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アルデニア冒険譚  作者: 寝る寝る坊主
第一章 ~初まったのはあの日から  始まったのはこの日から~
2/4

幼少期なんてなかった。~物語は動き出す~

()っ!」


 ガンッ!という鈍い音と、ついで痛み。オレの今日の目覚めは、最悪のものだった。

 

「あいたたた……。なんなんだよ、まったくっ」


 頭をさすりながら、起き上がる。身を丸めていた布を取り払い、後ろを見れば、たくさんの木箱が積まれてある。


「こいつか……」


 たしか入っているのは果物やら野菜やらだったか。途中の村から買っただろうそれらは、氷の魔石による冷凍保存がなされており、新鮮さが保たれている。

 

「おっと」


 また大きな揺れ。今度は何かにぶつかることはなかったが、若干崩れかけている木箱の山を元に戻す。まだ街から遠いせいか、街道といってもあまり整備はされていないらしい。


「しっかし懐かしい夢だったな」


 

この世界に来て、はや16年。オレは異世界ですくすくと成長し、今は旅の途中であった。

 


先日は小さな村に居たのだが、やってきた商人が行きたかった街へと向かう途中だと聞き、頼み込んで乗せて貰ったのだ。最初は荷台に余裕が無いと断られた。おまけに、このとき車を()く馬が一頭怪我をしていたため、一台は数人の男が人力で動かしていた。


 オレとしてはこの旅に目的は無く、焦る必要も無かったためあっさり引こうとした。今までの旅もお金をケチってほぼ歩きで移動していたし。もちろんこれは人間離れした身体能力があったからこそだが。


 

しかしせっかくだからと馬の怪我を神聖術で治癒したところ、商人達は喜んでくれた。そして、なんとか身を休める余裕を作ってオレを馬車に乗せてくれたのだった。


「おはよ、ダウエルさん」


 荷台から身を乗り出して御者台にいる中年男性に挨拶する。すると、ダウエルさんは快活な笑みをこちらに向ける。ちなみにこの人がこの商隊の隊長さん。


「おう、起きたかお嬢ちゃん」

「ああ。いい天気だな」

「ここ数日は雨ばっかでろくに進めなかったからな。さっさと街に帰りてえぜ」

「街には奥さんがいるんだっけか?」

「ガキもいるぜ。娘だ。そりゃあもう天使のように可愛いんだ」

「ふうん…」


 濁流のように押し寄せる家族自慢を聞き流しながら、こっそりため息を吐く。


 お嬢ちゃん、ねぇ……。




 この世界に来るとき、オレは女に生まれた。なぜかと言えば、自殺した魂の器が人間の女だったからだ。当時は凄く混乱したし、神様に文句を何回も言った。まぁ(はた)から見れば赤ん坊が「おぎゃあおぎゃあ」と泣いてるだけだったし、神様と話したのはあの夢の中だけでそれ以来音沙汰なしだが。


 とはいえ、文句をいっても仕方がない。俺はある家で女の子として育った。心まで女になる気はなかったし、いまだ男としての意識があるのも事実。ただ、そういったことから、女として扱われることには慣れている。


 今更お嬢ちゃん呼ばわりされても特に問題は無い。要は慣れだ、慣れ。

 ……ではあるのだが。


「将来はシアに似て美人になるだろうなぁ」

「そうなるといいな~(棒読み)」

「まっ嬢ちゃんほどの別嬪(べっぴん)さんにはなれねえだろうが」

「あ~…。そんなことないと思うけどなあ」


 顔を苦くしてしまったのは、娘自慢に辟易していたからだけではないだろう。


 問題になるのだとすれば、この外見だろう。

 

 「出来れば見た目も良くしてほしいなあ」という俺の呟きを、神様は聞き逃さなかった。そしてめっちゃ良い感じに仕上げてくれたのだ。



 今はショートになっている髪は艶やかな金色で、朝日を浴びながらきらきらと輝いている。同じく綺麗な金色の瞳は、目が合ったものはその中に引き込まれるような感覚を抱かせる。肌は新雪のように白く滑らかで、全体的に華奢ではあるが出るとこは出ている体型。顔ももちろん整っていて、「良い見た目」としては非の打ちどころが無いだろう。




