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なんかイロイロたいへんになんだけどっ!

「まずいですぜ、キァハ様! 敵っすよ! 逃げないと食い殺されちまいます!」


 司令小屋で戦闘装具を身に着けてるときに、リベロが飛び込んできた。


「委細を報告!」キァハがおびえきってるリベロを一喝する。

「あ、すいやせん。えっと、東のほうで犬みたいなのの群れを見たって行商人が騒ぎながら逃げ込んできやした。そのあと東の牧場経営の連中が家畜を連れてにげこんできやした。みんな口々にありゃまちがいなく『妖獣』だといってます」

「リベロ憲兵班長。すぐに兵舎の中庭にあるかがり火を焚け。発煙信号もよ。それが終わったら第一中隊のエリシュカ中隊長に、この紙を渡すこと。以後、憲兵はその総力を挙げて、第一種武装の第二長銃中隊と大隊直轄中隊全員を第一種武装で東側城壁に登らせて」

「えっと……」

「しっかりしなさい! あんた班長なのよ?」

「すんません! 煙炊いて、紙をエリシュカってヤツにわたして、武器もって東城壁に集合でいいっすか?」

「よし! かかれ!」

「かかります!」


 リベロのヤツは紙をにぎりしめて大あわてで出て行った。そんなにあわてることもないと思うけどなぁ。

「まったく。数も全然わからないし、敵の種類も不明。早く偵察小隊を編成しないとマズイことこのうえないけど、そんな訓練うけたやついないってのよねぇ」


 キァハがため息をつく。


「ねぇねぇキァハ。なんで妖獣がせめてくるの? ボクらの戦争ってなんでおわりがないの?」

「『国が乱れてるから』よ。それが『国死病』ってやつ。古来から妖獣たちは国が乱れるときに現れるの。つまり、我らが共和国ってのは出来たばっかりなのに、乱れてるどうしようもない国だってことよ」


 キァハは鉄かぶとのあごヒモをむすんでる。前みたいにふるえてない。


「ふーん。ま、キァハがいるから大丈夫だよね。そのうちキァハがぜんぶなんとかしてくれるんだよね」


 ボクはすぐに装具を付け終えるので、キァハの装具装着を手伝う。

 キァハのこしまわりに弾帯とか、指揮官用の拳銃なんかを手際よく付けてく。


「準備よしだよ、司令」

「――あたしの準備はぜんぜんダメ。大隊の練度は行進と敬礼ができるだけ。中隊長はかかしと一緒。せっかく仕入れた中古の大砲だって、誰も操作方法を知らないわ。それに、銃の種類がばらばらだから弾薬が合わないのよ? どうすんのあたし……」


 キァハはあたまをかかえこんじゃった。ボクは何もいえない。ボク一人がどう戦うかだったらいくらでも考えられるけど、おおきな集団をどう動かすかなんてぜんぜんだ。


「第一中隊、現着っ。司令、これから弾薬をはこびだしますっ」


 エリシュカさんが司令小屋のとびらをボンっとあけて、ずかずか入ってきた。


「司令?」エリシュカさんがけげんな感じになる。しかたないよね。キァハはしゃきっとしてないもん。これはまずいよ。

「エリシュカさん。命令どおり弾をはこびだして。いまキァハは戦術ってのを考えてるから」

「なるほど。さすが司令ですっ。じゃ、すぐにかかります」

「うん。おねがいね」


 エリシュカさんは不安そうな顔のまま、回れ右をして出て行った。

 とりあえずごまかしたけど、こんなごまかしは一回しかむりでしょ。


「キァハ。みんなきみを頼りにしてる。とにかくみんなの前に行こう」

「出来なかったらどうしよう? あたし失敗しちゃうかも。いえ、失敗するわ。いままでの全力で準備したけど、そんなのじゃとても敵わないわ。正規軍が討ちもらしてるのよ? あたしの大隊でどうこうできるはずがないわ」

