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志村恭介編 古城
その声がどこから発したか、数人が振り向いたが、その声の相手が一人の美しい女性だと分かると、振り向いた人々は、次には何事も無かったように無言で改札を抜けて行った。
「恵二さん・・お久しぶり」
「やっぱり由利さんだ。今帰り?」
「ええ、そう。恵二さんも?」
「ああ・・ところで兄貴とは最近?」
歩きながら話をする二人であったが、由利はT大学助教授の*志村恭介の彼女で、その恭介に会う為に、帰り道である谷町線に乗らずに、この御堂筋線に乗ったらしかった。恵二は青白く研究室に閉じ篭りきりの兄恭介とは違い、健康的で目元のすっきりした好青年であった。由利こと、岸田由利は恭介と同じ年で、恵二が2コ下である。
「途中まで一緒に行くよ。由利さんのボディーガード」




