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人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
3章:人食い森と追跡者
30/47

3

 日が暮れると、ネネはうきうきと台所に立った。お土産にもらった野兎で、兎肉のシチューを作るのだ。


「ネネ、嬉しそうだね」


「美味しそうな兎肉だもん」


「人食い森作戦はどうするの?」


「明日から準備するよ。忙しくなるから、今夜はしっかり食べて、力つけないとね!」


「つまり、兎肉が食べたいんだね……」


「まぁね!」


 全力で頷いた。兎肉をこんがり焼いて、檸檬と岩塩で味付けして一品。牛乳に卵、じゃがいも、椎茸の入ったシチューにして二品目。たんたん、とリズミカルに木机に並べる。とっておきのウォッカを取り出すと、景気よく煽った。


「美味しいーっ!」


 今度黒いのに会ったら、うんと感謝をしなくては……。

 久しぶりの兎肉に舌鼓を打った後、自ら手をルルに突き出した。今夜は機嫌がいい。ルルも腹いっぱいに精気を食べればいい、気前よくそう思った。


「いいの?」


「許す」


 厳かに言うと、ルルは可笑しそうに吹き出した。席を立って、ネネの傍で膝立ちになると、差し出した右手に舌を這わせた。

 相変わらず背筋がぞくぞくするが、そろそろ慣れたい。唇を噛みしめて、込み上げてくる熱を必死に我慢しているのに、ルルは指を甘噛みして舌を絡めてねぶり出した。


 ――そんなことしないと、精気って吸えないものなの……?


「ルル……」


 そろそろ終わらないだろうか……。

 勿忘草わすれなぐさよりも尚青い瞳が、魔性を帯びて煌めいている。薄暗い室内でも、鮮やかな青の光彩がはっきりと分かる。

 ぞくりと背筋が冷えた。

 美しくも恐ろしい瞳だ。何故だろう、見続けてはいけない気がする。閉ざされた何かが、呼び起こされそうで――。


「……っ、まだ……?」


「もう少し……」


「そんなに、美味しいの……?」


「――とっても」


 ルルはうっとりとした表情で、ネネを見つめた。指先にちゅっと口づけて、再び舌を這わせる。指をまるごとしゃぶられると、忍耐の限界に達して手を振り払った。


「ネネ」


「だって……」


「まだ足りない」


「うぅ……」


「もっと、ちょうだい……?」


 ルルは椅子に座るネネを追い詰めるように、背を伸ばして綺麗な顔を近づけた。


「ルル、近い、近い!」


「キスしてもいい?」


「は!?」


 キス……食餌のことを言っているのだろうか。勢いよく首を振った。


「アタシとの約束、その六! 唇はなし!」


「あ、それは覚えてるんだ……」


「あーん?」


「ん、なんでもない。精気はいらないから、ネネにキスしたい」


 ルルが変なこと言うから、思考が停止してしまった。意味が分からない。精気はいらないって、食餌しないのに、何でキスする必要があるんだろう……。


「ネネ? しちゃうよ?」


 断る間もなく、ちゅ、と可愛らしく唇にキスされた。直ぐに離れたけれど、理解した瞬間に顔に血が上った。


「ルル!」


「暴れないの、女の子でしょ」


 手を振り上げたら、逆に腕を掴まれてしまった。


「馬鹿かっ!? ルルのせいでしょ!」


「ネネって、お子様だよねぇ……」


 呆れたような口調に腹が立って、渾身の一撃をルルの腹にお見舞いしてやった。どう考えても、ルルが悪い。





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