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E1-エスぺリオ・オリジェン-  作者: 心音
終章 エピローグ
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2話 答え合わせ2

「ここからは各自、気になることを羅列しましょう」


 暗莉が方針を変えた。確かに、ここからは全員が、俺も大半のことは既知だ。細かい話をするだけ無駄になる。


「ならボクから言おうかねえ……ニィちゃんはどうして魔法が使えなかったんだい」


 くるみがはっとする。


「そうよね、私も新谷くんが魔法を使えるとばかり思ってたから、お陰様で最初は死にかけたわね」


 確かに不思議だ。意思があれば魔法は使えるはずだったのに。鏡がなくてもアリスが魔法を使えていたのだから、間違いはない。


『それは分からない』


 暗莉がメモに「新谷、魔法使用不能」と書き込む。


「そうなると、テレスちゃんも不思議ね」


 四葉が言う。


「彼女そのものについては分からないが、彼女は鏡を得るに従ってアリス君の精神を吸い取った。その果てに、最後にはアリス君の精神が完全に鏡世界に来ていたね」


「それに関しては矛盾もないと思います。私達も精神を共有させることで強大な魔法を使っていましたから。ただ、問題はどうして最初の時点で意思がなかったかということです」


 見回せど、皆難しい顔をしている。暗莉がメモに書き加える。


「もうこれ、先に靄の正体を考えた方が良いんじゃない?」


 くるみが言う。


『見当はあるのか?』


「そうね、靄は十四枚目の鏡の持ち主だと言っていたわ。一人で最初から二つの鏡を持つなんてできないでしょうし、恐らく十三人は候補から外れるわ」


「そうなると、候補はアリス君かい? しかし彼女は……」


「そうですよね、確かにくるみさんに殺されたのですから、勘定に入れて良いものか……」


「ひひっ……まずは前提を疑うことだよ……一人で二つ鏡を持っていたとしたら、そして靄と鏡世界での実体の二つが共立していたら誰でも候補になり得るのさあ」


 前提や、時には常識さえも疑わなければならないこの情報戦。もしかしたらこのメンバーの中にいるかもしれないのだ。答えなんて分かるはずがない。


『そう言えば、くるみの言う「計画の破綻」について教えてくれないか』


 仕方なく、俺は話題を変えて議論の沼を回避する。


「そうね、もう語ったけど一番は鏡が割れたことね。そして--」


 そのとき、鈴の音が聞こえた。それと共に俺を残して皆の姿が消える。


「残念、時間切れだよ。答えは分かったかい?」


 靄がそう告げる。


『まだ何も』


「そうかい、君は最初から知っているんだけどね。いや、知っていないとも言える。私が君の目の前に来たのは、答え合わせのためさ」


『ふーん……』


 最初と言われて改めて思い返すが、既にその辺りは話し合った。


「面白いことを教えてあげるよ。推理小説っていうのはね、推理パート以前に、結論を導けるだけの判断材料を用意する義務があるんだ」


 それはつまり、判断材料は全て揃っているということか。だとすると情報の少ない人間は除かれる。可能性があるのは凛人、暗莉、花村、くるみ、キョウ、そしてアリス。


『そういうことか、分かったぞ』


「候補を絞っただけなのに、随分と早かったね。言った通り君は最初から知っていただろう?」


『ああ、そうだよな。靄は神、原初鏡そのものだと言っていた。それはつまり十四枚目の鏡の持ち主は神だということ。候補は更に絞れる。くるみ、キョウ、アリスだ』


「それはどうして?」


『神田くるみ、名前に神の字がある上に、あいつは自分を「神の使い」』と呼称していた。キョウは十三枚目の鏡として神に最も近いと言っていた。そしてアリスは、鏡の力なしに両世界を繋ぐだけの願いを持っていた』


「うん、合ってるね。それから?」


『結論から言おう。お前はアリスだ』


「ほう、その心は?」


『そう考えたら、全ての謎が解けるからだ。そうだろう、アリス?』


 靄に色が着いた。ほのかに薄紅色の唇と、優しい肌色の腕、透き通った髪の色、靄がいたそこにアリスが現れた。


「…………」


 アリスは何も言わない。俯いたまま前髪で目が隠れている。


「……して」


『なんだって?』


 微かな声で上手く聞き取れなかった。


「どうして」


「どうして私の願いは叶わなかったの」


『アリスの……願い?』


「そう、願い……私はただ、私も、誰かに……」


 アリスは怒っているのか、震えた声で言う。


「私も誰かに、愛されたかっただけなのに!!!!」


 アリスの背中から鏡の破片が抜け出て、それらは一つに合わさり、銀色のスプーンになった。


「『十四枚目の鏡エスぺリオ・ジョーカー--鏡の国(エスぺリオ)--』」


 そのスプーンの先は、俺に向けられていた。アリスの目には、確かな憎しみの色が込められたまま。

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