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タイムカプセル

作者: 夢月紅葉

 昔、幼稚園くらいの頃に幼馴染と近所の空き地にタイムカプセルを埋めた。

 幼かった僕たちが、そこに何を書いたかはもう覚えていない。

 ずっと一緒にいた幼馴染も、もう隣にはいない。

「なに勝手に死んだみたいなモノローグ流してるのよ」

「……人の思考を読まないでくれないかな」

 僕らは駅前にあるチェーン店のカフェで二人でコーヒーを飲みながら駄弁っていた。

「高校に上がって隣町の学校に進学するようになったからって特に変わったことなんてないでしょ」

「いいや、絶対的に変わったことがひとつだけある」

 幼馴染がなんだろうと考え出す。

 答えが出る前に教えてやることにした。

「ブラのカッp

「何言ってんの!!何言ってんの!?」

 ぐーが飛んできた。いたい。

「むしろ何で知ってんの!?」

「幼馴染のことだ。僕はなんでも知っているぞ。今日のパンツの色から生理周期までな!」

「清々しいくらい気持ち悪いよ!なんなの!ストーカーなの!?」

 ふっと真面目な顔をする。

「幼馴染が具合悪そうなときくらい、見てればわかる」

「……いや、それパンツの色知ってる説明になってないから」

「そっちは今朝カーテンが開いてて着替えてるのが見えた」

「記憶ごと消し飛べ!」

 ぱーが飛んできた。ほほがあかくはれた。

「とりあえずだ。そんなわけでタイムカプセルを掘り返しに行こうと思う」

「唐突だよ!?何がどう展開したらそうなるの!?」

 冷めてきたコーヒーを一口啜り、幼馴染に告げる。

「空き地がなくなるんだよ。今月で」


 かつての僕たちの遊び場であった空き地はすっかりどこも空いていない。

 そこもかしこも工事用の器材やら鉄骨やらが山積みになっている。

 しかし作業をする人は一人もおらず、かつての空き地は静寂に包まれている。

「ホントにコンビニになるんだ……」

 柵に掲げられた看板を見て、幼馴染が呟く。

 看板には大手コンビニエンスストアが建設予定と書かれている。

「コンビニというやつは資材が集まると出来上がるのはすぐだ。一週間もしたら地面がコンクリートになってしまうだろう。そうなる前に掘り出しておこうとね」

 目を瞬かせる幼馴染に苦笑を返し、一度家に戻って取ってきたスコップを担ぐ。

「キミは見付かるまで見ているといい。……僕の雄姿を!」

「はいはい」

 スベッた。はずかしい。

 気にしないでざくざくと地面を掘り進める。

 10分後。

「どこだっけ?」

「それ今聞く?」

 空き地中を穴だらけにして自分は汗だくになりながら、精一杯の爽やかさを演出して幼馴染に聞くと返ってきたのはそっけない返事だった。

 正直もう腕がパンパンです。帰宅部にはつらい労働でした。

「貸して」

 あっと言う暇もなく僕の腕からスコップをひったくった幼馴染は、空き地の隅に立った。

 そこから二歩進む。

 さらに左へ三歩。

 三回まわってワ――

「鳴かないわよ」

 回りはしたのでそこそこ満足である。

「たしかこの辺に……っと」

 ちょっと土の色が違う地面に幼馴染がスコップを突き立てる。

 ガチン、という金属音に今度は土をかき分け始める。

 かくしてそこには、

「「あった」」

 錆びたお菓子の缶、もといタイムカプセルがあった。

「何書いたか覚えてる?」

「さぁね。大事なことだったかもしれないし、そうでもなかったかもしれない」

 ガリガリと錆が擦れる音を立てながら缶を捻り開けた。

 中には紙が二枚。

 一枚を幼馴染が、一枚を僕が書いたものだ。

 ……今になって同じ便箋を使ったことを後悔した。

 幼馴染も同じことを思ったらしく、ちょっと気まずそうにしている。

 しかし、

「どっちが引いても恨みっこなしね」

 幼馴染が男前すぎた。

「あっ」

「えいや!」

 缶から一枚抜き取って空き地の入り口に走り去ってしまった。

 こうなると僕は残った一枚を読むしかない。

 缶から便箋を引き抜き、開く。

 そこには、ところどころ鉛筆で黒く汚れながら丸っちい字でこう書かれていた。

『いつか、――くんのおよめさんになりたいです』

 …………。

「一番大事なところが読めないッッッ!!!」

 幼馴染が戻ってきた。

 僕のところに彼女の便箋があるのなら、彼女の手元には僕の便箋があるはずだ。

 彼女が無言で便箋を渡してくる。

 目を合わせようとしない。

 それはそうだろう。

 便箋は三日前、差し替えてある。

 ご丁寧に十数年便箋だけ保管して古ぼけさせた便箋に。

「で、お返事は?」

 僕が問うと、幼馴染は顔を赤くして「反則」とだけ言った。

恋愛モノだと言い張る度胸。

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