 この“誰がどう見ても美しいと思う”外見が、オレが貰った恩恵の一つであり、神様はこれを“黄金律”という恩恵の応用だと言っていた。



 そしてこの恩恵のおかげで苦労すること数知れず。いや、贅沢な悩みだとは分かるけれど。精神が男であるため、やはり男から幾ら好かれても嬉しくは無い。出来るなら女の子に好かれたいのに……。



「急に黙り込んでどうした?」

「な、なんでもない。それより今どこにいるんだ?全然街が見えないんだが」

「そう急かしなさんな。丁度もうすぐ見えてくるはずだ」


 ほら、とダウエルさんが指差す方向を見る。馬車が進む道は森の中で、左右どちらも木々が鬱蒼(うっそう)と茂っている。しかし、じっと見ているとちらっと遠くに巨大な壁が見えた。


「おおー!」

「あれがエレドーラの城壁だ」

「なんかすっげえでかかった!」

「そりゃあ、エレドーラは冒険者が最も集う街だからな。それを目当てに来る職人やら商人やらも集まってでけえ街になったんだ」



 冒険者の街エレドーラ。冒険者とは文字通り冒険する者。世界を巡る彼らは、時に強大な魔物と戦い、古代の遺跡を探検し、未だ人跡未踏の地を目指して艱難辛苦の旅を続ける者たち。近年になって職業と認められたその道は険しく、一般人にとっては「自分から死にに行く酔狂な物好き達」と認識されている。



 その代わり、例え農民でも貴族でも商人でも職人でも、果ては異教徒でも亜人(あじん)でも平等に扱うし、扱ってもらえる。そして同時にチャンスも平等なのだ。その身をもって勇を示せば、富と名声が手に入り一攫千金も夢ではない。それゆえ多くの若者が冒険者を目指し、なにも出来ぬまま死んでいくのだった。



 エレドーラは元々立地が良く、各主要都市へと続く宿場町として栄えていた。冒険者もまた一旦この街に滞在、休んでから何処かへ旅立つことが多く、冒険者の影響力が大きかった。



 決定打になったのは東の平原と西の火山だろう。東の平原には、普通の獣より強靭な力を持つ《魔物》がたくさんいる。西の火山にはドラゴンが住むと言われ、実際に《飛竜(ワイバーン)》の群れがエレドーラを襲ったこともあったらしい。



 それらの脅威に対し、街を守るために冒険者が死力を尽くした。そんなことが度々あった後、大陸中に名を轟かせる冒険者、《透窓(とうそう)の牙》クオンが街を治めるようになり、エレドーラは冒険者の街になった。先ほど見た城壁はそれらの脅威から街を守っているのだ。


 

 ……ということを雑談を交えながらダウエルさんに聞いていること数時間。



「………なんか街から遠ざかってね?」

「道の都合上ぐるっと森を迂回して行かなきゃなんねえんだよ」

「で、何時着くの?」

「陽が落ちる前には着くだろうよ」

「マジで?」

「マジで」

「………」



 頭上を仰げばお日様が元気よく自己主張している。……まだ昼前なんだよなぁ。暇だなぁ。どうしようかなぁ。と思ったその時。


「ん?」


「ガルルルルル!!」


 なんか目の前の茂みからいっぱい出て来た。狼のようだけど、それにしては大きいし、真っ黒な毛に赤い眼をしている。多分狼に似た魔物だろう。


「またこいつらか!」


 ダニエルさんは大きく舌打ちして馬を止める。いや、その前に止まってた。めっちゃ馬震えてる。今にも逃げ出しそう。


「こいつらは良く出るのか?」

「ああ。ここら辺を通るときにけっこう襲って来る」


 オレと会話しながら、ダニエルさんは馬から降りて腰に差した剣を抜いた。


「戦うの?」

「こいつらは一度見つけた獲物はどこまでも追って来るからな。お嬢ちゃんはそこで大人しくしてな」

「見たところ十数匹くらいだな。大丈夫?」

「俺一人だったらそりゃ詰みだがな」


 振り返ると、後ろに続いてた商人たちが武器をとってこちらに来ていた。


「外に出たばかりのガキならともかく、俺達は何度もこんなことを経験してきたんだ。心配いらねえよ」

 


