表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
1章:底なし沼の珍事と共生のはじまり
6/47

5

 ネネは目を瞠って少年と、腕の中の火石リンタイトを見比べた。何から聞けばいいのか分からない。


「此処に置くね?」


 そういって少年は、勝手に古びた木製の机の上に、抱えていた石を全て置いた。

 ネネは机の上に置かれた石を一つ手に取ると、信じられない気持ちで穴が開くほど見つめた。


「これ……っ、本物!? アンタッ、どうやって……!」


「私に出来ないことはないの」


 少年に得意そうに見下ろされて、ギクリとした。

 遠目には華奢な少年に見えたけれど、こうして並ぶと、ネネより頭一つ分は背が高い。それなりに鍛えているネネよりも、少年の体躯はずっとしっかりしていた。決して小さくない火石リンタイトが、大きな掌にすっぽり納まっている。ネネの手と全然違う……。


「嬉しい?」


「……」


 どう答えればいいか分からなかった。見るからに上質の火石リンタイトだ。これだけあれば、しばらく生活に困らないだろう。もらえるものなら、もちろん欲しいが……。


 ――嬉しいって答えたら、取引成立しちゃう? それは困る……。


「それじゃあ、約束。貴方の傍にいさせてね?」


「――ッ!?」


 何も言っていないのに、少年は勝手に結論を出して、ネネをぎゅっと両腕で抱きしめた。驚き過ぎて声も出ない。


「貴方、獣臭い……」


 ――はぁ?


 ネネは眉を潜めた。そういえば、納屋で猪をさばいた。汚れは落としたし、着替えたけれど、髪に匂いがついているのかもしれない。


「血と臓物ぞうもつの匂いがする……。どうして?」


「猪を捌いたんだ。離せよ」


 押しのけようとしても、腕の力は緩まなかった。それどころか、首筋に顔を寄せて、スンスンと匂いを嗅いでいる。吐息が肌に触れて、カァッと首と顔が熱くなった。


「離せってば!」


 びくともしない腕が怖くなり、本気でもがいたが、それでも少年は離そうとしなかった。


「獣の匂いが混じってるけど……、貴方はいい匂いだ。お腹空いたちゃったよ……、少しちょうだい?」


「何を――、ひっ」


 首筋をべろりと舐められた。ぞぉっと背筋が冷えて、少年の袖や上着を思いっきり引っ張り無我夢中で暴れた。


「静かに」


 両手で頬を挟まれ、強制的に目を合わせられた。爛々と輝く青い目に捕らわれる――……。

 途端に身体の自由が利かなくなった。

 逃げ出したいのに、少年の腕の中で人形のように立ち尽くしている。肩にかかる髪の毛をそっと払われて、首筋を露わにされても、自分の意志ではどうしても逃げ出せなかった。


 ――動けない……! 食われるっ!?


 首からかじられるんじゃないかと思った。けれど、少年は首筋を舐めたり、むように甘噛みするだけで、実際に食いちぎったりはしなかった。何度も肌を吸われるうちに、違う意味でドキドキしてきた。


 ――コイツは一体、何がしたいんだ……!


 ネネの肩の上で大人しくしていた手が、するりと鎖骨を撫でた。羽のような触れ方に、身体が震える。心の中で声にならない悲鳴を上げていると、ふっと硬直が解けた。


「――ん、美味しかった」


「う……っ、ぅ」


 硬直が解けた途端、おかしいくらいに、心臓がバクバクと音を立て始めた。足が震えて、崩れるように床にへたりこむ。


「あれ? 吸い過ぎた? ごめんね、久しぶりだったから……」


 少年は床に片膝をつくと、ネネに目線を合わせて、済まなそうに謝罪した。


「アンタ……、本当に一体、何なんだ?」


「私? なんだろうね……」


「魔性のたぐいだろ? アタシに、何した?」


「少し、精気を分けてもらったの。動ける? 大丈夫、少し休めば、治ると思うから」


「本当か……?」


 思ったよりも、不安そうな声が出た。知らないうちに、寿命を吸われていたら嫌だ。

 少年は優しい笑みを浮かべると、するりとネネの頬を撫でた。


「本当だよ。ほら、運んであげる」


 子供にするように、両脇に手をさしこまれて、ひょいと持ち上げられた。嘘みたいに、簡単に身体が浮き上がる。


「い、いいよ……、歩けるから」


 しかし、足を踏み出した傍から、くらりと眩暈がした。身体中から力が抜けて行く――。


「ほらほら……」


 意識が切れる瞬間、妙にのんびりした少年の声が聞こえた……。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=580030222&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