表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

剣むす

「け、けんむす?」


 その言葉を聞いたのは、学校の後輩である久住瑠奈からだった。


「そうです。『刀剣娘カルニヴァル』。略して『剣ヴァル』とか『剣むす』とか呼ぶんです。知りませんか?」

「いや、俺、そういうゲームとかあんまり詳しくないから」

「こんなんですよ」


 そう言って後輩はスマホの画面を見せてくる。

 画面の中には女の子が何やら敵と戦っている最中だった。


「これが『剣むす』ってやつ?」

「これは違いますよ。これは同じジャンルのゲームです。ソシャゲーってやつです」

「そしゃげー……」


 世の中には、色々なゲームがあるもんだ。

 俺の中のゲームは色々な形のブロックをが落ちてきて、それを揃えて消す、という単純極まりないもの。

 

「それで、もうすぐその『剣むす』が発売するんだ」

「発売っていうか、無料でダウンロード出来ますよ」

「タダなんだ」

「先輩、本当にスマホ持ってます?」


 ジト目で見てくる久住。

 一応持ってはいるが、電話をかけるかメールを送るかくらいしか使ってない。


「実は発売前に体験版として、先行ダウンロードが出来るんです」

「へぇ、試写会みたいなもんか」

「ええ。ただ、全員が出来る訳ではなく、抽選なんですよね」


 そういう訳で、と前置きして、久住は続ける。

 つまり、俺も応募して当選確率を上げよう、という魂胆みたいだ。


「お願いします、応募だけならタダなんで」

「しょうがないな……」


 そんなこんなで、俺はよく分からないけれど、その『剣むす』とやらの先行体験版に応募した。






『おめでとうございます。あなたは『刀剣娘カルニヴァル』の先行体験ダウンロードに当選いたしました』


 そんなメールが来たのは、応募して三日後くらいの事だった。

 正直、そんな事を応募したのも一瞬忘れていて、最初はSPAMか何かだと思ってしまった。

 少し考えて、そういえば、と思い出す。


「なんだ、結構簡単に当たるもんなんだな」


 よく知らないが、もしかして単に希少価値を煽っているだけで、全員出来るんじゃないか。

 そう思って後輩に電話してみたが、しかし予想とは違っていた。


『え、先輩当たったんですか?』

「うん、メールが来たよ。あとダウンロード用のシリアルナンバーっぽいのが書いてある」

『いいなぁ。私、落ちたんです』


 久住が言うには、かなりの倍率らしく、ネット上などでも当選者の話がほとんど出回ってないらしい。


「じゃあ俺のやつ、あげるよ」

『先輩、やらないんですか?』

「もともとやる予定なかったし。最初から久住にあげるつもりだったし」

『ありがたいですけど、多分それ無理です』


 何で、と問い返すと、どうもコードの無断譲渡は禁止されてるらしい。

 そんなの、黙ってればバレないんじゃないかと思ったけど、スマホ毎にチェックされているんだとか。

 応募で使った携帯じゃないと、コードが弾かれるのだという。

 たかがゲームで大げさな、と思ったけど、しかしこれだけ人気だと売り買いする連中も現れるらしいから仕方ないみたいだ。


「じゃあ俺が自分でやらないとダメって事か?」

『ええ。折角だしやってみたらどうです? 前にも言った通り、基本的に無料ですし、『剣ヴァル』は今までのソシャゲーと違った料金体系みたいですし』

「まあ金掛からないならやってもいいかな」


 そういう訳で、俺は『刀剣娘カルニヴァル』をプレイする事になったのであった。

 まず、メールに添付されていたURLから、ゲームアプリをDLする。

 よく分からない会社名。

 何でも、この会社の初めてのゲームがこれらしい。

 その割には、各方面で色々と反響が来ているほど、前評判は高い。TVCMとかもやってるのかもしれない。


「結構重いな」


 あまりゲームアプリをDLした事がないので基準は分からないが、少なくとも今まで入れてたアプリに比べると、容量が大きかった。

 数分ほどかけてDLした後、アプリを起動する。

 カラフルな画面と共に現れる会社ロゴ。会社名はアルバリオンというらしい。

 そしてその後に『刀剣娘カルニヴァル』というタイトルが出てきた。

 画面をタッチしてね、と書かれていたので言われた通りにタッチする。


『あなたの名前は、二階堂 正樹 様でよろしかったですか?』


 いきなり画面に俺の名前が登場する。

 名前は自分で好きに入力出来ないのか。

 本名でプレイするのは少し恥ずかしいけど、まあ仕方ないか。

 画面をタッチして続けていく。


『刀剣娘カルニヴァルの世界へようこそ。これからあなたは刀剣の精である『剣むす』の所有者となり、千の剣が華散らす『刀剣戦争』を勝ち抜きましょう』


 文字が流れる。導入の話らしい。

 後輩から聞いていた話では、こういう類のゲームはあまりストーリーは無くて、簡単な背景がある程度みたいだ。

 要は『刀剣戦争』に参加し、『剣むす』とやらを使って戦っていくタイプのゲームのようだ。


『それでは、あなたの『剣むす』を選び出してください』


 そう言われ、画面が切り替わる。

 それは不思議な画面だった。

 まるで墓列のように並ぶ剣。

 大地に突き刺された剣が、大小様々に並べられていた。

 画面に触れるとスクロールした。スクロールした先にも剣の列。

 この中から、最初の刀剣を選ぶのだと、画面は告げていた。


「…………」


 少し動かした後、一振りの剣が俺の目に留まった。

 大地に突き刺された刀剣。特に他と何かが違う訳でもない。

 でも俺は、知らずの内に、その刀剣に触れていた。


『――あなたに、剣の加護があらん事を』


 その瞬間。

 スマホの画面から、光が溢れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