149話
オーダー交換と先攻後攻決めのジャンケンから戻ってきた哲也の口から、先攻と発表された。
まぁ今日の試合は、先手を取りたいしな。
1点さえ取れば勝てる試合だ。俺なら多少不調でも相手打線を0点で抑えられるだろう。
オーダーはいつも通り。
一番ショート恭平、二番センター耕平君、三番ライト龍ヶ崎、四番レフト大輔、五番ピッチャー俺、六番サード中村っち、七番ファースト秀平、八番キャッチャー哲也、九番セカンド石村だ。
相手の先発ピッチャーは、三戦続けて久遠。
さすがはチームの投打の柱。いやさすがにあんな喧嘩売っといてスタメンから外れてたら、腹抱えて笑っていたわ。
スタメンを一目見たが、前二戦とまったく同じオーダーで挑んでくる。隠し玉とかそういう選手はいなさそうだ。
球場入りし、いつも通りキャッチボールし終えると、後攻の龍獄が先にシートノックを受ける。
その間に哲也とブルペンで軽めに投げる。一応全球種数球投げて状態を確認をし終える頃、相手のノックが終わり、今度はこっちのノックとなった。
こちらのシートノックも終え、ベンチ前に整列する。
ふとセンターにある電光掲示板へと視線を向けた。その掲示板にあるデジタル時計で時刻を確認する。
時刻は現在8時55分をさしている。定刻通り9時に試合が開始できそうだ。
そして空を確認する。どんより雲が空を覆っている。今日は一日中曇り、夜から明日朝にかけて雨が降ると天気予報が言っていた。
ジメッとしていて、肌にまとわりつくような蒸し暑さ。夏だというのに、梅雨のような暑さを感じる。俺はもっとこうサンサンと輝く太陽の下、高校野球をしたいな。
だが球場の外から聞こえてくるセミの鳴き声はグッドだ。夏らしくて良い。
「集合!」
とか考えてると、球審の声が聞こえた。
「行くぞぉ!!」「行くぞ!」
それを聞いて、両校のキャプテンが声をあげ、両者がグラウンドへと飛び出し、スタンドからは拍手が起きた。
そしてホームベースを挟んで、両校は整列する。
俺の目の前に立っているのは久遠だった。
先ほど見せたウザったい笑顔はない。安心した。試合中もあんな笑顔を浮かべられてたら、こっちもイライラして制球が定まらなくなってたかもしれん。いや、自分で考えといてアレだが、今のはさすがにないな。
「礼!」
なんてことを考えてると、球審が声を張り上げて指示を出す。
その指示に従い俺達は頭を下げ、しっかりと力強く挨拶をした。
グラウンドに散らばる龍獄ナインと、ベンチに戻る我が山田高校。
マウンドでは投球練習を始める久遠の姿。
「さぁゲーム開始だ! 追い込まれる前に打ってけよ!」
「はい!」
ベンチ前で円陣を組んでいた我が山田ナインは、力強く佐和ちゃんの言葉に返事をする。
「英雄! 初回から先取点とって、楽に投げさせてやるぜ!」
一人円陣から外れ、打席のほうにいた恭平が大声をあげて、こちらに言ってきた。そして球審に注意される恭平。なにやってんだあいつは。思わず笑みを溢してしまう。
「恭平の言うとおりだ。ちゃっちゃっと点を入れて有利に進めよう」
大輔が恭平に続くように口にする。
「そうだな。三村に回る前に先制点あげてやる」
さらに龍ヶ崎も続く。
本当頼れる仲間だわお前ら。今日の試合、こいつらに任せて俺は気楽にピッチングに専念しよう。
「何点取ろうが、1点ありゃあ俺が抑えてやるから、確実に1点取ってくれよな」
こんな頼れる仲間が後ろで守ってくれるんだ。
無様なピッチングはできない。今日の試合は最低でも完封勝ちを目標にしよう。
「しゃあぁぁす!!」
恭平が元気良く挨拶をして、右打席へと入る。
