死んでもいいよ
コンコンと咳が止まらない。
原因はわかってる。
喘息と、私の部屋の汚さだ。
足の踏み場もないくらい、ゴミがたまってカビが生えてる。
テレビでゴミ屋敷のドラマがやってたけど、あれは綺麗すぎだと思った。
現実はもっと汚いし臭い。
でもベットから起き上がれない。
体が鉛みたいに重くて沈んでしまいそう。
コンコンと咳が止まらない。
喉が痛い。
咳はとてもカロリーを消費するらしいと昔学校で習った。
確かに咳を一回するごとに体に積まれる鉛が増えてくみたいだ。
死にたい。
私なんて生きる価値がなくてみんなに迷惑や不快な思いばっかりさせてる。
だから死んだほうがいいし死にたいと思う。
こういうの、罪業妄想って言うんだって先生が言ってた。
でも妄想じゃないってどうしたらわかるの。
本当に私は生きてるだけで悪いことかもしれないのに。
そう思うのにどうしても死ぬのが怖い。
死んだらどうなるの。
それにこんな私を愛してくれた両親は、私が自殺したら今の私より苦しい思いをする羽目になるのかもしれない。
娘が自殺したいつかのあの人のように。
昔友達の姉が自殺して、私はそのお姉さんとも一緒に遊んだことがあったから、お葬式に行ったんだ。
最近のことは分からないけど、少なくともお姉さんは家族にはとても愛されていたんだと思う。
それでも家族の愛だけじゃ耐えられなかったんだ、私みたいに。
彼女の家族はみんな魂が抜けたゾンビみたいに生気のない顔をして、家から棺が出るときに友達のお母さんは棺に取りすがって叫んでた。
その声に共鳴するみたいに心が痛むほど、悲痛な声で、勝手に涙が後から後からボロボロこぼれてきた。
私は家族にはこんなに悲しい思いをさせたくないと、心から思った。
しかし同時に親は子供のことをこんなに愛してるんだと、私は安心してしまったけれども。
やっぱり不幸なのは私だけでいい。
みんなは笑って生きてほしい。
私なんてみんなの記憶にも残らず消えてしまいたいと願って瞼を閉じた。
私みたいな人をメンヘラっていうのかな。
私は自分を知られることが苦手で自分の気持ちなんて誰にも言ったことがなかった。
世間話や面白い話はしても自分の気持ちを表現するのは苦手だった。
だからいつも陽気でひょうきんなキャラを演じていた。
中学生の頃に、いつも楽しそうだねって言われたことがあって驚いたし嬉しかった。
多分その子はちょっと皮肉交じりに言ったんだろうけど。
私のネガティブ思考は昔っからでそれこそ根っからのメンヘラだったけど、私は誰にもそれを知られたくなかった。
こんな自分誰も愛してくれないだろうしみんなも暗い子なんかより楽しい子の方が好きなのは当たり前だと思ったから。
だから陽気な、いや能天気そうと言われて私は自分の擬態が成功していることを知って喜んで、同時にやっぱり誰も私のことなんてわかってくれないんだと悲しくなった。
誰にも言ってないから当たり前なのにね。
ひねくれてる。
そんな私はTwitterが好きになった。
誰をフォローするでもなくされるでもなく、ただ毎日「死にたい」とつぶやいた。
Twitterが出来る前はノートに書いてたけど、人に見られるのが怖くてやめた。
Twitterだったら捨てアドでアカウント作ってログアウトすれば誰にもばれないと思った。
誰もフォローしていない私の「死にたい」ってつぶやきに返信が来た。
「死んでもいいよ」
死んでもいいよ。
死んでもいいよ?死んでもいいのかな。
全部捨ててもいいのかな。
死んでも許してくれるのかな。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
泣くのは何十年ぶりかな。
嬉しかった。
胸のつかえがとれた。
たぶん、私の欲しかった言葉はこれだったのだと分かった。
許された気がした。
死ぬのは怖かった。
死んで責められるのも、きっと親を死ぬほど悲しませて後悔させてしまうことも。
だけど。
もういいのかもしれない。
悲しまないでほしい。
後悔しないでほしい。
死ねて私は幸せだから。
生きていく元気がなくてごめんね。
許してくれてありがとう。
あなたが幸せでありますように。
世界中の人が幸せでありますように。
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「こちら、女性の遺体が発見されたマンション前です!司法解剖の結果から死後1週間以上たっているとみられていますが、彼女のスマートフォンの履歴から昨日まで使用されていた形跡があるため警察は自殺と事件の両面で捜査を開始している模様です。以上○○警察本部からお送りしました。」