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第一章
医療施設で幽冥境の亀吉は、その苦しい息の中、清治の将来の事を俵夫婦に何度も頼んで、事切れた・・。
孫を思う、祖父のその姿に深く心を打たれ、俵夫婦は、涙ながらに固く約束をしたのだった。
そして、再び、俵夫妻は精神科医を訪れた。
「身近に、動物とか、植物でも良いのですが、お子さんが興味を示す物があれば・・」
俵夫婦は考えては見たものの、与えたおもちゃもお菓子も、清治の心を開くものでは無かった。これまでの事を思いながら、せめて神仏にでもお祈りを・・ふと立ち寄った神社であった。
「ピー―、ピー―」
泣くそのものは、巣立ち前の鳩の雛であった。ふと周りを見回し、どこから落ちたのかと探しては見たものの、巣なども分からず、このままには捨て置けないと、結局その雛鳩を抱いて帰る事となった。
「鳩!」
初めて清治は、その鳩の雛に興味を示し、俵夫婦は安堵の表情を浮かべるに到った。
それから少しずつ、清治の心は開かれて行く事となる。
折りしも、それから数週間した春雷の鳴り響く晩の事・・。