6話 再装填
引き金に人差し指を引っ掻けてくるっと一回転させる。気分は西洋のガンマンだった。拳銃なんて扱ったことはないが、これは私の魔法だ、思った通りに扱うことができる。
「壮馬、危ない! 『水和弾!!』」
壮馬の頭上の一体に向けて放った弾丸は人形を水に包み込んだ。
「茉莉愛……!? その銃……それに、この湧き上がる力……まさかお前」
「ごめんね壮馬。私今更気づいたの--」
壮馬の握っている剣から、薄緑色のオーラがはっきりと見て取れた。
「暢気に話なんてしてるんじゃないよ!」
「……なの」
水に包まれた人形は私達の元に来て、ぼとりとその場に落ちた。
「なんで! なんで爆発しないの!?」
「……なの?」
水に包まれた人形は発火能力を失い、ただ自走するだけの人形になっていた。どうやら損傷がなければ操作下から外せないらしく、二人の少女は地団太を踏んでいた。
「--私、壮馬が好き。だから、もう守られるだけなんて嫌だ、私も戦う、壮馬と一緒に戦うから!!」
「茉莉愛……ああ、分かった。一回言ってみたかったんだ。背中は任せたぜ!!」
「うんっ!!」
この銃の装填数は十発。相手の少女は一人につき五体の人形を操るのだから、合計十体。弾の数と同じだった。弾の種類はいくつかあるようだが、そのためには弾を再装填する必要があった。
「『水和弾×9』」
残り九発の弾丸を撃ち終えると、爆破することを諦めた人形はナイフを片手に向かってきた。
「そこは俺の仕事だぜ!!」
剣が真っ二つに裂け、二本の太刀になった。最初から妙な形だと思っていたが、あれは二本の剣が合わさっていたようだ。二刀流になった壮馬は、必要最低限の風を起こして人形を跳ね返していた。その間に私は次の弾を装填する。
それと同時に水和弾の効果が切れたようで、人形は水から解放されてしまった。
「今ね!!」
「……なの!」
それを好機と見た二人は、人形で私たちの周囲を包囲した。
「この時を待ってたぜ。『春の嵐!!』」
壮馬が太刀の柄の底を合わせると、私達を中心に渦を巻いて暴風が巻き起こる。嵐と言うより竜巻と言うべきだろうか。魔法の名称も個人の思考に依るようなので、壮馬はもう少し勉強する必要がありそうだ。
弾の装填を終える頃に、吹き飛ばされた人形が帰ってきた。今度は私の番だ。
「『解除弾!!』」
命中した人形がその場に落ちる。ちなみにこの銃はパッシブ系のもので、相手の魔法効果を打ち消すことができる。弾数に限りがなければ、この戦いにはめっぽう強かっただろう。次々にやってくる人形に残りの弾を撃つと、次の装填に取り掛かった。
「あーもう、相性悪すぎ!!」
「……なの」
二人は自棄になって人形を飛ばす。もう完全に手は出尽くしているようだ。これなら油断さえしなければ傷つくことはない。しかし逆に、このままでは防戦一方な現状から抜け出せない。
「『重力弾!!』」
人形は過剰な重力に耐え切れずに地面に落下し、その場から動けなくなっていた。
「もう……爆散!」
「なの!」
せっかく撃ち落とした人形を爆破されてしまった。これでは重力弾の意味がない。
「くそ……どうにか方法はないのか」
「方法? 壮馬、何か思いついたの?」
「水のあれと、重力のあれ、組み合わさったら強そうなんだけどな」
壮馬の小言に、私は色々と銃を扱ってみる。弾は撃ち終わらない限り再装填は不能で、再装填と同時に魔法効果は切れてしまう。二種類の弾を五発ずつ装填することはできるが、それでは五体分しか効果がない。下手な賭けをして裏目に出ると困るため、試しはしない。
しかし、現状それをする方法を見つけた方が早そうだ。このままでは体力がもたない。
「何か方法は--」
見回すと、遠くの住宅の陰から眩い光が広がっていた。よく見ると、柊先輩を寝かせた場所だった。いつの間にか遠くに来てしまっていたらしい。私はその光に導かれるように走り出した。
「あの光まさか……させない!!」
「なのっ!!」
人形は私目がけて飛ばされる。
「おっと、ここは通さねえよ『北西の風』!!」
壮馬が二人を足止めしている間に全力で走った。小さい頃は壮馬より速かった。いつの間にか抜かれてしまったが、それでも足の速さには自信がある。これが50m走なら自己新記録かもしれない程の速さで駆け抜けると、光源に辿り着いた。
「柊先輩……」
先輩の死に顔は見惚れるほどに清らかだった。満足そうな笑みを浮かべていた。その胸の直上に何色とも形容し難い、ガラスの破片のようなものがあった。
「これが鏡……」
触れたら壊れそうな繊細な光に、私は指先を当てた。水のような感触がして、鏡が私の腕を伝って胸に入り込む。
「あぎ……やだ、痛い!! ひっ……うう……ひっひっふー……あうああ、やっぱりいたあああい!!!!」
胸を貫く耐え難い痛みがした。咄嗟にラマーズ法を試してみるが意味はなかった。
「やめて、こわれちゃうから……ああっ、いやあああああああ!!!!」
光が私の中にするりと、吸い込まれた。胸の痛みが止まっても、私は胸の辺りに痛みの感覚が残っていた。そして同時に、体の中から力が溢れてくるようだった。
「柊先輩、ありがとうございます」
先輩の遺体に一礼すると、銃を握る手に力を込めた。




