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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
150/324

149話

 オーダー交換と先攻後攻決めのジャンケンから戻ってきた哲也の口から、先攻と発表された。

 まぁ今日の試合は、先手を取りたいしな。

 1点さえ取れば勝てる試合だ。俺なら多少不調でも相手打線を0点で抑えられるだろう。


 オーダーはいつも通り。

 一番ショート恭平、二番センター耕平君、三番ライト龍ヶ崎、四番レフト大輔、五番ピッチャー俺、六番サード中村っち、七番ファースト秀平、八番キャッチャー哲也、九番セカンド石村だ。


 相手の先発ピッチャーは、三戦続けて久遠。

 さすがはチームの投打の柱。いやさすがにあんな喧嘩売っといてスタメンから外れてたら、腹抱えて笑っていたわ。

 スタメンを一目見たが、前二戦とまったく同じオーダーで挑んでくる。隠し玉とかそういう選手はいなさそうだ。



 球場入りし、いつも通りキャッチボールし終えると、後攻の龍獄が先にシートノックを受ける。

 その間に哲也とブルペンで軽めに投げる。一応全球種数球投げて状態を確認をし終える頃、相手のノックが終わり、今度はこっちのノックとなった。


 こちらのシートノックも終え、ベンチ前に整列する。

 ふとセンターにある電光掲示板へと視線を向けた。その掲示板にあるデジタル時計で時刻を確認する。

 時刻は現在8時55分をさしている。定刻通り9時に試合が開始できそうだ。

 そして空を確認する。どんより雲が空を覆っている。今日は一日中曇り、夜から明日朝にかけて雨が降ると天気予報が言っていた。

 ジメッとしていて、肌にまとわりつくような蒸し暑さ。夏だというのに、梅雨のような暑さを感じる。俺はもっとこうサンサンと輝く太陽の下、高校野球をしたいな。

 だが球場の外から聞こえてくるセミの鳴き声はグッドだ。夏らしくて良い。


 「集合!」

 とか考えてると、球審の声が聞こえた。


 「行くぞぉ!!」「行くぞ!」

 それを聞いて、両校のキャプテンが声をあげ、両者がグラウンドへと飛び出し、スタンドからは拍手が起きた。

 そしてホームベースを挟んで、両校は整列する。

 俺の目の前に立っているのは久遠だった。

 先ほど見せたウザったい笑顔はない。安心した。試合中もあんな笑顔を浮かべられてたら、こっちもイライラして制球が定まらなくなってたかもしれん。いや、自分で考えといてアレだが、今のはさすがにないな。


