは何故招集された?」

 恭平に招集されるならまだしも、あまり遊びの誘いをして来ない大輔から集合の号令がかかると疑問しか芽生えない。

 というのも、今回誘ってきたのは大輔だった。今朝早くに、突然大輔から電話がかかってきて、「今日の10時に遊ぼう」と誘ってきたのだ。

 恭平からそんな電話がかかってきたら、今頃恭平に関節技の一つや二つ決めているところだが、大輔なのでやらないでおく。返り討ちにあいそうだしね。


 「しょうがねぇだろう。クラスの女子が飯奢ってあげる代わりに、須田とあと男子二人集めて来いって言われたんだから」

 なるほど、つまり俺と恭平は大輔が飯を食いたいがために招集された人材というわけか。なんだろう、相手が恭平なら今頃関節の一つや二つ外していたところだった。大輔だからやらないけど、逆に俺の関節が粉砕されそうだし。

 あくびを掻いて眠そうにしている大輔は、タンクトップにジーパンというラフな格好。

 筋肉があるが、細マッチョのこいつには、かなり似合うスタイルだ。

 というか、その女子の誘いって要は大輔と須田と飯を食いたいって事だろう。そこに異物である俺と恭平が入っていいものだろうか? 俺はまだしも恭平はあれだぞ。恭平だぞ。


 「だったら哲也とか龍ヶ崎を呼べよ。まず俺と恭平が来ても喜ばんだろ、相手の女子は」

 「まぁ良いじゃないか英雄ぉ! 女子とエッチな会話ができるんだぞ!」

 そう満面の笑みで語る恭平。別に女子と話はできるかもしれないが、エッチな会話ができるとは限らんぞ。いや、恭平ならどんな相手であろうとエロい話もっていけるだろうな。

 恭平は丸刈り頭なのに、ワックスをつけている。休日で恭平のアホさは平常通り運行中のようだ。


 「だけど三人坊主頭って、どこの葬式だっての……」

 そういって俺は自分の頭をさすった。正確には大輔と俺は坊主頭ではなくスポーツ刈りなので、坊主頭は恭平1人のみ。

 その恭平の坊主頭も五厘刈りのような短いものではない。

 佐和ちゃんからは「審判の心象良くするために髪だけは短くしろ」とは言われているが、五厘刈りにしろとか、坊主頭にしろとかは言われていない。

 なので、五厘刈りの坊主頭といういかにも高校球児というスタイルの選手は、うちの学校にいなかったりする。


 「女子も四人呼んだら、合コンになるね」

 須田がそう的確に言う。

 確かにそうなるか。おいおい、そうなったら余計に俺と恭平の場違い感半端ねぇぞ。


 「まぁ、どんな可愛い子呼んでも、僕はつねに英雄君だけしか見てないけどね」

 そう須田に耳元で囁かれ、大輔の影に隠れる小心者の俺だった。須田怖い。



 「お待たせぇー!」

 約束の時間から十数分後、黄色い声に男四人が振り返る。

 そこには大輔と同じクラスの川島帆波(かわしまほなみ)内田真喜(うちだまき)藤川百合(ふじかわゆり)、そして鵡川梓の四人が居た。

 うわ、本当に四人でやってきやがった。これじゃあ合コンやんけ。


 「ってか三村君、なんでこの人選……」

 川島が俺と恭平を見て、小さい声で大輔に聞いている。

 俺らに聞こえないように配慮したつもりなんだろうけど、ごめん、しっかり聞こえてる。


 「ワリィなぁ。恭平はこの事話したら、絶対に行くとか言うからさ」

 「あはは! 大輔、その事言うなよぉ!」

 恭平が話に入っていく。あいつは自分から来たのかよ!