「じゃあ、人にたよろうよ」

「誰に? 正規軍への発煙信号は出したけど、それ以外に誰かまともな戦力があるわけ?」

「モモポフさんと自警団にたのもうよ。だれか大砲の使い方くらい知ってるかもしれない」


 ボクとしては、モモポフさんの護衛をしてたギルドってところの人たちに話がつながることを期待してる。あれはまちがいなく戦いが上手な人たちだった。


「……高くつきそうだけど、そういう手もあるわね。これはかなり政治的な話よねぇ。あんた交渉できそう?」

「そんなのムリだよ。やっと三桁のかけ算が出来るようになったばっかりだよ?」

「そうよね。仕方ないわ。わたしがモモポフのところで交渉してくる」

「それがいい」


 うん。むつかしい話はキァハのほうがぜったいに得意だからね。


「だから、あんたに大隊長代行をたのむわ。あたしが戻るまでに部隊をよろしくね」

「ええっ?」

「じゃ、任せたわよ」


 キァハはそういって、銃をつかんでつむじ風みたいに走り出していってしまった。

 こりゃ、困ったことになった。人がいないってこういう意味だったのか。






 戦いには弾が必要だ。だからまっ先にその作業をしてるところへいく。


「エリシュカさん、弾はどう?」


 倉庫前で作業指示をだしている彼女の部隊は、ちゃんとはたらいてるみたいだ。


「大体うまくいってますっ。でも、どこをさがしても前込め式用の弾薬がないんですっ」

「あ、それないから気にしなくていいよ」

「え? じゃあ、本部直轄中隊は弾薬なしになりますよっ?」

「しかたないよ。キァハがなんとかする。たぶん自警団からかりてくるよ。大砲は?」

「あの、それも分解方法がいまいちわからなくて。たぶん馬とかが必要だと思うんですっ」

「馬はいないなあ。この前の荷馬車はぜんぶ補給本部のだしね」

「でも、あっちのは三人一組で運び出せると思うんですけどっ」


 エリシュカさんが指さしたのは迫げき砲だ。曲射で使うってことしかしらないけど。


「よし。迫げき砲もぜんぶ運び出して。あれの弾は左手前の黄色い木箱だよ。かかれ」

「かかります」


 エリシュカさんは手があいた補助兵に運び出すように命令してる。よたよたと迫げき砲を運び出すすがたをみてると、不安になってくる。


「迫げき砲弾は四人にふやして、しんちょうに運ばせてよ、エリシュカさん」

「そうなんですかっ?」

「うん。おとすと暴発するよ、あれ。キァハが安物を仕入れてると思うから」

「はやく言ってくださいよっ! おーいっ、砲弾は四人一組に変更してっ」


 エリシュカさんが注目してもらうように大きく手を振る。そしたら、ういーっすといって、男の子の補助兵たちが四人一組をつくりはじめた。

 なるほど。エリシュカさんの中隊は命令というより頼みごとでうごくのか。エリシュカさんが決断したら、そのへんの補助兵が話し合って協力するって、軍隊じゃないよね。

 でも、部隊がそれでうごくならいいや。


「じゃあ、ボクは東城壁に向かうから」

「はいっ。わたし達もぜんぶ出したらすぐに向かいます。ところで司令は?」

「この町のえらい人のところに行って、援軍とかそういうのを頼みに行ったよ」

「そうなんですかっ? じゃあ、わたしたちだけで戦わなくてもいいかもしれないんですね」

「キァハ次第だよ」

「ああっ、司令、お願いしますっ。わたしたちを助けてくださいっ」


 エリシュカさんはキァハになんだか願い事をはじめちゃった。

 キァハは頼られてるんだなぁ。

 でも、ボクはおもうんだ。キァハってだれにも願い事をするなんてできないんだ。ぜんぶ自分の努力でなんとかするしかない。だからつらくて、さっきみたいに弱音をはいちゃう。たいへんだよ、キァハは。






 東側の城壁は、ボクが事前にしらべた城壁の中で、いちばん手入れがなってないところだ。

 ちょっとでも大砲とかの攻撃をくらったらくずれちゃうこと間違いなしだよ。石材どうしをつなぐものが雨とかで流されて、ゆるくなってるんだよ。

 でも、じつは東西南北の城壁はほとんどそんなものなんだ。

 東側にてきが見えたって連絡だったけど、じっさいに敵がどっちから来るかなんてわからないよね。大きくまわりこんで西かもしれないし北からくるかも。

 もしかしたらすごい数で包囲されるかもしれない。

 だとしたらもう、おしまいだ。

 おしまいじゃないことを期待しながら、ボクは東側の防御塔の階段をのぼる。

 くもの巣はぜんぜんない。さきに登った連中が体でひきちぎってくれたんだとおもう。



 補助兵たちが城壁にそって整列している。みんな城壁の外側に広がった草原と岩場と森林の世界に視線をむけてる。このままきれいな緑でみんなの心が落着いてくれればいいけど。


「シャキッとしろっ。キァハさまに腰抜けた姿さらしちまったら、あのむっつりニック戦士長に『戦えないなら死んだほうがいいね』って殺されちまうぞ! 気合入れろっ!」


 リベロのヤツがなんだかよくわからないこと言ってるけど、補助兵たちはくすっと笑うくらいの気持ちの余裕がでてるみたいだ。


「ごくろうさま。リベロ憲兵班長」


 ボクはリベロが意外と使えるやつだったので、ほめてやることにする。


「げっ! きいてやがったのかテメェ!」


 なぜかリベロは身構える。でも、ボク思うんだけどそれスキだらけだよ。


「うん。みんなのすこし心によゆうがでてる。きみはいい仕事をしたね」

「そ、そうか? お前おこらないのか?」

「どうして? キァハなら結果だけで評価するよ。ボクもそうしてるだけ」

「やっぱお前、どっかこわれてるんじゃないか?」

「かんぺきな人なんてこの世界にいないよ。じゃ、その調子でよろしく」


 ボクはぽかんとしてるリベロはほっといて、いちばん心配な第二長銃中隊の中隊長のところにむけて歩く。

 だけど、どこにいるのかわからない。

 とりあえず第二中隊の腕章をつけてる補助兵の女の子にきいてみることにする。


「ねぇ、そこの人」

「ひぇ! 殺さないで!」女の子はびくっとしてボクに向かって銃をむける。


 引き金に指がかかってるじゃないか!

