表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
1章:底なし沼の珍事と共生のはじまり
8/47

7

 ふわふわした受け答えをする少年に、ネネは呆れた眼差しを送った。


「アンタ、自分のこと、何も判らないの?」


「ん――、本能に近いことは、判るかなぁ。食餌とか、力の使い方とか……。でも私に関する記憶は、全然ない。名前、生まれ、どうして沼にいたのか……」


火石リンタイトのことは知ってたの?」


「うん、そういう知識はある。実は昨日、カタルカナユ・サンタ・ガブリールにも行ってみたんだ。でも、私の知っている街とは大分違っていた」


「いつから睡蓮沼にいたの?」


「さぁ……、覚えてないなぁ。もう随分昔だよ」


「何で沈まなかったの? あの沼に沈んで浮き上がってきたのは、アンタが初めてだ」


「完全に沈まないように、堪えていたから。あの檻は、鉄と聖銀の質量が黄金比で造られていて、私とは相性が悪かったの。大変だった。何とか沼からは出たけど、血でも流さないと黄金比を破れなくて……、昨日は貴方のおかげで、本当に助かったよ。どうもありがとう」


「まぁ、こっちも聖銀もらえるしね。アンタさ……、何でアタシと一緒にいたいの?」


「貴方、美味しいし。カタルカナユ・サンタ・ガブリールより、此処にいた方が面白そうだから」


 美味しいと言われても嬉しくない。けれど、魅力的な取引だ。指でカツカツと机を鳴らしながら、目まぐるしく計算した。。


「火石はすごく欲しいけど……、アンタを傍に置くにあたって、絶対に譲れない条件がある」


「なあに?」


「その一。アタシに危害を加えないこと」


「もちろん」


「その二。アンタは床で寝ること」


「えぇ?」


「当たり前だ。家主はアタシなんだ」


「まぁ……、ちゃんと食餌させてくれるならいいよ」


「食餌の頻度は?」


「毎日食べたいよ」


「一日何回?」


「貴方は、一日何回なの?」


「朝と夜の二回。昼は狩が多いから、殆ど食べない」


「なら、貴方が食べる時に合わせて、私も食べる」


「じゃ、それで。その三。アタシは、街の人間に見つかりたくない。此処は隠れ家なの。だから、アンタを此処に置いて、もし面倒が起きたら即出て行ってもらう」


「どうして見つかりたくないの?」


「その四。なんで此処に住んでいるかは教えない。聞くのもなし、アタシが此処に住んでいることは、もちろん他言無用」


「……」


「その五。アタシの言うことは、守ること。この森は只の森じゃないんだ。アンタは平気かもしれないけど、アタシは生者だってことを忘れずに。アンタがトチって、私まで沼に沈んだりしたら、たたってやるからね」


 少年はおかしそうに笑った。「祟られるの?」と何故か嬉しそうにしている。


「いいよ。譲れない条件は、それで全部?」


 ネネは腕を組んで考え込んだ。

 大分言いつくした気がするけど、他に何かあるだろうか……。


「あ、火石が必要になったら、また採ってきてくれる?」


 条件というよりは、お願いする口調になった。

 少年は笑顔で頷いた。


「いいよ。あとは?」


「……思いついたら、付け足す」


「じゃあ、交渉成立だね。貴方、名前はなんていうの?」


「ネネ。アンタは……」


 ――そうか、記憶がないのか。


 ふ、と笑みが零れた。少年は不思議そうに小首を傾げる。


「いや、アンタを見た時、瞳の色が勿忘草わすれなぐさだと思ったんだ。”私を忘れないで”……なんて花言葉があるのに、自分が忘れてりゃ世話ないね」


「酷い」


 少年の拗ねたような、悲しそうな顔を見て、ネネは「イヒヒッ」と意地悪く笑った。


「じゃあ、アンタのこと、ルルって呼ぶよ」


「ルル?」


「ネネとルル、いいんじゃない?」


 ネネが笑うと、少年も目を輝かせて、天使のような笑みを浮かべた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=580030222&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