 あぁ、川島にすごい冷たい視線を向けられてる。可哀想だな恭平。

 っと思ったら俺にも向けられたし。


 「英雄は俺のオススメだ」

 大輔が俺を指差しながら言う。

 男にオススメされても嬉しくない。


 「僕も佐倉君はオススメかな」

 大輔の言葉にのるように須田にもオススメをされる。

 ごめん、お前にオススメって言われると違う意味でしか捉えられない。


 「そう……。まぁ良いや。じゃあさ! カラオケ行こ! カラオケで歌って、お腹空かせてから、ご飯食べよう!」

 そう笑顔で提案する川島。視線は大輔と須田にしか向けられておらず、あきらか俺と恭平は眼中にない様子。安心しろ川島、俺もお前なんか眼中にない。

 ってことで、男女八人で山田駅近くにあるカラオケ店へと向かう。

 女子四人は大輔や須田と和気あいあいと話す。俺と恭平は、間違いなく蚊帳の外だ。


 「なぁ恭平?」

 「うん?」

 「これって大輔の新手のいじめかな?」

 「んな訳ねぇだろう! 大輔は神様仏様だ! 俺もあの輪に入ってくるべぇ!」

 そう言って、前を歩く集団に割って入ってく恭平。

 川島や内田から心底嫌そうな視線を向けられても、恭平は気にしていない様子。しかも割って入ってそうそう下ネタ発しやがった。

 ああいう、たくましさを俺は持ちたいと思ったけど、やっぱりあそこまでたくましくならなくていいや。



 カラオケでは、順番に歌っていく。

 室内が暗いおかげか、俺や恭平も、なんだか輪の中に入れてもらえた。

 その中で目立つのは恭平。あいつ、下ネタばっか言うけど意外に歌が上手い。その上、時折混ぜるハイテンションな発言に、自然と場の雰囲気が盛り上がる。

 やはり恭平は、下ネタさえ除けば普通にイケメンだと思う。下ネタさえ除けば。女子もこの恭平を見て少しは彼を見直した事だろう。


 まぁ歌い終わった後にすぐさま卑猥な言葉を女子に告げる恭平を見て、評価は逆戻りからの大幅減点になってるだろうけど。女子達はかなり引き気味。ってかドン引きしている。

 大輔は川島と話しているし、須田も内田と話しており、一人だけポツンと疎外感を味わう俺。練習よりも大きな疲労感が押し寄せてきそうだ。


 「……あの佐倉君」

 そんな中で鵡川だけが、俺に声をかけてくる。

 思わず感極まって涙を流しそうになりながらも「どうした?」と冷静を装って対処する。


 「えっと……その……。夏の大会以来だね」

 「そうだなぁ」

 こんな感じで、俺と鵡川はしゃべり始める。


 「そういえば良ちんどうしてる?」

 「良平なら毎日練習。今日は地区予選前最後の練習試合って事で大阪のほうまで行ってるよ」

 「うわ、さすが名門校。やることが派手だな」

 どうせ今頃、大阪の野球強豪校と試合をしているんだろうな。

 羨ましくないと言えば嘘になる。こればかりは野球強豪校の特権だな。


 「佐倉君のほうは、野球部に入ったんだってね」

 「おぅ、良く知ってるな」

 「うん、噂で聞いただけだけどね」

 そういって微笑む鵡川。 


 「練習は厳しいの?」

 「まぁな。でもこれぐらいで弱音吐いてちゃ、来年の夏に良ちんに勝てないさ。むしろ今までの倍以上の練習をもってこいって言いたいぐらいだね」

 強気な発言してるけど、これは嘘だ。今すぐ練習量を減らして欲しい。

 マジで佐和ちゃんの練習内容、頭おかしいよぉ……。

 そりゃね、確かにウィークポイントを的確に見極めて、その上で最適な練習をしてくれるその指導力は凄いと思うよ? だけどさ、厳しすぎるんだよ。なんか佐和ちゃん、楽しそうに笑いながらえげつない事要求するしさ。

 マジであの人鬼畜だ。悪魔の化身に違いない。


 「そっか。頑張ってるんだ」

 「甲子園目指してるんだから、これぐらい普通さ」

 どんなに胸の内で弱音を吐いても、女子の前では弱音を吐かないのが男の子の強がりというものだ。


 「甲子園……。行く気なんだ……」

 少し困惑している様子の鵡川は呆れ笑いを浮かべた。

 そりゃ助っ人呼んでやっと試合ができるようなチーム状況で、甲子園目指してますとか言ってれば困惑するよな。


 「高校球児なんだから当たり前だろう? ってか甲子園出場なんて、俺なら出来て当たり前のことだ」

 いつものように発言したところで、鵡川が少し躊躇いつつも口を開く。


 「佐倉君って……その……」

 「ん?」

 ここで口ごもる鵡川。


 「なんだ? 言いかけられると凄い気になるんだが?」

 「いや、その……言ったら佐倉君を不快な気持ちにさせちゃうかもって思ったから」

 「なんだそういう事か。安心しろ。俺の懐は大海原よりも広い。ちょっとやそっとの言葉で不快にならねぇよ」

 そういって胸を軽くたたく。

 そんな俺の様子を見て、鵡川は微笑む。


 「えっと、それじゃあ……その……佐倉君って、なんていうか強気な発言多いよねって思って……。そういう発言ばかりしてると、いつか自分で自分の首を絞めるよって思って……その……ごめんね」

