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第一章
他に特にと言って趣味も無かった政春だったが、素晴らしい本に出会い、浦部に出会って、競翔に興味が湧いている自分を感じていた。何よりも、子と一緒に同じ趣味を持つと言う事が、50代の男にとって、より清治の心に近づけるような気がした。浦部は、この後も深く政春と関わる事となる。一つの清治のステップが出来たのだ。が、清治の能力はまだまだ深い殻の中に閉じこもっており、真なるものの皮は向けない。しかし、徐々にその片鱗が見えて来るようになるのが、このステップだった。
家に戻って、弓子とその事を話する政春だった。
「そうなの、あの浦部さんは、河原連合会と言う所の会長さんなのね」
「ああ、今まで、殆ど無趣味で生きて来た私だが、どうだろう?清治と一緒に競翔と言うものをやって見たいと思うんだが」
「清ちゃん?お父さんと一緒に鳩レースってやって見る?」
「うん。」
こくんと清治は頷いた。まだ、父、母とは呼んでくれないが、清治は、日ごとに俵夫婦に心を許しはじめて居た。




