198話
抽選会の終わった会場。
各校の選手たちはぞろぞろと出口へと向かう中で、我が校も席を立ち上がる。だが一人、哲也だけはしょんぼり顔を浮かべて立ち上がらない。
「ごめん…くじ運悪くて…」
そうして聞き飽きるぐらいに聞いた謝罪をしてきた。
哲也は強豪とばかり当たる番号を引いてしまったことを悔やんでいる。
「何言ってるんだよ哲也。城南も愛翔も郁栄も、あと阪南もか、全部哲也のあとに引いただろ? 別に哲也のくじ運が悪いわけじゃねーって」
落ち込むキャプテンを励ます大輔。
まさに大輔の言うとおりだ。第一哲也のくじ運は悪くない。
「むしろ初戦から大会注目スラッガーの中村がいる城南を引き当ててくれて感謝だぜ哲也。どーせ甲子園に来たんだから、強い奴と戦わなきゃ損だろ?」
大輔に続くように俺も哲也を励ます。
今回の抽選結果で悔やんでいるのは我が校では哲也だけだ。他の選手は誰ひとりとして不平不満は言ってないし、嫌がってる素振りは見せない。
みんな、今回の結果に納得している。
「第一、どこと当たっても相手は地区の代表なんだから、強いのは確実だろ? それならどこと当たっても問題ねぇだろ」
さらには龍ヶ崎にまで励まされる始末。
もう結果が出てしまった以上、悔やんでいる暇はない。六日には大会が開幕し、我が校の初戦を迎える。
今は、限られた時間で相手チームの情報を集めるだけだ。
ホテルに帰った俺は、スマートフォンなどで城南高校の情報を集めていく。
城南は鹿児島の野球強豪校の一つ。薩摩実業、神野学園と並び三強に数えられている。
我が県で言ってしまえば、斎京学館、酒敷商業、丸野港南的な感じか。
昨年の夏、今年の選抜、そして今大会と3季連続の甲子園出場を果たしている。
昨夏はベスト4、昨年の神宮大会にも出場し、そこでは初戦敗退も、選抜ではベスト16と結果を残している。
この成績の立役者が、城南野球部の四番でありキャプテンの中村浩太。
彼の名前が全国的に知られるようになったのは去年の夏の甲子園。
当時二年で四番を任されていた彼は、準決勝で敗れるまでの四試合で3本のホームランを放ち、一躍有名人となった。
神宮大会では場外まで飛ぶ特大ホームランを放ち、選抜では初戦で二打席連続ホームラン。
ついたあだ名が薩摩の怪童。
高校野球のニュース記事から中村の画像を見つけた。
スゲェごつい。半袖のユニフォームから突き出る腕は高校生とは思えないぐらいに太い。
隆々とした胸筋、ケツもクソでかく、太ももにいたっては丸太のよう。
こりゃ怪童なんてあだ名をつけられるわけだ。見た目が高校球児らしくない。
これまでの通算ホームランは47本。
去年の夏の甲子園の際に、中村を特集した記事を見つけてパラッと読んでみたが、中村が今のように打ち始めたのは高校一年の冬を越えた後かららしい。
それまでは体格が大きい割には飛距離が伸びず、一年の夏からベンチ入りしながらも、結果を残せていなかったらしい。
しかし一年生の冬にバッティングフォームの改造をした所、これが大ハマリし、今のような打球を打つようになったと。
去年の夏の甲子園の映像も見つけた。
映像には外角への失投を豪快なスイングで捉えスタンドまで運ぶ中村の姿が映る。
「すげーな」
ベッドの上で寝転がりながら、俺は感嘆の声を漏らした。
「中村はすごいが、城南は大した事ない」
ここでやっと佐和ちゃんが口を開いた。
現在俺は、哲也と共同生活をしている部屋ではなく、佐和ちゃんの部屋に来て、スマートフォンを見ている。
せっかく初戦の相手が決まったので、監督である佐和ちゃん見解を聞きたかったのだ。
話を戻すが、佐和ちゃんが今言ったとおり、城南は大した事ない。
いや3季連続甲子園出場とか大した事なんだけどさ、チームの戦力的には去年の夏以下だ。
去年の夏の快進撃は、中村のおかげでもあるが、同時に当時三年生のエースピッチャーのおかげでもあった。
エースの好投と四番中村の活躍によってベスト4まで進出した。
だが、今年はそのエースがいない。
今チームでエースナンバーをつけているピッチャーを調べる。
