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E1-エスぺリオ・オリジェン-  作者: 心音
4章 心象
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1話 追撃

 凛人と出会ったのは、小学校に入学したときだった。しかし、仲が良かったということは決してなく、それは現在も変わらない。


 凛人は比類なき天才児で、周囲からの人望は厚かった。それ故に、家が近いと言えど特別な親しみは持てず、俺は暗莉と一日の大半を過ごしていた。それでも、心のどこかでは凛人に憧れていたことも確かだった。


 そんな無に等しい関係が変わったのは、アリスがやって来てからだった。小学校生活も中盤を過ぎたころ、凛人はアリスを見るや否や、綺麗な貝殻を見つけた子供ように目を輝かせた。


 そんな凛人だからこそ、きっと鏡に選ばれてしまうだろうと思っていた。


「無様なものだ。今の君は誰よりも弱い」


 弱い。そう言われてどこか腹立たしくもあった。俺は鏡を得た人間でなければ、魔法が使えるわけでもない。そして、凛人のように秀でたものがあるわけでもない。


「俺にどうしろって言うんだよ……」


 地面に膝をついたまま、俺は凛人を見据える。くるみは警戒しているのか、後退りして凛人と距離を取る。


 すると、テレスが一歩前に歩み寄った。しかし何も言わず、ただ凛人と目を合わせている。


「そうだね、僕と決闘しよう。一対一の、正々堂々とした決闘だ。賭けるものは--アリス君だ」


「あんた、何言ってるの!? 新谷君は鏡を持ってないし、愛鈴ちゃんは何も関係ないじゃない!!」


 くるみが咄嗟に責めるが、俺はその場に立ち上がった。


「決闘か……お前と喧嘩したのは一回しかなかったな」


「新谷くんも、何言ってるか分かってるの!?」


 俺はただ、怨念のように脳裏に絡み付く暗莉のことを、どうにかして振り払いたかった。


「交渉成立……のようだね。では場所を変えよう。ここでは狭すぎるからね」


 くるみの仲裁を無視して、俺達は萩野丘高校のグラウンドに向かった。




 学校は、先日の花村四葉との一件で見る影もなくなっていた。鉄筋が剥き出しになり、窓は溶け、花々は土と化していた。


「何か変な感じがするの」


 テレスが訝しげな目をしながら辺りを見回している。


「校舎がこうなっちゃったからね……仕方ないんじゃないかしら」


「そうじゃないの……もっとこう、嫌な感じがするの」


 テレスは怯えるように肩をすくめている。


「くるみ、アリスは無事か?」


「まあ……部屋に籠ってはいるけれど。それと、一応現状は伝えたわ」


「アリスは何か言ってたか?」


 くるみは首を横に振った。花村のことでまだ気を病んでいるようだ。アリスにとっての花村と同じくらい、またはそれ以上に大切な人を亡くしたというのに、俺の心は薄情なものだ。


「さて、ここで良いかな?」


 グラウンドの中央に来て、凛人は言う。俺が頷くと、くるみとテレスは俺達から距離を置いた。


 くるみは勝手にしろとばかりに、拗ねた態度を取りながらも、まだ俺のことを心配してくれていた。


「それでは始めよう」


 凛人は目を閉じた。精神を研ぎ澄ませるように深く息を吸うと、背中の方で鏡が輝いた。


一枚目の鏡(エスぺリオ・エース)-剣はペンより強し(セイブザクイーン)-」


 その言葉を放つと、凛人の正面に二本の剣が現れた。青銅の宝刀のようで、日を受けて鋭く輝いている。


「ちょっと、待ちなさいよ。喧嘩なら拳で殴り合いなさいよ。正々堂々って言ったのは安恒くん、あなたでしょう?」


「やれやれ……君は勘違いしているようだが、これは正々堂々とした--騎士道だ。彼がアリス君を守り抜けるだけの人間かどうか、見極めさせてもらう」


「そういうことだ、くるみ。危ないから下がってくれ」


 俺は差し出された剣の片方を手にすると、西瓜ほどのずしりとした質量を感じた。凛人はもう片方の剣を取ると、剣道の要領で前面に構えた。


 互いに三歩ずつ下がり、十分な距離が開いたところで勝負は開幕した。


「うおらああああ!!!」


 地面を強く蹴って凛人の懐に飛び込むと、剣を大きく横に振り払った。凛人はそれを受け止めると、弾き返す。弾かれた勢いを利用して距離を取ると、一瞬前までの俺の位置を凛人の剣が切り裂いた。


 すかさずもう一度、今度は正面から斬りかかると、凛人はまたしても剣で受け止めた。


「どうした、君の力はその程度か」


 手に込める力を更に強くすると、剣と剣が摩擦してガラスを引っ掻いたような音がした。


「君には覚悟が足りない」


 凛人は俺の剣を弾くと、追撃して大きく剣を振った。遠心力の加わったその斬撃を受け止められるはずがなく、俺は身を屈めて何とか躱すことができた。


「覚悟だって……? 俺は鏡を集めてアリスの元に帰るって、約束したんだああ!!!」


 隙ができた凛人の胴に剣を振るが、凛人はそれを見切っていたようにまたしても受け止めた。


「よくもそんな非情なことを言えたものだな」


「非情だと……? どういう意味だ」


 受け止められたまま、俺は剣を振り抜こうと力を込めるが、凛人はびくともしない。


「なら君は、彼女の両親が原初鏡を求めた果てに亡くなったということを……知っているのかい?」


「はっ……」


 驚く暇も与えず、凛人は俺の剣を弾き、更に倒れ込んだ俺に向かって剣を振り翳した。その勢いに俺の手は耐え切れず、俺の手から剣が弾き飛ばされた。


「せっかくの機会だ。話をしよう。アリス君と--原初鏡についての話をね」


 凛人は俺の首元に剣を突き立てながら、話を始めた。

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