表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

9-4

「カリーナ!」

 悪鬼もかくやという形相でやってきた父に、カリーナは蕩けるような笑みを向けた。

「なあに、父さん」

「お前っ……お前はっ……どうしたら、そこから出てきてくれるんだ」

 レオーナの忠告が効いたのか、それとも娘の笑顔に怒りを削がれたのか、静かに問いかける村長に、カリーナもまた落ち着き払ってこう答える。

「父さんが私達の結婚を認めてくれるなら、すぐにでも」

 その言葉に、はあと息を吐く村長。

「……お前は、どうしてもヒューと結婚がしたいと言うんだな」

「そうよ。この人とじゃなきゃ嫌なの」

 お互い、この十日間で何度も繰り返した台詞が、怒りが過ぎ去ったあとの心にずっしりと響く。娘を案ずる父の気持ちも、思いを貫こうとする娘の願いも、痛いほどに。

「――そうか」

 噛み締めるようにそう答えて、村長は窓辺に寄り添って立つヒューへと向き直った。

「ヒュー。こんなわがままで気の強い娘と、添い遂げる覚悟はあるか」

 抗議の声が横から飛んできたが、聞こえないふりをして返答を待つ。

「はい」

 迷いなく答えるヒュー。覚悟を決めた瞳をしかと見つめ、分かった、と頷けば、カリーナが目を見開いて叫んだ。

「父さん!?」

「だから、分かったと言っただろう。まったく、お前は言い出したら聞かないんだからな」

「ありがとう! 父さん、大好きよ!」

 窓から身を乗り出し、父の首に抱きつくカリーナ。よろめきつつその体を抱きしめて、やれやれと苦笑を漏らす。

「母さんがいたら何と言うかな」

 感慨深く呟いた父に、カリーナは自信満々に答えた。

「そんなの、『ほら見なさい、意地を張るからこじれるのよ』って言うに決まってるわ」

 往年の母そっくりに言ってのけた娘に、そうだなと苦笑を漏らす。そして首に抱きついたままのカリーナを苦心して窓から引っ張り出せば、傍らのヒューがさり気なく手を出して支えてくれた。そんな如才ないところが腹立たしくて、つい声を荒げる。

「ヒュー!」

「はい?」

 目を瞬かせるヒューにカリーナを押しつけるようにして預け、びし、と指を突きつける村長。

「いいか二人とも、三日後の夏祭で、村の連中にちゃんと報告するんだぞ!」

「ええっ!?」

 呆然とする二人の様子に少しだけ溜飲を下げ、そして村長はくるりと踵を返した。

「積もる話もあるだろうが、夕飯までには帰ってきなさい。いいな!」

 返事を待たずに去っていく村長の後姿を見送って、どちらからともなく手を繋ぐ。

「夕飯までには帰って来いって。気を利かせたつもりなのよ、あれで」

「嬉しい気遣いじゃないですか。それじゃあまず、ご迷惑をおかけした人達に謝りに行きますか」

「そうね、まずは鐘つき堂の神官さんかしら。十日も追い出しちゃって、悪いことしたわ」

 そんなことを喋りながら、歩き出す二人。

 他愛もない会話が、一年間の空白をあっという間に埋めていく。

 見上げれば、抜けるような青い空。

 あの日と同じ空の下、二人並んで歩くこの道が、どこに続いているのかは分からないけれど。

 どこまでも歩いて行こうと、そう心に決めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