105話
翌日の新聞にて、俺の名前が載った。
≪山田高校佐倉、150キロを記録!≫
地方のスポーツ新聞の端っこに、少しだけ記事が書かれただけだったが、すげぇ嬉しかった。
まぁ、そんなのに浮かれないクールな男を演じながら、朝食をとる。
「英兄寝ぼけてる? 箸逆に持ってるよ?」
対面に座る恵那が不思議そうに見ながら言ってくる。
思わず手元へと視線を落とす。本当に箸逆に持ってた。これは、まったくクールな男じゃないな。
「それより英雄。今日決勝なんだろ? 仕事休みだし見に行ってやるよ」
ともに食卓を囲む父上が笑顔で言ってきた。
「じゃあ俺もついていこうかな」
兄貴も父上に賛同する。
結果、部活がある千春を除いた家族一同で応援に来るらしい。小学校の運動会かな?
朝食をとり終えて、集合場所である山田高校へと向かう。
部員たちと合流すると、話題は、新聞に俺が載っていた事だ。もうその話題で持ちきり。有名人の気分をほんのり味わう。
「良かったな英雄! 痴漢逮捕のほうで記事にならなくて!」
笑顔で恭平が言ってくる。
なんだその、俺が普段から痴漢をやっているような言い草は? 言っておくが一度もやったことないからな? むしろお前のほうがしてそうだからな?
「お前に言われたくはないな」
「は? 俺が痴漢なんかするわけねぇだろうが!」
俺の偏見に憤慨する恭平。
そういえばこいつ、エロを崇拝していたな。確かにそんな卑劣な真似はしないか。
「痴漢するとしても、まずは相手に確認をとってからやる! なめんじゃねぇ!」
なにがなめんななのか分からない。
そもそも相手に確認とってたら、普通に捕まるからな?
ふと視線を大輔へと向ける。
何故か弁当を食っている。しかも普段の大きな二重の弁当箱ではなく、小さくピンク色の弁当箱。
「大輔、それどうした?」
「え? 里奈が朝作って持ってきてくれたんだ。トンカツにおむすびにウインナーソーセージに鰹節の佃煮。どれも美味い!」
嬉しそうに笑う大輔。どれも験担ぎの定番だな。
それにしても彼女からの愛妻弁当か。いや待て、彼女からの弁当を愛妻弁当というのは適切なのだろうか?
…まぁどうせ、二人はいずれ結婚とかするだろうし、愛妻弁当でいいか。
なんにせよ。この弁当で大輔が気合を入れてくれれば尚良し。
そしたら彼女さんに飴ちゃんをプレゼントしてやらねばな。
そんな訳で、貸切のバスに乗って、試合会場の丘城スタジアムへ。
試合会場に着いたのは10時半。
んで、かなり早い昼飯を食べる。大輔はここでやっと普段使っている二重の大きな弁当箱を取り出した。
昼食をとった後は、球場の外でアップを行い、12時半には球場入り。
そんで13時から試合開始となる。
飯を食い終えて、球場の外で、アップを開始する。ふと駅方面の園路から見知った顔が2人。 沙希と鵡川だ。また意外な2人だな。
そんな2人に会いに行く岡倉。おいマネージャー。部員たちがアップ中なんだぞ? しっかりしろ!
アップを終えて、とりあえず俺は岡倉を呼び戻すために、沙希と鵡川達のもとへ。
「あっ英雄!」「こんにちわ佐倉君」「英ちゃんだ!」
三者三様の挨拶ありがとう。俺は聖徳太子じゃないぞ。
「岡倉、貴様はマネージャー失格だ」
「えぇ!? なんでよー!」
なんでよー! じゃねぇ。
部員たちがアップしてる中、お友達のところに行ったからだろうが。
「貴様も一応部員なんだから、練習を見届けろっつうの」
「あぁ、そっか…今度からそうする…」
なんかしょんぼりしている岡倉。
「いくらお友達が来たからって、ふらふら行くのはまずいだろう」
「むっ! それは違うよ英ちゃん! この二人は友達じゃないもん!」
なんか怒った表情を浮かべる岡倉。
いや、その二人の前でその発言はまずいのでは?
「いや、お前ら友達じゃねぇの?」
「あー岡倉さんとはあまり話したことないかな」
「私も」
沙希と鵡川が頷く。
待て、じゃあなんで二人のもとに行ったんだお前?
俺は沙希に敵意の視線を向けている岡倉を見る。
「言っておくけど、英ちゃんは私のなんだからね!」
まるで二人に宣言するように岡倉が口を開く。
ごめん、ちょっと何を言ってるのか分からない。俺はお前のものじゃないぞ?
