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足早に去って行った友の背中を見送って、マーティンはやれやれと肩をすくめてみせた
「まったく、大人しい顔して無茶する奴だよな」
夜になれば野獣も出るし、それこそ新手の野盗に出くわすかもしれない。そんな中、夜道を駆けて近隣の村を回ること自体、どれほどの危険が伴うことか。
「俺達にも手伝わせろっての」
引退したとはいえ、まだ腕は衰えていないつもりなのだが、それでも彼はマーティン達に頼ろうとしなかった。いや、彼らを『エストの住人』と認めているからこそ、あえて手出しをさせなかったのかもしれない。
「余計な気を遣いやがって」
友達甲斐のないやつ、と嘯くその横で、もう大丈夫だと言い張って降ろしてもらったカリーナが、照れくさそうに礼を言っている。
「ありがとう、父さん」
「なに、礼なら私ではなくヒューに言いなさい」
そこまで言ったところで、急にそわそわし始めた村長は、怪訝な顔をする娘へと、意を決して詰め寄った。
「その、カリーナ。お前、穀物倉庫で彼と何をしていたんだね?」
くわっと目を剥いたカリーナが口を開く前に、マーティンが訳知り顔で村長の背中をばんばん叩く。
「村長! 野暮なことは言いっこなしだぜ!」
この台詞にますます目を吊り上げたカリーナは、噛みつくような勢いで二人を怒鳴りつけた。
「何もしてないわよ! もう、みんなそういうことしか考えないんだから!」
そのままぷりぷりと怒りながら踵を返すカリーナに、ますます楽しそうな表情で声をかけるマーティン。
「おいカリーナ、踊っていかないのか?」
「足をくじいたって言ったでしょ! それに……相手がいないんじゃ踊れないじゃない」
最後の台詞は、ここにいない誰かに宛てたものだと、言った本人も恐らく気づいていない。
どすどすと、足音も高らかに広場を後にするカリーナを心配そうに見つめる村長。その肩をぽんと叩いて、マーティンはさあて、と獰猛な笑みを浮かべた。
「村長。ヒューに負けてられないぜ。俺達は祭を成功させるために、出来ることをしよう!」
「ああ、そうだな」
力強く頷く村長。その声に答えるように、広場から大きな歓声が上がった。




