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未来と呪い。
差出人も、誰に宛てたのかさえも不明なこの手紙だけど、僕は去年の今頃、高校二年生の冬頃のことを思い出した。
未来は呪いだと言った女の子がいた。
女の子、まあ、誰かと訊かれれば日高なんだけど、日高がそう言っていた。
「未来、っていうのは、呪い。ゆるやかな呪い」
「どうしたの、急に?」
またいつもの病気かな、と僕は横目で日高を見る。
彼女は普段と変わらず部室の椅子に座ったままで、何もない壁の向こうを見ていた。
どこか遠くの景色を眺めるように。
じっと遠くを見つめていた。
本を閉じずに、そのまま本を膝に乗せていることだけが、いつもとほんの少しだけ違っていて。
本を開いたままにしておくと紙が痛むので、彼女はそれを嫌っていたはずなのだけれど。
「未来、って言葉」
「それと呪いに、何の関係が?」
日高は相変わらず、遠くを見たままだ。
「未来の出来事に縛られてる」
「縛られる、って言うのなら、それは過去にじゃないの?」
過去の出来事に縛られるのならわかるけど、未来に縛られるというのは、いまいちピンとこない。
これまでの日高の話にピンときたことがあるかと言われると、それはそれでまた怪しいのだけど。
「ううん、そう。過去に縛られるのはいいの。何に縛られてるのか、はっきりしてる。でも、未来に縛られてると、いつまでたっても振りほどけない。まだ全然わからない、これから知るはずのものに縛られてるから」
「僕には、日高の話がわからないよ」
「うん、わからないと思う。私もわかってないし」
「なんだそりゃ」
「わからないけど、なんとなくわかるんだ。…私はね、いつでも未来に縛られてるの。わからないことに縛られてる」
そう語る日高の顔には、いつものような調子のよさはなく。
瞳は、どこか虚空を見つめていた。
「なーんてね! びっくりした?」
日高はそう声を上げると、膝にのせていた本を閉じ、勢いよく椅子から立ち上がる。
「え、いや…」
「んー、小難しいこと言おうと思ったんだけど、やっぱあれだわ。頭がよくないと無理だねー、こういうの!」
あはは、と笑うその顔を、僕は、何故か直視することができなかった。




