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E1-エスぺリオ・オリジェン-  作者: 心音
4.5章 茉莉愛編
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6話 再装填

 引き金に人差し指を引っ掻けてくるっと一回転させる。気分は西洋のガンマンだった。拳銃なんて扱ったことはないが、これは私の魔法だ、思った通りに扱うことができる。


「壮馬、危ない! 『水和弾(アクアシュート)!!』」


 壮馬の頭上の一体に向けて放った弾丸は人形を水に包み込んだ。


「茉莉愛……!? その銃……それに、この湧き上がる力……まさかお前」


「ごめんね壮馬。私今更気づいたの--」


 壮馬の握っている剣から、薄緑色のオーラがはっきりと見て取れた。


「暢気に話なんてしてるんじゃないよ!」


「……なの」


 水に包まれた人形は私達の元に来て、ぼとりとその場に落ちた。


「なんで! なんで爆発しないの!?」


「……なの?」


 水に包まれた人形は発火能力を失い、ただ自走するだけの人形になっていた。どうやら損傷がなければ操作下から外せないらしく、二人の少女は地団太を踏んでいた。


「--私、壮馬が好き。だから、もう守られるだけなんて嫌だ、私も戦う、壮馬と一緒に戦うから!!」


「茉莉愛……ああ、分かった。一回言ってみたかったんだ。背中は任せたぜ!!」


「うんっ!!」


 この銃の装填数は十発。相手の少女は一人につき五体の人形を操るのだから、合計十体。弾の数と同じだった。弾の種類はいくつかあるようだが、そのためには弾を再装填する必要があった。


「『水和弾×9(アクアナインス)』」


 残り九発の弾丸を撃ち終えると、爆破することを諦めた人形はナイフを片手に向かってきた。


「そこは俺の仕事だぜ!!」


 剣が真っ二つに裂け、二本の太刀になった。最初から妙な形だと思っていたが、あれは二本の剣が合わさっていたようだ。二刀流になった壮馬は、必要最低限の風を起こして人形を跳ね返していた。その間に私は次の弾を装填する。


 それと同時に水和弾の効果が切れたようで、人形は水から解放されてしまった。


「今ね!!」


「……なの!」


 それを好機と見た二人は、人形で私たちの周囲を包囲した。


「この時を待ってたぜ。『春の嵐(テンペスト)!!』」


 壮馬が太刀の柄の底を合わせると、私達を中心に渦を巻いて暴風が巻き起こる。嵐と言うより竜巻と言うべきだろうか。魔法の名称も個人の思考に依るようなので、壮馬はもう少し勉強する必要がありそうだ。


 弾の装填を終える頃に、吹き飛ばされた人形が帰ってきた。今度は私の番だ。


「『解除弾(クリアシュート)!!』」


 命中した人形がその場に落ちる。ちなみにこの銃はパッシブ系のもので、相手の魔法効果を打ち消すことができる。弾数に限りがなければ、この戦いにはめっぽう強かっただろう。次々にやってくる人形に残りの弾を撃つと、次の装填に取り掛かった。


「あーもう、相性悪すぎ!!」


「……なの」


 二人は自棄(やけ)になって人形を飛ばす。もう完全に手は出尽くしているようだ。これなら油断さえしなければ傷つくことはない。しかし逆に、このままでは防戦一方な現状から抜け出せない。


「『重力弾(グラビディシュート)!!』」


 人形は過剰な重力に耐え切れずに地面に落下し、その場から動けなくなっていた。


「もう……爆散!」


「なの!」


 せっかく撃ち落とした人形を爆破されてしまった。これでは重力弾の意味がない。


「くそ……どうにか方法はないのか」


「方法? 壮馬、何か思いついたの?」


「水のあれと、重力のあれ、組み合わさったら強そうなんだけどな」


 壮馬の小言に、私は色々と銃を扱ってみる。弾は撃ち終わらない限り再装填は不能で、再装填と同時に魔法効果は切れてしまう。二種類の弾を五発ずつ装填することはできるが、それでは五体分しか効果がない。下手な賭けをして裏目に出ると困るため、試しはしない。


 しかし、現状それをする方法を見つけた方が早そうだ。このままでは体力がもたない。


「何か方法は--」


 見回すと、遠くの住宅の陰から眩い光が広がっていた。よく見ると、柊先輩を寝かせた場所だった。いつの間にか遠くに来てしまっていたらしい。私はその光に導かれるように走り出した。


「あの光まさか……させない!!」


「なのっ!!」


 人形は私目がけて飛ばされる。


「おっと、ここは通さねえよ『北西の風(ミストラル)』!!」


 壮馬が二人を足止めしている間に全力で走った。小さい頃は壮馬より速かった。いつの間にか抜かれてしまったが、それでも足の速さには自信がある。これが50m走なら自己新記録かもしれない程の速さで駆け抜けると、光源に辿り着いた。


「柊先輩……」


 先輩の死に顔は見惚れるほどに清らかだった。満足そうな笑みを浮かべていた。その胸の直上に何色とも形容し難い、ガラスの破片のようなものがあった。


「これが鏡……」


 触れたら壊れそうな繊細な光に、私は指先を当てた。水のような感触がして、鏡が私の腕を伝って胸に入り込む。


「あぎ……やだ、痛い!! ひっ……うう……ひっひっふー……あうああ、やっぱりいたあああい!!!!」


 胸を貫く耐え難い痛みがした。咄嗟にラマーズ法を試してみるが意味はなかった。


「やめて、こわれちゃうから……ああっ、いやあああああああ!!!!」


 光が私の中にするりと、吸い込まれた。胸の痛みが止まっても、私は胸の辺りに痛みの感覚が残っていた。そして同時に、体の中から力が溢れてくるようだった。


「柊先輩、ありがとうございます」


 先輩の遺体に一礼すると、銃を握る手に力を込めた。

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