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「なるほど、一年前から子供達にお勉強を……」

 神殿までの道すがら、彼女の話に耳を傾けるうちに、村の状況が見えてきた。

 エスト村の人口は百人弱。そのうちのほとんどが農業に従事しているという。中には冒険者として訪れ、そのまま居ついてしまった変わり種もいるそうだが、ほとんどは昔からの住人だ。そんな村で、今年十七歳になるカリーナは村長である父を手伝いつつ、村の子供達に勉強を教えているという。

「前までは村にいた知識神の神官さんが教えてたんだけど、去年お亡くなりになって……。それ以降は私が代わりに教えてるの」

 教えると言っても読み書きや計算、そして簡単な歴史くらいだが、子供達からの評判は上々らしい。

「それでは、先程の少年もカリーナさんの教え子ですか」

「そうよ」

 誇らしげに頷くカリーナ。成程、それなら一層のこと、彼の前で弱音など吐ける訳がない。

「今、村にいる子供はあの子を含めて十人だけよ。こんな僻地でしょ、若者はみんな都会に行っちゃって、残っているのは年寄りばっかり。昔は活気に溢れていたらしいけど、今となっては立ち寄る人もほとんどいない寂れた村だもの。あなたの前に来たのは……半月くらい前に行商人のおじさんが顔を出したくらいかしら?」

 そういえば、と眉をひそめ、内緒話のように囁く。

「そのおじさんに聞いたんだけど、ここのところ街道沿いで野盗が出没しているんですって。知ってる?」

「ええ。と言っても噂程度ですが。なんでも、街道を行く旅人から金品を巻き上げたりしているそうですね」

 細い目を更に細めつつ、あらかじめ用意していた回答を諳んじれば、カリーナは不安げに俯いた。

「そうそう、それよ。やっぱり本当なんだ」

 細い肩を竦ませる彼女に、いやいやと手を振ってみせる。

「ここは街道から大分離れていますし、野盗達もわざわざ出向いてきたりはしませんよ。それにほら、この村には腕の立つ方も多いんでしょう?」

 まるでその言葉が聞こえていたかのように、道の向こうから陽気な声が響いてきた。

「よお、カリーナ! そっちのお兄さんは旅の人かい?」

 二人に向かって手を振っているのは、見るからに畑帰りの農夫。しかしその身のこなしや眼光の鋭さは、闘いに身をやつしていた者特有のものだ。

「あらトニーさん、もう帰り?」

「ああ、今日は祭の打ち合わせがあるからな」

 にこやかに答えつつ、傍らのヒューをじろじろと眺めるトニー。さすがに冒険者あがり、勘が鋭いものだと内心冷や汗を掻いていたら、続く言葉につんのめりそうになった。

「いつの間にこんな彼氏をつかまえたんだ、カリーナ?」

「違うわよ! 遺跡探索ついでに、知り合いの代理でお墓参りに来たんですって!」

 ぷりぷりと怒るカリーナの頭を無遠慮に撫でながら、そうかそうかと豪快に笑うトニー。

「なんだ、俺はまた、とうとうカリーナも恋するお年頃になったのかと思って、思わず喜んじまったよ」

「もうっ! からかわないでよ!」

「はは、悪い悪い。なあ兄さん、エストはいい村だろう? ゆっくりしていきなよ!」

 じゃあな、と手を振って去っていくトニーに舌を出して、子供のように頬を膨らませるカリーナ。

「カリーナさんは人気者なんですね」

 ヒューの言葉に、カリーナは違うわ、と頭を振った。

「これだけ小さな村だもの、住人はみんな家族みたいなものよ。若い人間も少ないし、だからすぐああやってからかってくるの! 鬱陶しいったらないわ!」

 そんな風に怒っている彼女は、実に生き生きとして魅力的だ。みんながカリーナをからかうのは、この反応が見たいからではないかと思ったが、これは本人には黙っていた方が良さそうだ。

「いけない、神殿へ行くのよね。こっちよ」

 本来の目的を思い出しらしいカリーナは、分かれ道を西へと曲がった。この辺りから民家が途切れ、穀物倉庫や牧草地が広がっている。

そして白茶けた道の先に見えてきた重厚な石造りの神殿を指差して、カリーナは朗らかに解説してくれた。

「あれがローラ国最西端のユーク分神殿、そしてエストの名物司祭様がいらっしゃるところよ!」


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