挿話 -生徒会定例会議-
生徒会執行室と書かれた薄暗い室内に、数人の男女が席についていた。
彼らの前には円卓が置かれてあり、その一番奥には少女が座していた。
少女の名は天菱愛璃。
この天堂学園の生徒会長を務めている。
「横川が戦いに敗れ、ゲームから脱落したようです」
右手に座る眼鏡青年――副会長の桐生耕平の言葉に、少女が整った眉をぴくりと動かした。
淡い栗色の髪が揺れる。
「…………誰よそいつ」
「横川です、二年の」
「……知らない名前ね」
「この間、会長に勝負吹っかけて、そのまましっぽを巻いて逃げ出した、あの」
「ああ……」
その言葉に、天菱は合点がいったように頷く。
右手で軽くウェーブした髪をかきあげる。
「この間のあいつね。確か……山内とかだったかしら」
「だから横川ですって」
「……やっぱり知らないわね。その横川某がどうしたのよ」
「戦いに敗れてリタイアしたと報告を受けています」
「しかもただ負けただけじゃないみたいよ」
隣の席にいたボーイッシュな髪形の少女――会計の水上サキが告げる。
「なんか規約違反を犯して運営からBANされたんだって」
「規約違反、ね。あなた、知ってる?」
天菱はそう言って隣に立っていた少女に声を掛ける。
その少女はまるでおとぎ話から現れた姫君のような純白の衣服に身を包み、金色の長い美しい髪をなびかせていた。
明らかにこの学園の生徒ではない。
「イエス、ユア・キングダム。おそらく剣将同士が争ったのだと思われます」
「剣将同士の争い? そんな規約があんのかよ」
訝しげに、左手に座っていた短髪の男――書記の土祭嵐土が言う。
かなりがっしりした体格で、着ているカッターシャツはピチピチだった。
天菱は常々暑苦しいと思っていた。
「確かに、規約にはそういう文言は入ってたと記憶しています」
その言葉を受け、桐生がそう呟く。
そんなとこ、よく見てるわね、と天菱が感心する。
基本的に、彼女は説明書を読まない人であった。
水上や土祭も同じくそうであったので、初耳だという顔をしている。
「しかし規約違反で退場があるとは知らなかったわね。教えてくれても良かったんじゃない?」
呼びかけられた金髪の姫君は、薄く微笑む。
「イエス、ユア・キングダム。あなたがそれを望むのであれば」
「次からはお願いね」
自身の『剣むす』にそう告げると、彼女は再び前に向き直る。
居並ぶ面々に、凛とした声で話し掛ける。
「それで、その横川を倒したのは誰なの? 学園のめぼしい剣将は全員、リストアップしてたと記憶しているわ」
「二年の二階堂という生徒です。聞いた話だと、最近『剣ヴァル』に登録したようです」
「新規プレイヤーって訳ね。こちらの陣営に引き込めそうかしらね」
「接触いたしますか?」
桐生の言葉に、天菱は少し考え込む。
「……まあ今はいいわ。それより第二軽音部の動きは?」
今はそんな事よりも大事な事があると考えを切り替える。
会長の言葉に、桐生がノートパソコンを叩きながら答える。
「特に変わりはありませんが、勢力は増やしているようです。このままではいずれ我々とも衝突するでしょう」
「こちらからの勧告に応じる気配は?」
「ありません」
「向こうは戦う気満々ってところだろう」
土祭が拳同士を打ち付け、やる気を見せる。
「戦うにせよ吸収するにせよ、数は必要だわ。『同盟』を大きくする必要があるわね」
「リストアップした剣将には順次当たっていく予定です」
「そう……」
天菱は提出されたリストを眺め、すぐに顔を上げる。
基本的に、書類仕事は好きではなかった。
「まあそちらは任せるわ。第二軽音部に後れを取る訳にはいかないわ」
彼女はそう言って、にやりと笑みを浮かべる。
この学園に君臨する女王の笑み。
「この『刀剣戦争』に勝利するのは、我々『生徒会執行部』なのだから」