 「礼!」

 なんてことを考えてると、球審が声を張り上げて指示を出す。

 その指示に従い俺達は頭を下げ、しっかりと力強く挨拶をした。


 グラウンドに散らばる龍獄ナインと、ベンチに戻る我が山田高校。

 マウンドでは投球練習を始める久遠の姿。


 「さぁゲーム開始だ! 追い込まれる前に打ってけよ!」

 「はい!」

 ベンチ前で円陣を組んでいた我が山田ナインは、力強く佐和ちゃんの言葉に返事をする。


 「英雄! 初回から先取点とって、楽に投げさせてやるぜ!」

 一人円陣から外れ、打席のほうにいた恭平が大声をあげて、こちらに言ってきた。そして球審に注意される恭平。なにやってんだあいつは。思わず笑みを溢してしまう。


 「恭平の言うとおりだ。ちゃっちゃっと点を入れて有利に進めよう」

 大輔が恭平に続くように口にする。


 「そうだな。三村に回る前に先制点あげてやる」

 さらに龍ヶ崎も続く。

 本当頼れる仲間だわお前ら。今日の試合、こいつらに任せて俺は気楽にピッチングに専念しよう。


 「何点取ろうが、1点ありゃあ俺が抑えてやるから、確実に1点取ってくれよな」

 こんな頼れる仲間が後ろで守ってくれるんだ。

 無様なピッチングはできない。今日の試合は最低でも完封勝ちを目標にしよう。



 「しゃあぁぁす!!」

 恭平が元気良く挨拶をして、右打席へと入る。

 俺はベンチそばで、哲也とキャッチボールをする。


 試合開始のサイレンが球場に鳴り響く中、久遠は投球モーションに入った。

 右のワインドアップモーションの上手投げ。フォーム自体にアレンジは加えていないようで、見るからに普通なピッチングフォーム。

 ピッチャー初心者が最初に教えられるピッチングフォームを忠実にこなしているイメージ。


 そのフォームから投じられるのは最速132キロを叩き出すストレート。

 それを恭平が打ちに行った。


 サイレンの音が鳴り響く球場内に、甲高い金属音が轟いた。

 打球はショート頭上をライナーで越し、レフト前の外野の芝生にワンバウンドする当たり。

 初球打ちのレフト前ヒット。前の城東戦に続いて二試合連続の先頭打者初球打ちヒット出塁だ。

 ヒットを打った時のファンファーレがスタンドから鳴り止まない中、拍手と歓声がこちら側のスタンドからあふれた。


 「…初球打ちかよ。相変わらず積極的すぎんだよあいつは」

 一塁ベース上で喜んでいる恭平を見ながら、俺は呆れたように呟いた。

 俺の理想的な一番バッターは、とにかく粘って、相手の持ち球全てを投げさせるような奴が良いのだがな。

 それでも恭平が出塁するのはデカい。あいつが出塁すると、チームが大いに盛り上がるからな。だてに天然のムードメーカーやっていない。


 「恭平! リード中に転べー!」

 「牽制死しろー!」

 大輔と誉が恭平に冗談交じりの野次を飛ばしている。今に審判に注意されるぞお前ら。

 恭平が出塁すると、あぁいう野次なりなんりがベンチからたくさん飛んでくる。そうなると自然とベンチが盛り上がり、勢いや流れが生まれ始める。

 なんにせよ、恭平がヒットを打てばチームが盛り上がる。本当羨ましい才能を持ってるよあいつは。


 続くバッターは二番の耕平君。

 こちらはカウントワンボールワンストライクの平行カウントからの3球目、インコースへのストレートを引っ張り、一二塁間を抜くライト前ヒットを放った。


 いきなりのノーアウト一二塁のチャンス。

 ここからクリーンナップへと回る。打者は三番の龍ヶ崎。


 龍ヶ崎が右打席に入るなり、スタンドからは龍ヶ崎の応援歌狙い撃ちが流れ始めた。

 有志で組まれたブラスバンドは、通常よりも早いテンポで軽快な演奏をし、それに合わせて応援団が声を合わせ応援をする。

 良い応援だ。やっぱり高校野球はこうでないと。


 「…てか、このままだと俺まで回りそうだな」

 併殺打とかランナーがアウトにでもならなきゃ、五番バッターの俺にも打順が回ってくる。

 哲也とのキャッチボールを止めて、ベンチへと戻り、打席に入る準備を始める。

 ネクストバッターサークルには大輔がいて、打席には龍ヶ崎。中学時代では考えられなぐらい、頼れるバッターが並んでいる。

 …あの時とは違う。


 ここまで中学時代と比較してしまうのは、おそらく相手チームのチームカラーが中学時代の我が校と同じだからだろう。そして相手エースが中学時代の仲間だからだろう。


 ッキィィィィィン!!!


 快音が反響する。その音を聞いて歓声がワッと起きた。

 打球は三遊間へのライナー。ショートが飛びつくも捕れず、レフト前へと転がっていく。

 二塁ランナー恭平は抜けるのを確認してから走り出したせいで、三塁ベースストップとなったが、これでノーアウト満塁。そして打者は四番の大輔。


 「大輔ぇ! 頼むぞぉ!」

 俺の声に、大輔は一度こっちへと振り向き、右手の親指を立てて返答した。やべぇカッコ良すぎだろ大輔。俺もあとでベンチから声援送られたら、それやろ。

 打席へと向かう大輔の背中。相変わらず大きくて感じた。頼むぜ四番、バシっと決めてくれよな!

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