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「この馬鹿者が! 無茶にも程があるぞ!」
顔を見るなり雷を落としてきた父に、ひゃっと肩をすくめるカリーナ。しかし、そのくらいでへこたれる訳もなく、すぐに顔を上げ、毅然として言い返した。
「テオが困ってるのに、私が行かないわけにはいかないでしょう! 大体、あの木は枝が細くて大人じゃ登れないんだから!」
「お前も立派な大人だろうが! 大体、お前だって枝から落ちかけたところを、旅人に助けられたそうじゃないか! でかい口を利ける立場か!」
痛いところを突かれてぐっと黙るカリーナに、ふうと息を吐く。
「まったく、肝を冷やしたぞ。怪我がなかったからよかったものの……」
そこでようやく、娘の後ろで所在なく立ち尽くす男の存在に気づいた村長は、ごほんとわざとらしい咳払いをして、おもむろに手を差し伸べた。
「村長のマシュー=エバンスだ。君が娘とテオを助けてくれたそうだな。村長として、そして父親として、心から礼を言わせてくれ」
「いえ、差し出がましい真似をしてしまいました。お二人に怪我がなくて何よりです」
差し出された手を握り、人当たりの良い笑顔で答えれば、村長はほとほと困り果てた様子で、大きな溜息を吐く。
「いやはや、君が通りかかってくれて本当に良かった。この子は昔からおてんばでね。しょっちゅう無茶をしては周囲を困らせてばかりだ。もう年頃なのだから、少しはしとやかに振る舞って欲しいものだが……」
「ちゃんとした場ではそうしてるでしょう!? もう、ごめんなさいね、父さんったらいつもこうなの。二言目には『そんな調子じゃいつまで経っても嫁の貰い手がないぞ』と、こうよ」
まさに今、それを言おうとしていたらしい村長は、むうと押し黙ると、形勢不利と見て話題を変えた。
「ところで、君は遺跡探索に来たと聞いているが、しばらくエストに逗留するのかね?」
「はい。村長のお許しさえいただければ、一月ほどご厄介になろうと思っています」
「なに、一月と言わず、好きなだけ逗留してくれたまえ。宿は一軒しかないが、店主は気のいい親父だし、飯も旨い。それに、村人の中には少し前まで遺跡探索をしていた者もいるから、彼らに遺跡のことを教えてもらうといい」
「ありがとうございます」
これで足場は固まった。あとはここを拠点にして、情報を集めるだけだ。
「挨拶はもういいわよね? じゃあ宿屋に案内するわ!」
「こらカリーナ! 話はまだ終わってないぞ!」
「お説教はもうたくさん! ほらヒュー、行きましょ!」
腕を引かれ、緩やかな坂道を転げるように走り出す。
こうして、『探索者ヒュー』としての日々は、実に賑々しく幕を開けたのだった。




