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人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
2章:ルルの秘密
23/47

7

 ふっと意識が再び戻った時には、きちんと夜着をまとい、寝台の上に寝かされていた。


 ――いつの間に……!


 慌てて跳ね起きて、ぎくりとした。部屋の隅で、ルルが腕を組んでこちらを見ている。


「ルル」


「ごめんね、少し吸い過ぎちゃったかな……」


 ルルの表情はどこか固い。一体どうしたというのだろう……。無意識のうちに、いつものルルを探して、顔色を伺っていた。


「ルル、どうしたんだよ……」


 自分とは思えない、頼りない声が口から出た。

 ルルの瞳が、さっきからずっと魔性を帯びて、青く光っているせいかもしれない。ルルじゃないみたいで、見ていると不安になる――。


「私がその気になれば、ネネをどうにでも出来るんだよ」


 ルルは寝台に近寄ると、冷たい目でネネを見下ろした。本能的に逃げようと後じさる身体を、強い力で押さえつけてくる。


 ――怖い……。


 ネネの恐怖を感じ取ったのか、ルルは微かに口の端を上げると、震えるネネを寝台に押し倒した。顔を囲うように腕をついて、蠱惑的な笑みを浮かべる。


「ルルなの……?」


「――ルルだよ?」


「本当に……?」


「本当だよ……。どうしてそんなことを聞くの?」


「ルルじゃ、ないみたいだから……」


 ルルはネネの頬を両手で挟むと、ちゅっと額に優しいキスを落とした。どうしてか感情が溢れて、視界が潤んだ。


「どうしようかな。ネネが望むなら、ルルでいてもいいかなぁ……」


 ――何、言ってんだろう……。


 長い指で、唇をかたどるようになぞられる。口の端に触れられた時、ぴりっとした痛みが走った。

 そういえば……と、止まっていた思考が働く。睡蓮沼で調査隊の話を聞いていた時、思いっきり唇を噛みしめていたっけ――。

 ルルは綺麗な顔を寄せて、労わるように噛み痕に舌を這わせた。優しい仕草なのに……、いたぶられているみたいだ。

 顔を背けた拍子に涙が一筋流れて、熱い舌で舐めとられた。もう止めて欲しい。変わり果ててしまったルルを見て、閃く想いがあった。


「っ、う……、嫌だ……」


 ――アタシは、優しい、いつものルルが……。


「ネネ、可愛い。この気持ちだけは変わらなかったな……」


「ルル……」


「ん?」


「もしかして……、記憶が戻ったの?」


「――どうして?」


「別人みたいだから」


「こういう私は嫌い?」


「嫌いだ。アタシとの約束、その六、唇はなしって、言ったじゃないか……」


 言いながら、また涙が零れてきた。


「ふふ、ネネって可愛い。お子様だなぁ」


「お子様でいい……、もう、アンタとは一緒に暮らせない……、出て行って」


「怒ったの? ごめんね、驚かせてしまって」


「出て行って」


 腕を交差して顔を隠すと、優しい手つきで頭を撫でられた。


「私がいなくなったら、困るでしょう? また人間が大勢、森へやって来るよ。そしたら、流石のネネも隠れていられないよ」


 顔を覆っていた腕を、やんわりと引き剥がされた。青い魔性の瞳に、からかいの色を浮かべて、楽しそうにネネを見下ろしている。


「どういうこと……、ルルは、あいつらに狙われているの?」


「そうみたい。私をあの沼に沈めたのは、ガブール教の聖職者だよ。遥か昔の話だけど……、ちゃんと覚えている人間がいたんだね。死んだと思った私が生きているから、真っ青になっているんじゃないかな」


「アンタは、淫魔の類なの……?」


「淫魔ね、まぁ間違ってはいないかな……。とても強い、古い古い、魔性だよ」


「本当は……、なんていう名前なの?」


 ルルは見る者を魅了する笑みを浮かべた。





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