 狼の群れに立ちはだかる男達。全員が筋骨隆々とした逞しい体格をしている。この商隊には護衛が一人もついておらず、どうしてかなぁと思っていたがこれが理由らしい。


「グルル…」

「………!」


 前方の道に立ちはだかる魔物の群れ。それに立ち向かう屈強な男達。その後ろで御者台に立ち上がるオレ。静かな森の中を、張り詰めた空気が支配する。



 

 ついに闘いが始まる―――


「ガオオオオオッ!」

「うおおおおおおお!」


 一斉に走り出す両者。そして。



「《バーンフレア》」


 オレの掲げた右手からシュッと、炎が(はし)る。それは男達の頭上を通り、魔物の群れを真っ赤な炎で包み込んだ。




「??????」


 男達のポカンとした顔が赤々とした光に照らされる。炎が消えた後には魔物は一匹も残らず、地面が焼け焦げていた。


 ギギギ、と壊れかけの機械みたいに男達がゆっくりとこちらを振り返る。



 「ほら、さっさと行こうぜ。また魔物がくるかもしれないし」


 オレは馬を落ち着かせるように、よしよしと撫でたあと馬車の中に戻った。



 しかし妙だな。群れで来たのに真正面から来るなんて。普通は脇からとか後ろからとか、あるいはこっちを取り囲んだりして襲うほうが良かったと思うんだが。


「まぁいっか」




 それを見ていた男達は、いまだ武器を掲げた態勢のまま悲しそうに呟いたのだった。


「「「「えぇー……」」」」







「名前は?」

「アルスだ」

「目的は?」

「冒険者になりたくて」

「そうか」




 エレドーラに着いたのは夕暮れ時だった。ダウエルさんの言った通り。検問も滞りなく終え、オレは街に入った。検問というには雑ではあるが、ここには様々な人間が集まる。


 人のことを詮索しない、というのはこの街の基本事項だ。


 だからといって治安が悪いのかというとそうでもない。何か問題を起こせば、腕っ節の強い冒険者達に袋叩きに遭う。むしろこの報復のほうがヤバいとか。


 「うむむ………」


 もうすぐ夜だというのに、まだちらほらと人がいる。今オレが歩いてるのは一番の大通りだというのもあるだろう。石畳の道は、大きめの馬車が何台も横に並べるくらい幅がある。その端の方で小さな露店を開いている人間もいれば、それを眺めて買い物している人もいる。また、帰る家がそもそも無さそうな浮浪者が道に寝そべっていたりもする。



 街に入ってすぐ別れたダウエルさんによれば、この街の城門付近は下町なのだという。簡単に言えば日々の生活にも困っている人達が集まっている場所。道に沿ってぎゅうぎゅうに敷き詰められた家々。そこに住む人々は身を寄せ合って慎ましく暮らしている。



「今日は早く宿を取りたいんだけど………」


 ダウエル情報を確認しよう。


 とりあえず入ってすぐある大きな看板を見る。これはこの街の案内板で、地図が描かれている。この街はきれいな正方形の形をした大都市だ。そして街の内部は段差があって三つの区域に分かれている。


 各区域は街の形に合わせてこれまた正方形だ。イメージでは、城壁の内部に正方形、またその内部に正方形という形だ。区域を隔てているのは用水路と繋がる大きな堀で、下の区域と上の区域は東西南北にある階段で移動する。ちなみに、東西南北に通る大通りと繋がっていてかなり横幅がある。


 一番上の区域はこの街の統治者、クオンが住む城があり、彼の直接の部下達もここに住んでいる。


 真ん中の区域はオレの目的の場所でもある。宿屋はもちろん武器や防具を取り扱う店や傷薬などの薬品を売る店。つまり冒険者向けの店が多く、この街で一番活気のある区域でもある。


 一番下が現在地の下町。


 とりあえず大通りを進み、階段を上ろう。



 歩きながらキョロキョロと街を眺める。やっぱり初めての街はキョロらないと。



 「お、スライムだ」



 道を這っているものもいれば、家の屋根や壁に張り付いているのもいる。多分この街なら数百匹はいるだろう。



 少し話は逸れるが、この世界の文化水準は元の世界より低い。その一つが清潔さだ。この世界には細菌レベルで清潔に保つ技術が無い。

 方法が無いわけではないが、それは一部の人間しか出来ない魔術によるものであり、街全体に効果を及ぼすには負担が大きすぎる。





 それを解決してくれるのがスライムなのである。スライムは魔物の一種であり、魔力が染み込んだ水辺で生まれる。両腕で包み込める大きさで、戦闘能力が皆無の彼らは人間と共生する唯一の魔物である。