 強気な発言か。そりゃそうか。自分は天才だとか、甲子園は余裕だとか、強気発言の何者でもないだろう。


 「謝る事じゃないだろう。俺が強気な発言してんのはわざとだしな」

 そういつだって俺はわざと口にしてきた。


 「周囲に向かって、こういうデッカイ夢を口にしたらさ、絶対に実現させないとってな感じで気持ちが引き締まるんだよ。俺はめっちゃプライド高いからな。大口叩いて何も果たせずホラ吹き野郎になるなんて絶対に嫌だからさ、頑張ろうって思うし、実現してやろうって思うんだ」

 強気な発言は、弱い自分を律するための縛りでしかない。

 いつだって俺は、強気にデカイ夢を声高に発して、それを叶え続けてきた。これからだってそうだ。俺はいつまでも、なりたい自分を口にして、それを目指すだけだ。


 「……佐倉君って、なんていうか凄いね」

 「やっと気づいたか。俺は凄いんだよ」

 嬉しそうに微笑む鵡川に俺も笑みを浮かべながら答えた。


 「俺の話はさておき、鵡川のほうこそどうなんだ? 夏休み満喫してるか?」

 「うん、それなりに」

 こんな感じで良ちんの近況、俺の近況、鵡川の近況と話していく。合コンで良くある趣味などの会話は一切無い。

 しばらくして、鵡川と俺の間に、恭平が割って入り、恭平と鵡川がしゃべり始める。


 俺は仕方なく、恭平の猥談トークを10分近く聞かされていた藤川百合と会話を始めた。



 「すごい顔してるぞお前」

 「あぁ……佐倉か。ごめん、今疲れてるから話しかけないでくれる?」

 めっちゃ憔悴しきってる。そら、恭平の猥談を10分近く聞かされていたなら当然か。正直俺だって恭平と10分も猥談トークする自信はない。


 「疲れた時はブドウ糖がいいぞ。ただの甘いチョコとかはNGだからな」

 「そうなんだ。佐倉って意外に物知りなんだね」

 「意外は余計だ」

 疲れたような顔で笑う藤川に、俺も笑みを浮かべながら返答する。

 って事で藤川と話す。とりあえず様々な雑学とか、くだらない話をしていたら、俺の会話にご満悦の様子。

 恭平のエロ座談の後ということもあり、余計に俺の話が面白かったっぽい。


 「佐倉って、結構まともだったんだね」

 「むしろ俺ってまともじゃないイメージなのか?」

 「そりゃそうでしょ、女子のバストサイズ聞いたりとか、女子更衣室覗いてたとか、悪名はたくさん聞いてるけど?」

 言っとくが、どちらも冤罪だ。高校一年生の頃、確かに両方とも起きた事件だが、一方は岡倉とかいう馬鹿が勝手に自分のバストサイズを語りだし、もう一方は教師に武道場の女子更衣室裏の掃除を任されたときに更衣室覗きの犯人と間違われただけだ。

 どちらも恭平ならやってるかもしれないが、俺はやってない。いや、ちょっとやってたかもしれないけど、記憶にないだけで。


 「あと、あの嘉村と仲良くしてるじゃん。それだけで一発アウトでしょ」

 恭平、存在自体がレッドカードってやべぇな。さすがだぜ。

 というか、恭平が騒ぐ事によって俺の評価も巻き添え食らってる説が、一気に真実味を帯びてきたぞ、おい。

 まぁ恭平といつも騒いでるの俺ぐらいだしなぁ。そう思われても仕方がないか。


 「恭平はな。本当はめっちゃ面白い奴だぞ。誰でも構わず猥談をし始める事を除けば」

 「あー、まぁ確かに。変態じゃなきゃマシかも。歌上手いし、盛り上げるのも上手いし」

 「そうそう、あの下ネタが落ち着けば、かなり良物件だぞあいつ」

 「えー、それは無いかも」

 なんて感じで、ちょっと離れた席で鵡川に猥談をしている恭平を二人して見ながら言い合う。


 「そうだ。せっかくだし連絡先交換しない?」

 「あぁ、別にいいよ」

 そういってスマートフォンを取り出す。

 知り合いが増えるのは良い事だ。



 「そろそろお開きにしようかぁ」

 カラオケの後、ファミレスで飯を食べて、そのあとはゲーセンを回っていた。

 久々のプリクラとかを取ったり、シューティングゲームをしたり、レトロゲームで盛り上がったり、そんな感じでワイワイガヤガヤと楽しんでいたら、夕方を迎えた。

 ゲーセンを出たところで川島がそう言って。模擬合コンはお開きとなった。

 結局、俺は藤川と連絡先を交換しただけに留まった。


 恭平は誰からももらえず、泣いていたのを覚えている。

 まぁ一日中、女子に卑猥な話しかしなかったんだから、そりゃもらえんわ。

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