俺はベンチそばで、哲也とキャッチボールをする。
試合開始のサイレンが球場に鳴り響く中、久遠は投球モーションに入った。
右のワインドアップモーションの上手投げ。フォーム自体にアレンジは加えていないようで、見るからに普通なピッチングフォーム。
ピッチャー初心者が最初に教えられるピッチングフォームを忠実にこなしているイメージ。
そのフォームから投じられるのは最速132キロを叩き出すストレート。
それを恭平が打ちに行った。
サイレンの音が鳴り響く球場内に、甲高い金属音が轟いた。
打球はショート頭上をライナーで越し、レフト前の外野の芝生にワンバウンドする当たり。
初球打ちのレフト前ヒット。前の城東戦に続いて二試合連続の先頭打者初球打ちヒット出塁だ。
ヒットを打った時のファンファーレがスタンドから鳴り止まない中、拍手と歓声がこちら側のスタンドからあふれた。
「…初球打ちかよ。相変わらず積極的すぎんだよあいつは」
一塁ベース上で喜んでいる恭平を見ながら、俺は呆れたように呟いた。
俺の理想的な一番バッターは、とにかく粘って、相手の持ち球全てを投げさせるような奴が良いのだがな。
それでも恭平が出塁するのはデカい。あいつが出塁すると、チームが大いに盛り上がるからな。だてに天然のムードメーカーやっていない。
「恭平! リード中に転べー!」
「牽制死しろー!」
大輔と誉が恭平に冗談交じりの野次を飛ばしている。今に審判に注意されるぞお前ら。
恭平が出塁すると、あぁいう野次なりなんりがベンチからたくさん飛んでくる。そうなると自然とベンチが盛り上がり、勢いや流れが生まれ始める。
なんにせよ、恭平がヒットを打てばチームが盛り上がる。本当羨ましい才能を持ってるよあいつは。
続くバッターは二番の耕平君。
こちらはカウントワンボールワンストライクの平行カウントからの3球目、インコースへのストレートを引っ張り、一二塁間を抜くライト前ヒットを放った。
いきなりのノーアウト一二塁のチャンス。
ここからクリーンナップへと回る。打者は三番の龍ヶ崎。
龍ヶ崎が右打席に入るなり、スタンドからは龍ヶ崎の応援歌狙い撃ちが流れ始めた。
有志で組まれたブラスバンドは、通常よりも早いテンポで軽快な演奏をし、それに合わせて応援団が声を合わせ応援をする。
良い応援だ。やっぱり高校野球はこうでないと。
「…てか、このままだと俺まで回りそうだな」
併殺打とかランナーがアウトにでもならなきゃ、五番バッターの俺にも打順が回ってくる。
哲也とのキャッチボールを止めて、ベンチへと戻り、打席に入る準備を始める。
ネクストバッターサークルには大輔がいて、打席には龍ヶ崎。中学時代では考えられなぐらい、頼れるバッターが並んでいる。
…あの時とは違う。
ここまで中学時代と比較してしまうのは、おそらく相手チームのチームカラーが中学時代の我が校と同じだからだろう。そして相手エースが中学時代の仲間だからだろう。
ッキィィィィィン!!!
快音が反響する。その音を聞いて歓声がワッと起きた。
打球は三遊間へのライナー。ショートが飛びつくも捕れず、レフト前へと転がっていく。
二塁ランナー恭平は抜けるのを確認してから走り出したせいで、三塁ベースストップとなったが、これでノーアウト満塁。そして打者は四番の大輔。
「大輔ぇ! 頼むぞぉ!」
俺の声に、大輔は一度こっちへと振り向き、右手の親指を立てて返答した。やべぇカッコ良すぎだろ大輔。俺もあとでベンチから声援送られたら、それやろ。
打席へと向かう大輔の背中。相変わらず大きくて感じた。頼むぜ四番、バシっと決めてくれよな!