 気性が穏やかで、人間が近づいても襲ってこない。我関せずと地面をのんびり這い回り、時々休んでまた這い回る。その様子は大変愛らしく、愛玩動物としてマイスライムを飼う人も多いとか。



 彼らの真骨頂はその雑食性。彼らは地面を這う時に、接地面にあるものをじわじわと吸収、分解しては魔力に変換して大気中に放出する。吸収するものはどんなものでも問題ない。街を汚すゴミでもいいし、そこらへんに積もる塵や埃、雑菌までもエサとなるのだ。これが、スライムが街に溢れる理由である。



 そんな訳で、スライムはこの世界の全自動掃除機となっている。しかも高性能の。分解能力自体は低く、道路や壁、家具などを侵食しないという点も素晴らしい。




 欠点は、その小ささから浄化に時間がかかることと、吸収しすぎたり、寿命が来ると死んでしまうこと。

 スライムは赤や青、緑など個体によって色が違うが、空腹時は色が薄くなり、満腹時は濃くなる。そして満腹をこえて吸収を続けてしまった場合、真っ黒になり死んでしまう。


 こういった事情から、都市部でのスライムの需要は高く、スライム商人は日々せっせとスライムを集めるのである。




「そこの人、避けて!!」



例えば、冒険者に依頼するなどして。



「おおおおおっ!?」



 階段を昇ろうとした途端、視界がカラフルなスライム達で埋め尽くされる。上から降りて来たスライム達が、上空から降ってきたようだ。とっさに顔を両腕で覆いガード姿勢をとると、ぽよんぷよんと何匹もぶつかる音がする。




 しばらくたった後、腕を下げて確認する。ぶつかった衝撃で弾かれて、数匹のスライムが跳ねながら上に戻っていったようだ。残りはそのまま下に逃げていったのだろう。

 スライムとて魔物である以上、調教して使役できるようにしなければならない。そうしなければ、生まれた水辺を好むスライム達は逃げていってしまうのだ。


 丁度今のように。



「あ~あ。逃げちゃった………」


 

 声の主は少女だった。今はがっくりと項垂れている。顔は見えないが、今の態勢だと地面につきそうな程の長い銀髪は特徴的だ。

 


「だから言っただろ!?これ以上入れると箱が持たないって!!」

「なんだかんだ言ってユートだって納得したじゃん!最後には珍しい色だからって更に追加してたし!」

「あれはいいんだよ!コレクターに売れば金貨を貰えることだってあるんだぞ!」



 少女の後から現れたのは少年。こちらには少し目を見張る。なにせ黒髪黒目の人間と会ったことなどほとんどなかったのだ。



「あ~、お二人さん?」

「部外者は黙ってろ(て)!!」

「お、おう。なんかごめん……」


 

 二人の凄い剣幕に押されて、無駄に謝ってしまった。

 っていやそんな場合じゃない。



「あ、あのさ……」

「「何!?」」



 睨み合ってた二人が同時にこちらを向く。


「さっさと追いかけて捕まえたほうが良くないか?なんて…」


 恐る恐る言うと、二人の顔がさっと青くなった。


「そ、そうだ、早く追い掛けないと!」

「くそっ!セレナなんかと言い合ってる暇は無かった!!」

「はあぁ!?二ホンだかなんだか知らないけど、右も左も分からない田舎者を助けてあげたのはどこの誰!?」

「どの口でそれを!方向音痴のお前が先導したせいで、この街に来るのが一か月も遅くなったんだぞ!」

「それはもう謝ったじゃん!後から後からグチグチグチグチ。ユートってほんっと女々しいよね!」

「気に障ったなら申し訳ありませんね!お・じょ・う・さ・ま……!」

「っ!ユート、それは……!」



 二人は喧嘩しながら階段を駆け下りていった。オレはすっかり蚊帳の外らしい。


 しかしユートにセレナ、か………。





「………宿探そ」


日はすっかり暮れ、辺りは静かになっていた。

街の説明よりスライムの説明が多かったような……。

名前も会話も無かったモブ商人達。

ダウエルさんの出番はもうありません。(ほぼ確実に)

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