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志村恭介編 古城
「まあ・・一杯でも飲りながら話をせんか?」
「ええ・・」
コップ酒を脇坂に振る舞い、志村が品川と自分にも注いだ。全員の体中が、ぽかぽかと温まり始めた。脇坂がぽつり、ぽつりと話をし出す。
「・・若気の至り・・とでも言うか・・まずその事を話す前に、その頃、わしはこの村で教師をしていた事があった」
「ほう・・そうでしたか」
志村が頷いた。
「未だわしが40歳前の事じゃ。その時教えたのが、ここの村長をやっとる、山田修作じゃ。今でこそあんなじゃが、当時は手に負えないような暴れん坊でのう。村も活気溢れていた頃で、1万人近い者が住んどった。わしは、趣味で暇を見つけては、岩石・鉱物を拾うとったから、岩石先生と呼ばれて、標本作りを楽しんで居った。わしは晩年にはこの村に骨を埋めてもええな・・そんな事を考えても居った。話が長うなるので、前後を省略するが、わしはあの修作の母親・・香津子さんに惚れとった。あ奴はあんなぶ男じゃが、母親は東京からこの村へ嫁いで来た色白の美人でなあ」




