109話
翌日、登校日。
学校に登校するなり、知り合いや知り合いじゃない奴らから「県大会優勝おめでとう」と声をかけられた。
校内は野球部の地方大会出場の話題で持ちきり状態だった。
何故ここまで盛り上がっているのか。それは昇降口の掲示板に山田高校優勝の記事が書かれた地方新聞紙が貼り出されていたからだ。
――山田高校、中国大会初出場! エース佐倉、脅威の県防御率0.00!!
などと大見出しで書かれている。
記事には優勝決めた時のガッツポーズする俺の写真が貼られており、これを見て俺に声をかける生徒がいるようだ。
「おぉ佐倉君!」
廊下を歩いていると校長と出会った。
今年55歳だというのに黒髪一本無い白髪。表情もしわが目立ち好々爺然とした顔つきをしている。見た目は年齢よりも老けているが、活力にあふれた佇まいは年相応、あるいは若干若いか。
相変わらずパワフルなおっさんだな。
「こんにちわ」
「昨日の試合お疲れ様! そして中国大会出場おめでとう! 応援してるよ!」
なんか握手求められたので握手する。
温かく大きな手をしているな。
「ありがとうございます」
「あと、掲示板の新聞は見たかい?」
会釈をする俺に校長が聞いた。
なるほど、あの新聞貼りだしたの校長か。
「はい見ました。新聞貼り出してくれてありがとうございます」
「いいさ、あれを見て野球部に興味を持った生徒が、夏に野球部の応援に駆けつければ盛り上がるだろう?」
そういってニヤッと笑う校長。
この人、どんだけイベント好きなんだ。
「期待してるよ」
「期待に応えられるよう頑張ります」
校長にも期待されているし、これからも頑張らないとな。
放課後、練習が始まる。
ギャラリーがちらほら見られたが、まったく気にする事なく練習する。
恭平や誉辺りは普段よりも調子に乗ってミスを連発しており、時折佐和ちゃんからお怒りの声が飛んでいる。
まぁ浮ついているのはあの二人だけじゃない。他の選手たちもどこか浮ついているし、優勝した事で気が抜けているように見える。
とはいえ、地方大会は来月からだ。
それまでに気持ちを引き締め直してくれれば問題ないだろう。
それにこの期間中に、少しでもチーム力アップを図らなければならない。
まず打線。春になってから顕著になっているが、大輔頼りの打線なのは否めない。上手な奴に頼るのは、普通の考えだが、それでも大輔が封じられたら、我が校の勝ち目が無くなる可能性も高い。
現に、これから戦う相手は、各県の優勝校ばかりになるはず。選抜帰りのチームだってあるだろう。
そんな奴らにも、大輔がいつも通り打てるとはとは限らないしな。
そんなわけでレギュラー陣は、亮輔、松見をマウンドに立たせてのシートバッティング。
俺は里田君をキャッチャーとして座らせての、ブルペンで投げ込み。俺の少し後ろから、佐和ちゃんが俺の投じるボールの球筋を見ている。
「う~む、ここまで凄くなるとはなぁ…」
後ろから佐和ちゃんの感心する声に、思わず口元をほころばした。
「まぁ俺は天才ですからね」
里田君からの返球をグラブで受け取りながら、一言言う。
「挫折しろよ、つまらん」
などと一言酷い事を口にする佐和ちゃん。
いくらなんでもその発言は監督として問題あるぞ、このクソ野郎。
「なんにせよ、現状のお前のピッチングはすでに全国でも屈指のものだろう」
「おっ、ついに佐和ちゃんから認めてもらえたか」
「手放しで褒めるのは悔しいが、今のところ技術面で手を加える部分がない。めっちゃ悔しいがな」
どんだけ悔しがってるんだこの人は。
「あとはもう夏まで時間が無いし、細かな調整や調子の維持などをこなしていくしかない。育成から調整へと移るわけだ」
そう佐和ちゃんが説明をした。
そうだな。もう2ヶ月ちょっとしたら、夏の県大会が始まるのか。
俺達三年生に残された猶予はあと少ししか無いわけだな。
「甲子園行けますかね?」
「行ってくれなきゃ困る。むしろ、お前と大輔という化け物を揃えながら、甲子園に行けなかったら俺の監督としての手腕が疑われるからな。俺を甲子園に連れてってくれ」
佐和ちゃんは冗談交じりに笑いながら言う。
その言葉、女子に言われたかった。
「了解っす。甲子園出場決めたときに俺に惚れないでくださいよ」
「安心しろ。お前には惚れないから」
なんだその、お前は生理的に受け付けないみたい言い方は。
いや逆に惚れるとか言われたら、さすがに返答に困ってた。
こんな感じで投げ込みを終えた。
投げ込みを終わり、一度水飲み場へと向かう。
水道で手を洗い、タオルを濡らして顔や頭を拭く。
まだまだ夏に比べれば気温は低いが、徐々に気温の高まりを感じる今日この頃、夏がもう間近なのだと感慨にふける時もある。
「あの、すいません」
「はい?」
ふと声をかけられた。
声の方へと視線を向ける。山田高校の制服を着た女子高生だ。
胸にあるリボンの色を確認、赤色だ。と言うことは一年生だな。
我が校では、学年別にリボンとネクタイの色が違う。青、緑、赤の三色に分かれており、ローテーションされている。
今年は俺ら三年生は緑、二年生が青、一年生が赤。来年は三年生が青になり、一年生が緑になるということだ。
「佐倉先輩ですよね? 野球部の」
「あぁ佐倉だけど、なに?」
おいおい、まさか告られちゃうのか?
困るぜ、結構可愛い子だし、断るの忍びないんだけど。
なんかもじもじし始めた。俺はこの一年間で覚えた。女子がもじもじし始めると、俺に好意を見せる合図だとな。
ふふっ、また女の子を落としてしまったか。罪な男だな、まったく。
「あの、野球部のマネージャーになりたいんですけど」
あ、はい。
ごめんなさい、ちょっと調子乗ってました。
「監督に今から会えますか?」
「あぁ、うん。会えるよ。おいで」
って事で、名前も知らない一年生の女子生徒とグラウンドへと向かう。
「なに!? 英雄が女連れてきたぞぉぉぉぉ!」
最初に俺に気づいた恭平が狂ったように大声をあげた。
その馬鹿丸出しの大声を聞いて、選手たちが俺と一年生の女子生徒へと視線を向けた。
「佐和ちゃーん! この子マネージャーやりたいってさー!」
理不尽な疑いをかけられる前に、用件を口にする。
三塁側ベンチ前に置かれた、バッティングゲージに向かって、トスバッティングをおこなう大輔の様子を見ていた佐和ちゃんは俺へと視線を向け、そして俺たちに近づいてきた。
「マネージャー?」
傍に来た佐和ちゃんは、不思議そうな表情を浮かべて、一年生の女子生徒を見る。
「私、1年C組の志田皐月って言います! その…マネージャーになりたいんですけど…」
そういって女子生徒が自己紹介をした。
表情から不安そうにしているのが伝わる。断られるかもしれないと思ってるのだろう。
「マネージャー? あぁ別に良いよ。担任から入部届けをもらって渡してくれれば良いから」
だが彼女の不安をよそに、佐和ちゃんは二つ返事で入部を許可した。
「本当ですか! ありがとうございます!」
「いえいえ」
嬉しそうにする志田さんに、佐和ちゃんは微笑んだ。
なんだろう。佐和ちゃんが微笑んでると、なんか悪いことが起きるんじゃないかと不安になってしまう。
「それじゃあ、3連休明けの金曜から参加させてもらいます! よろしくお願いします!」
「おぅ、待ってるぞ」
大きく頭を下げた志田さんは、グラウンドを後にした。
まぁなんにしても、次期スコアラーを任せられるし、正直マネージャー岡倉一人だと不安だったからな。
志田さん、しっかり者っぽかったし、多分大丈夫だろう。うん。




