第一章
しかし、激しく泣きじゃくり抵抗しながら亀吉と引き離された幼い清治の心は、深く傷つき、俵夫婦にはなかなか懐か無かった。夫婦は児童相談所、精神科医を何度も尋ねるが、
「急激な環境変化によるストレスです。時間を掛けてあせらず、ゆっくりと愛情を持ってこの子に接してあげて下さい」
結婚以来20数年、ついに子宝には恵まれず、敦盛の役場の知人から養子の話があって、俵夫婦は決心したものの、
「これが、私達への試練なんだろうね、たった一人の身内からこの子を引き裂いてしまった罰なのだろうか・・」
俵政春は、妻弓子に深い嘆息と共に言った。
「いいえ、きっと心を開いて貰えるよう、私達はあの子に親として、精一杯の愛情を注ぎましょう」
もう、小学校入学式まで、2ヶ月も無い頃であった。
亀吉の危篤の報を受けた俵夫婦は、慌てて精神科医に清治を連れて行く事を相談するが、
「強い精神的ショックは避けるべきです。会わせるのは、余りに子供さんにとっては大きな心の負担になるでしょう」
「しかし・・どうしたら・・」
俵夫婦は、途方に暮れながらも、亀吉の医療施設を2人だけで訪ねる事になった。