マジで岡倉のふわふわした発言は、時として人知の及ばぬレベルになるな。
「岡倉さん、なんでそんな事言うのか良く分からないけど、英雄は別に岡倉さんのものじゃないでしょ」
沙希がなんか普段よりも厳しい口調で岡倉に告げる。
お前もなんで喧嘩腰なんだよ。意味が分からん。
「まぁまぁ二人共落ち着こうよ」
その二人の仲裁に入る鵡川。さすがミスパーフェクト、咄嗟の対応力も高いな。
「…それより、英雄。決勝進出おめでとう」
「お、おう」
沙希が岡倉としばらく睨み合ったあと、俺に話題を振ってくる。
なんだこの状況、岡倉なんか呼びに来るんじゃなかった。早く戻りたい…。ってか沙希が来てるんだから哲也も来いよ…! って、あいつ今、オーダー交換でいないんだった。
「約束通り決勝戦応援に来たから、頑張ってね」
「あ、あぁ」
終始岡倉が沙希を睨んでいる。それを沙希は無視している。
ここまで岡倉が誰かに敵意を向けているのは珍しい。一体、沙希になにされたんだお前?
「あ、そういえば鵡川と沙希って一緒に来たのか?」
ってかお前ら友達だったのか?
「ううん、山口さんとは駅で偶然会ったから一緒に来たの」
「そうだったのか」
説明してくれたのは鵡川。
そうだったのか。つまり仲は対して良くないのだろうか? いやでも、仲良くない相手とさすがに並んで歩きたくないよな…。と思ったけど、去年の夏に鵡川は対して仲良くない俺と高校野球観戦したし、案外鵡川って人懐っこい性格なのかもしれん。
もしそうなら、鵡川の意外な一面を見れた気がする。
「あの…佐倉君、頑張ってね…」
そして鵡川が小声で応援してきた。
何故小声なんだ、思わず首を傾げそうになった。
「あぁ任せろ! 来た事を後悔させねぇよ」
どんなに小声だろうと女の子に応援された以上は結果を残す。
俺は男らしく宣言しておこう。
「えぇ! 鵡川さんもなの!?」
なんか岡倉が驚いている。
何に驚いているのかは分からない。
「英ちゃん…」
「なんだ岡倉」
「ちょっと女の子にだらしないよぉ」
なんか知らんが岡倉に罵倒された。
ごめん、意味が分からない。
「私たち、スタンドの方行ってるから」
沙希と鵡川がそういってこの場を立ち去った。
岡倉は右目下まぶたを指で引き下げ、舌を出して二人を見送る。いわゆる、あかんべえの表情。お前、どんだけ二人に恨みがあるんだ…。
なんだか岡倉の意外な一面を見れた気がする。
この後は、誉と軽くキャッチボールをしてたら、佐倉家御一行と遭遇。
「英雄! 今日は頑張れよ!」
「おぅ!」
家族からのエールを一身に受けて気合を入れる俺。
「おっ! 哲坊じゃねぇか! 久しぶりだな!」
兄貴は哲也に気づいたようだ。
ちなみに哲也と兄貴は面識がある。そりゃ幼稚園に入る前からの付き合いだから当然だがな。
幼い頃から、哲也と俺にとって兄貴は、マジで兄貴分だった。良く哲也と一緒に兄貴のプロレスごっこの相手をやらされたものだ。
「あぁ博道さん。来てたんですか」
「当たり前だ。弟どもの大事な試合だからな。練習なんて休んできたぜ!」
「そうなんですか! ありがとうございます! 頑張らないと!」
兄貴が笑顔を浮かべて哲也を応援する。
ちなみに今日の兄貴は練習休みだ。昨日は「明日やる事ねぇ。寝よう」とか言っていた。なので練習を休んできたわけではない。
「おい英雄!」
っと恭平が乱入してきた。
鬼気迫る表情浮かべて、俺の両肩を掴んできた。
「千春ちゃんはどうした!?」
「今日は部活できてない」
「なんだとぉ…!?」
なんかすげぇ面白い表情を浮かべる恭平。
「なんだ。誰かと思えば恭平じゃないか。相変わらず面白いなお前」
兄貴が恭平に気づいたようだ。
恭平と大輔も兄貴と面識がある。高校一年生の時に度々俺の家に遊びに来てたからな。そこから顔見知りになった。
「あ、あなたはお義兄さん!?」
「まさかお義兄さんと呼ばれる日が来るとはな。だが言っておく。俺の弟はやらんぞ」
なんで恭平の相手は俺なんだ兄貴。
「こいつはいりません! 千春ちゃんをください!」
「なにぃ? 千春をぉ? しゃーねぇなぁ。あいつなら許そう。恭平は面白いしな!」
なに簡単に認めてんだお前。
大事な妹がこんな変態野郎に取られようとしてるんだぞ? どうすんだよ千春が穢れたら。
「ありがとうございますお義兄さん! 一生ついていきます!」
「おぅついてこい義弟!」
そういって、二人してわっはっはと笑い合う。相変わらず恭平と兄貴は仲がいいな。
二人が大笑いする一方で、秀平が恵那に話そうとしていた。
だが恵那は秀平に気づかないまま、俺のもとへとやってきた。
「英兄! 頑張ってね!」
彼女の後ろで悔しげに天を仰いでいる秀平を一瞥してから、恵那へと視線を戻す。
「もちろん! 可愛い妹にそんな事言われたら、お兄ちゃん頑張っちゃうぞ!」
なんて言いながら、左腕の力こぶを軽く叩いてみせた。
さすがに家族の前で無様なピッチングは出来ない。
こうして家族と話してたら、球場入りの時間を迎え、俺たちは球場入りをする。




