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昼下がりの剣むす談義

 日曜日。

 目覚めて居間に降りるとなぜかバルムンクがテレビを見ていた。

 テレビからはお笑い番組が流れており、お笑い芸人がコントをしていた。


「なるほど……日本の笑いは奥が深いな」

「なんでやねん」

「おお我が主、目覚めたか」

「なんか覚醒したみたいな物言いだな、それ」


 俺はソファに座るとリモコンを取り、チャンネルを変える。


「ああ! 何をするんだ我が主よ!」

「ニュースくらい見せろ」

「ダメだダメだ。もうすぐ、ぺんどらごんの漫才が始まるんだから」


 ぺんどらごんは最近人気の若手漫才コンビだ。

 つうか詳しいなおい。

 仕方なくチャンネルを先ほどのお笑い番組に戻すと、彼女は再び画面を見つめる。


「そういえば訓練はどうしたんだ? 今日はやらないのか?」

「休憩中だ」

「サボりか」

「失敬な、我が主。戦士にも休息が必要なんだ。具体的に言うと、訓練は72時間連続で行うと、12時間の休止期間が挟まれる。定期的に休みを挟むのが強い『剣むす』を作るコツだ」


 そういう仕様らしい。まあよく分からんからどうでもいいが。

 バルムンクは食い入るようにお笑い番組を見ている。


「面白いのか? 君はドイツ人なのに日本のお笑いが分かるのか?」

「少し語弊があるな。私はドイツの英雄が使っていた剣ではあるが、別にゲルマン民族という訳ではない」


 じゃあ剣に人間の笑いが分かるのか、と聞きたくなったが、どうせ屁理屈が返ってくるだけだろう。


「そういや、この間の敵の事なんだけどさ」

「千人切の事か?」

「ああ。結局、最後はなんか敵が自滅したみたいな形になったけど、規約違反ってそこまで厳しいのかな?」


 俺の質問に、バルムンクはテレビから視線を外してこちらを向く。

 切れ長の瞳に、思わず圧倒される。


「我が主もようやく『刀剣戦争』に乗り気になったか」

「いや、乗り気って訳じゃないけど。知らない間に規約違反とかでやられるのもアレだしさ」

「ふふふ、いいだろう、簡単に説明しておこう」


 バルムンクはテレビを消すと、うきうきとした面持ちを見せる。

 どうやら俺が戦う覚悟を決めたと思ったらしい。

 どちらかと言えば、妙な事に巻き込まれないようにしたいだけなんだけどな。


「まず一番重要な規約は先の戦いの通り、『剣将同士は戦ってはいけない』というものだ」

「戦いってのは、殴ったり武器で攻撃したりって事?」

「ああ。直接的、間接的問わず、剣将が自身の能力において攻撃をする事を禁じられている。それを破れば規約違反によりBANとなる」

「そういえば、バンってなんの事だ?」


 聞き慣れない言葉だ。


「BANというのは不正行為を働いたユーザーに対し、運営側がそのユーザーの利用を停止や禁止したりする行為の事だな」

「つまり出禁みたいなもんか」


 このゲームで言うなれば、BANはイコール敗北という扱いになるらしい。


「普通に戦っていればそこまで気にする必要はないだろうが」

「他にBANされる行為はあるのか?」

「後はネガティブペナルティだな」

「ネガティブ?」

「一定期間、戦いに参加せず、逃げ回るプレイヤーに対し、警告がなされる。その警告を受けた状態のまま消極的な行動を続けると、ペナルティとしてBANを受ける」

「つまり戦わないとダメって事なのか」


 戦争が終わるまで逃げ続けてようかと思ったが、それもダメらしい。


「そういや運営ってのは何なんだ?」

「私も詳しくは知らない。先の戦いに現れた黒服の『剣むす』は運営側の『剣むす』のはずだ」

「あの娘も『剣むす』だったのか」


 まあ常人離れした感じがしたしな。

 運営ってことはこのゲームの開発者だよな。

 以前、このゲームの事を聞きたくて連絡先を探したんだけど、HPくらいでそれ以上の連絡先が見つけられなかった。


「まあいいか、また会えたら色々聞くとしよう」

「あれに会うのは御免こうむりたいがな」


 傲岸不遜なバルムンクだが、やはり運営側の相手は苦手のようだ。


「千人切との戦いは俺たちの勝ちでいいのかな。なんかスキルもらえたのか?」


 スマホを取り出し、画面を確認する。

 スキルの項目を見ても、【大炎龍】しか出ていなかった。


「あれ、増えてないな」

「スキルは絶対に取得出来る訳ではないのと、スキルによっては奪えないものもある」

「そうなのか」

「ああ。我々『剣むす』は、それぞれ専用スキルと呼ばれる強力なスキルを持っている。専用スキルに関しては他の『剣むす』は取得出来ないし、使う事も出来ない」

「へぇ」

「千人切の専用スキルは【刀幻鏡・狂い裂き】だ。あれは彼女しか使えないスキルになる」


 なるほど、専用スキルね。


「逆に誰でも使えるスキルは汎用スキルと呼ばれる。訓練などで手に入るスキルは基本的には汎用スキルだ」

「じゃあバルムンクも専用スキルはあるのか?」

「無論だ。しかし残念ながら今は使用出来ない」

「なんでだよ」

「レベルが足りないからな。専用スキルの習得は『剣むす』によって違う。最初から使える者もいれば、私のようにある程度経験値を積まなければ使えぬ者もいる」

「なんていうか、不便だな」


 まあ今までの二回の戦いを見る限り、こいつは結構強い『剣むす』であるのは間違いないのだろうけど。

 もっとも、普段の生活を見てると全然そんな風には見えない。


「それで、どうすればこの『刀剣戦争』というのは終わるんだ?」

「剣将が最後の一人になるまで、だな」

「はぁ……」


 そんなの無理に決まっている。

 早々に負けて何もかも忘れてしまった方が楽なのかもしれない。

 そんな俺の考えを見透かしたのか、バルムンクは鼻で笑った。


「安心しろ我が主。私は強く、私を選んだ主も強いのだ。そう簡単には負けんよ」

「そうなのか」

「ああ、何しろ私は魔剣、だからな」

「…………」


 凍りつく、とはまさにこの事だろうか。

 ドヤ顔のバルムンクと、ドン引きの俺がそこにいた。


「ん? ちょっと分かりづらかったか? 今のは『負けん』と『魔剣』を掛けたギャグなんだが」

「あ、いや……うん」


 相変わらずとても寒い『剣むす』であった。

 ただまあ、なんとなく、陰鬱とした気持ちが消えたのも事実だ。

 とりあえず今はこのお笑いセンスゼロの『剣むす』と、行けるところまで行くしかない。


「まあ、怪我しない程度には頑張るよ」

「その意気だ、我が主よ」


 そう言うと満足したのか、バルムンクはテレビのリモコンを手に取り、再びお笑い番組に向ける。

 見たい番組があったが、まあバルムンクのお笑いセンスが少しでも磨かれるのであればいいかな、などとどうでもいい事を思った日曜日の昼下がりだった。

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