表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
4章:ネネとルルと恋心
43/47

6

 堂内に引き返そうかどうか迷っているうちに、背後で扉が開き、思わず不自然に映らぬよう回廊を歩き続けた。

 慣れないかかとのある靴を履いているせいで、足が痛い……。

 美しい中庭に白いウッドチェアを見かけると、誘われるようにふらふらと近寄り、腰を下ろして足を伸ばした。

 後れ毛を撫でていく、そよ風が心地いい……。

 ふと、回廊の奥の方から、楽しげな娘達の声が聞こえてきた。何だろう……と振り返り、思わず呼吸が止まりそうになった。


 ――ルル!? な、何でここへ……。もしかして、アタシに気づいた……?


 慌てて立ち上ると、パーゴラの柱の陰に隠れた。

 柱の影から様子を伺うと、ルルは着飾った華やかな娘達に囲まれて、親しげに腕を絡ませていた。

 何だか、妙に腹が立つ。

 ネネを探しに来たわけではないのだろうか。

 可愛い娘を連れて、中庭に散歩にでも来たのだろうか。だとしたら、のこのこ出て行って、声をかけるのも野暮だ。

 第一、どんな言葉をかければいいか判らない……。

 ふて腐れた気持ちで、青空を見上げた。

 ルル達が通り過ぎたら、こっそり回廊を通って堂内に戻ろう。


 ――でも、一言くらい……、声をかけて帰ろうかな。せっかく会えたんだから、あの時はごめんって、それだけでも……。


 よし、一、二の三で柱の影から出ようと決めた。

 そう思った矢先、娘達の残念そうな声が聞こえてきた。今度はどしたというのだろう。勢いを削がれてしまい、結局柱の影から出られない。

 引き続き様子を伺っていると、ルルは娘達と別れて、一人で中庭へと降りてきた。


 ――あれ……、あの子達と、一緒に行かないのかな……。


 よし、と心中で固く決意する。

 今度こそ、一、二の三で柱の影から出るのだ。


「――ネネ」


 驚きの余り、心臓が口から飛び出るかと思った。

 ルルはネネがここにいることに気づいているのだろうか。はっきりと、名前を呼ばれた。この耳で聞いた。

 ルルはネネを探していたのだ。

 胸の内に、ふわりと暖かな気持ちが生まれた。急にドキドキしてきた。しかし――返事をしようと口を開いたら、ふいに別の声が聞こえた。


「マスター」


 恐ろしいミハイル・アルベルトの声だ――。


 ――マスター? ルルのこと……?


 そっと柱の影から様子を伺うと、美貌の領主、ミハイルは恭しくルルに頭を垂れていた。ルルは冷たい眼差しで見下ろしている。

 さっきとは別の意味でドキドキしてきた。

 どうして、ミハイルはルルに頭を下げたりしているのだろう。マスターという呼びかけと言い、まるでルルに仕えているようだ。

 胸の内に、ルルへの疑惑が膨れ上がる……。


”ルルは――リヴィヤンタン。見るものを魅了し、堕落させる、恐るべき闇の生き物。魂を抜かれた人間は、未来永劫、昏い闇に囚われる――”


”ネネは騙されているんです。あの魔性は昔、王都を恐怖に陥れた悪魔です。人の心を操り、精気を貪る……”


 暗い思考を振り払うように、勢いよく頭を左右に振った。


 ――決めつけるな! ルルの口から聞くまでは、何も信じない……!


 固唾を呑んで見つめていると、ミハイルはルルの手を恭しく取り、唇を寄せようとした――。

 カッと怒りが込み上げた。ネネやルルに、あんなに酷いことをしたくせに。


 ――ルルに触るな……!


 腰のベルトからカタパルトを抜こうとして、手が滑った。そうだ、ドレスを着ているんだった。とっさに靴を脱いで、迷わずミハイルに向けて投げつけた。

 バシッと音を立ててミハイルの手に命中する。

 ルルとミハイルは、同時にこちらを振り向いた。


「あ……」


 一瞬、逃げ出そうか迷った。でも思い止まって、二人を睨みつけた。


「ルルに触るな!」


 ルルは弾かれたように、ネネに向かって駆け出した。風のように早いので、避けようがなかった。懐かしい腕に抱きしめられる。


「――ネネッ!」


「ルル」


 腰が折れそうなほど、きつく抱きしめられた。腕の感触が妙にダイレクトに伝わると思ったら、自分の恰好を思い出した。

 薄い布で肩も腕も足も出ていて、こんな恰好でルルに抱きしめられているなんて。急に恥ずかしくなって、手をついて離れようとした。


「ルル、ちょっと離れて……」


「ネネ……」


 ルルは少しも腕の力を緩めず、きつくネネを抱きしめ続けた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=580030222&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