表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人食い森のネネとルル  作者: 月宮永遠
1章:底なし沼の珍事と共生のはじまり
11/47

10

 棲家へ戻る前に、ブナ林に寄り道をした。鬱蒼うっそうとした茂みだが、この辺りで、ネネの好物であるネマガリタケを収穫できるのだ。数ある山菜の中で、一・二を争う美味である。乱獲はしない主義だが、こればかりは収穫の度に、持ち帰れるだけ持ち帰ってしまう。


「ネネは物知りだね」


 ネマガリタケ採りに夢中になっていると、頭上からルルに声を掛けられて、びくりと肩が跳ねた。またしてもルルのことを忘れていた……。


「昔、いろいろ教えてくれた人がいたんだ」


「ふぅん、どんな人?」


「本物の猟師だよ。獲物を捕って、街に卸してた」


「街って? カタルカナユ・サンタ・ガブリール?」


 返答に迷った。これ以上説明すると、話したくない過去に触れてしまう……。


「ネネ?」


「違うよ……。でもこの話は、もうお終い」


 ルルもそれ以上は口にしなかった。

 聖銀の革袋をルルに持ってもらい、ネネは山盛りネマガリタケを背負って家路についた。

 露の降りた笹薮ささやぶで夢中になって採っていた為、ブーツとズボンがドロドロになってしまった。ちなみに、ルルはずっと樹の上にいたので綺麗なものだ。

 葉っぱで大雑把に泥を落として中へ入ろうとしたら、ぐいっと腕を引かれた。


「ネネ、汚い」


「え? どこが?」


「ドロドロじゃない」


「ちょっと」


 ルルに腕を引かれて、たらいの前に連れて行かれた。どうするつもりだろう、と見ていると、ふわりと手をかざしただけで、盥に水を張った。


「えっ、うそ」


「私に出来ないことはないの」


 ルルは淡々というと、盥の前で片膝をついた。ボロ雑巾に目を留めて、眉をしかめる。不思議に思って見ていると、ルルはびっくりするような行動に出た。

 襟元の真っ白いレースのジャボを外して、水に浸けたかと思ったら、ネネのドロドロのブーツを拭きだしたのだ。


「――ルルッ、汚れる……っ!」


「ネネの方が汚れているよ。ちゃんとお風呂入ってる?」


 ムッとした。そんなの、入っているに決まっている。


「台所の盥で、ちゃんと身体拭いてるよ」


「うわっ、何それ。思うんだけど……、ネネの暮らしって、百年くらい遅れてるんじゃない?」


「大袈裟だなぁ。街に降りたって、旅館でも行かない限り、立派な浴槽なんてないよ。それに森で暮らす以上は仕方ないでしょ。贅沢とは無縁の生活なのよ、お嬢様?」


「私に頼もうとは思わないの?」


「何を?」


「どんな贅沢だって叶えてあげられるのに」


「別に贅沢がしたいわけじゃない」


「森を出て、街で暮らそうとは思わないの?」


「思わないね」


「どうして?」


「――ルル、約束したろ。なんで此処に住んでいるかは教えないって」


 不満そうなルルの手を振り払って、さっさと家の中に入った。

 別に、ルルになら教えても良かったのだが、その為に奴隷として働いていた過去を思い出すのは、十五になった今でも苦痛だった。

 あの頃のことを、忘れられるのなら、忘れてしまいたいくらいだ……。

 気を取り直して、収穫したネマガリタケの調理にとりかかった。掌サイズのネマガリタケを、次から次へと皮を剥いていく。薄く切った猪肉を炒めて、水と一緒にネマガリタケを火にかける。アクをすくいながら、柔らかくなるまで煮込めば完成である。

 ちなみに、シンプルに茹でただけのネマガリタケに、岩塩を振りかけて食べても美味しい。素揚げにしても美味しい……。


「幸せそうだね……」


「うん」


 何故かルルに呆れた目で見られた。


「ルル、ありがとうね。いろいろ手伝ってくれて」


 素直に感謝の気持ちを伝えると、増々変な目で見られた。


「そんなことが嬉しいの……?」


「嬉しいさ。ま、食べてみてよ。美味しいから!」


 腕によりをかけて、ネマガリタケで五品作った。ルルはなんだかんだ言いながら、完食してくれた。

 食べることは生きることだ――。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=580030222&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