3
曇り空の冬の朝。時計を確認すると、短針は八時を指していた。
部屋はまるで氷のように冷え込んで、僕は何より先にストーブをつける。
小さな電気ストーブだ。電源のオンとオフしか機能がない。
僕はそのシンプルさが割と好きだ。
ジジジジという小さな音と共に、ストーブがオレンジ色の光を放つ。
その音を確認してから、僕は財布を手に部屋を出る準備をする。部屋が温まるまではまだ時間がかかりそうだ。
椅子に掛けたチェスターコートに袖を通し、ドアに手を掛けた瞬間だった。ドアは自動ドアのようにひとりでに開き、目の前の人影と視線が交差する。
「うわ、ビックリした。何してるの弓立」
「それはこっちのセリフだよ、何してるのさ日高」
ドアの幅はヒト一人分しかないので、自然とお互いが向き合う形になる。
「とりあえずそこをどいてもらってもいいかな? 廊下かなり寒いんだ」
この寒さだというのに、日高は制服の上にカーディガン一枚を羽織っただけの格好で、いかにも寒そうに両手で腕をさすっている。
大きめのマフラーと厚手の手袋がなんだかミスマッチだ。
「中もまだ寒いと思うけど」
身体をひねって廊下へと出た僕と、すれ違うようにして部屋に入る日高。
「外よりはマシ」
なるほど、確かに外はより寒い。
三〇分前まで僕も外にいたはずなのだけど、つい今まで部屋の中にいたせいか、より寒く感じる。
気温的にはどちらも大差なさそうなものだけど、感覚的な何かが違うのだろうか。
廊下の方が寒い、という刷り込みのような。
ドアを閉めようと手をかけると、電気ストーブの前で丸くなっている日高と目が合った。
その姿はなんとなく、冬場の動物が冬眠するさまを連想させたが、冬眠前の動物にしては準備が足りてないな、と僕は思った。
冬眠前じゃなくても、この気温の中そんな薄着で外を出歩くのはどうかと思うけれど。
「どこ行くの」
「自販機に、コーヒーでも買おうかと思って」
「ありがとう」
その返事はどう考えてもおかしいと思うけど、僕は気にせず飲み込んでおくことにした。
「ミルクが入ってる方がいいんだっけ」
「甘いとなおよい」
「はいはい」
僕はストーブ前の動物にひらひらと手を振ると、今度こそドアを閉めた。