福永大成。
左の速球派。最速142キロのストレートを中心に、時折投じるチェンジアップとカーブで緩急をつけて抑えるタイプ。
十分プロ入りしてもおかしくないレベルの好投手だ。
だが、去年のエースピッチャーに比べると見劣りするし、何よりも…。
「川端倒した俺たちの敵じゃないっすねー」
これに尽きる。
斎京学館を破った俺たちなら、川端と対峙した俺たちなら、これぐらいのピッチャーはまだまだ攻略する術がある。
「そういう事だ。城南で怖いのは中村だけ。打線も言うほど強力じゃない」
佐和ちゃんと俺との意見が一致する。
それでも油断はできない。相手は激戦の鹿児島を勝ち上がってきた甲子園常連校。甲子園経験に関しては我らとは雲泥の差。実力が伯仲しても、経験の差で敗れる場合もある。
「あとはお前の調子しだいだな」
「それはお任せくだされ。ここ最近絶好調だ」
キメ顔一つ浮かべてピースしてみせた。
ここ最近、俺の調子は絶好調。いや絶好調の上を行く超好調と言っても過言ではない。
県大会の時は不調だったが、無事甲子園開幕前に調子を取り戻した。これなら城南が相手だろうと、阪南学園が相手だろうと、隆誠大平安が相手だろうと、投げ負ける気がしない。それぐらい調子がいい。
「そうか。頼もしいな。エース」
佐和ちゃんは俺の答えを聞いて、嬉しそうに笑った。
「ちなみに佐和ちゃん的に、今回の抽選どうだった?」
「中々面白い組み合わせになったと思うよ。哲也のくじ運に感謝だな」
佐和ちゃんにとっても初めての甲子園。
そんな初の甲子園で、優勝候補3校と同じブロック入りをしてしまったのに、どこか楽しそうだ。
「城南に勝てば、順当通りなら阪南学園。お前の親父さんの母校だな」
「ですね。けど俺的には相手の函館実業に頑張って欲しいですね。初出場仲間だし」
阪南学園の初戦の相手となる函館実業を密かに応援する。
数少ない初出場校同士だし、お互い快進撃をしてもらいたいものだ。
「まぁ妥当に阪南学園だろう」
「でしょうね」
夢も希望もない男だな佐和ちゃんは。
だけど佐和ちゃんの言うとおりだ。今年の阪南学園は戦力が揃っている。選抜準優勝になってるぐらいだし、優勝候補であるのは確実だろう。
「阪南学園に勝っても、郁栄学院、愛翔学園と来るか」
「あとは山形の酒田南陵と高知の鷹城商業もですよ」
一応佐和ちゃんの言葉に継ぎ足しておくが、順当通りに郁栄か愛翔が勝ち上がってくるだろう。
郁栄は投打に主軸がいるし、愛翔のエースは昨夏の甲子園優勝ピッチャー。その他豊富な戦力を備えている。
酒田南陵も鷹城商業もこの二校を破るのは、中々至難の業だろうな。
そうなると、やはり郁栄か愛翔かのどっちかか。
「…早く試合したい」
「盛るなよ英雄」
ニヤッと笑う佐和ちゃんに、俺もにやりと笑って返した。
その夜、沙希から電話があった。
≪もしもし、抽選結果見たけど、凄い事になったわね≫
「おぅ! 哲也のバカ野郎のくじ運やべぇわ」
隣で哲也がいる中、俺は普段よりも声量を上げていう。
一度哲也を見る。あ、しょんぼりしてる。
≪哲也のせいじゃないでしょ? 大体英雄的には嬉しかったんじゃないの?≫
「おっ、良くわかったな。マジ最高、哲也が女なら今頃愛の告白してたわ。それぐらい最高の抽選結果だ」
変な例えを交えつつ、今の心境を語る俺。
≪そう。…頑張ってね。初戦、応援に行くから≫
「サンキュー! あと哲也にも一言頼むわ。哲也! パス!」
そういって哲也にスマートフォンを投げて渡す。
哲也は慌てながらもしっかりとキャッチし、電話越しに片思いの女の子とお話し始める。
それを横目に、俺は今日決まった抽選結果が書かれたトーナメント表に目を通した。
49の地区から勝ち上がってきた強豪。
六日から始まり、およそ二週間後には決勝戦おこなわれる。
どこが勝ち上がり、どこが敗れ、どこが喜び、どこが涙するのか。
まだ分からない。だけど、敗れたくはないし、悔しさに涙しながら甲子園の土を集めたくはない。
出来るなら最後まで勝ち続けて笑って終わりたい。いや絶対に勝ち続けて笑って終わってやる!