 ボクは女の子のへたに構えた銃身をくいっとあげて、女の子が罪を犯さないようにする。

 ドンっとでっかい音がしたけど、ボクはとうぜん死んでない。弾はどっかに飛んでったし。


「あのね、命令があるまで引き金はひいちゃいけないよ」


 ボクはできるだけやさしく説明する。


「す、すいま、せん」

「あやまらなくていいよ。緊張したらだれでも失敗するんだ。でも司令に向けて撃ったら死んでもらうからね」

「は、は、はい」


 女の子はへたり込んだけど、ボクはがんばってねとはげます。

 この子から話はきけそうにないから、となりで青ざめてる女の子にきくことにする。


「きみ。第二中隊長はどこ?」

「えっと、南城壁のほうに行くっておっしゃってました」

「そう。ありがとう。きみも肩の力をぬいたらいいよ。なんならボクがこつを教えてあげようか? まずは銃をね――」

「け、けっこうです!」


 女の子につよく断られちゃった。ざんねんだなぁ。役に立つと思ったんだけど。

 とにかく南城壁にいかなきゃ。持ち場をはなれていったい何をしてるんだろう?






 南城壁にかけあしで渡ってくると、一目でそれとわかる連中がいた。

 背の高い男の子が、何人かをひきつれて立ってる。でも、背の高い男の子いがいはみんな市民の女の子みたいだけど。


「あのー、第二中隊長ですか?」


 ボクが呼びかけると、みんながこっちをむく。敬礼してくれたのは背の高い男の子だけだ。

 ボクもかけよって答礼する。


「俺が二中隊長のスィヘリヴェだ。よろしくな、ニック戦士長」


 背の高い男の子が手をさしのべてきた。ボクもそれに応える。

 あ、なるほど。親指に火薬のヤケドあとがあった。


「スィ……呼びにくいね。でも、銃は撃ちなれてるみたいだね」

「スィヘリヴェだ。名前をすぐに覚えないと女にもてないぜ、ニック少年。銃は五つの頃から使ってる。猟師小屋でこき使われて育ったんだ。おかげさまで女の子に飢えまくりだな」

――ま、やらしぃ


 スィヘリヴェのまわりにいるおしゃれした娘さんたちがきゃっきゃと笑い始める。


「そっか。でもふじゅんいせいこうゆうってのは禁止だよ? 司令がおこる」


 はっはっは、と明るく笑って、スィヘリヴェは目立つこげ茶色の髪をかき上げた。ボクみたいに短くしとかないと敵に髪をつかまれてたいへんな事になると思うけど、この人はおしゃれのほうが大事なんだろうね。


「それで、なんでこんなところにいるの? 周りの女の子達は?」

「隊内での不純異性交遊禁止と規則に書いてあったからな。それを解釈してやってるわけ。部外ならよしと考えたわけさ」

「ふーん」

「ここの眺めはいいだろ? 俺がここにいる理由は、この子たちを城壁に登らせてやって、いい景色を見せるって約束したからだ。市民は城壁に登るの禁止だって知ってたか? ま、せっかくの機会だし約束は守らないとな、ニック戦士長」

「約束はだいじだよ」

「話がわかるヤツで助かったよ。じゃ、みなさんまた飲もうね」

――つぎはいつお店に来るの?

――非番なのはいつなのよぉ?


 なんだか女の子に囲まれて大変そうだけど、ボクにはなにもできないから。





 ボクがスィヘリヴェをつれて東城壁に戻ると、キァハがモモポフさんのところにいた強そうな二人を連れて立っていた。たしかギルドってとこの人でしょ。


「遅かったわね。だれと乳繰り合ってたのかしら、スィヘリヴェ中隊長」

「ニック戦士長の引き締まったお尻を拝見しておりました」


 え? そんなことしてないよ。


「ボクはお尻なんてみせてないよ! 信じてよキァハ」

「そんなの分ってるわよ。さ、報告しなさいスィヘリヴェ中隊長」


 いやぁ、といって意味もなく髪をかきわけるスィヘリヴェはへんなやつだ。


「姉ちゃん連中の証言だと、東門の外にある掘っ立て小屋の床下と、市庁舎の市長室はちゃーんとつながってるそうで。いままで何度か市長閣下の『お世話』をした女の子も使ったことがあるそうです。机の下でナニをしゃぶるってのはいい金になるそうですよ。さ、仕事したんですから約束の報酬をお願いできますかね」

「あとで司令小屋にきなさい。中隊長独身宿舎の名目で小さい一軒家を借りてある。鍵をわたそうじゃないか。盛りのついた犬め」

「飼い主には手を出さない忠実な犬ですからご安心を」

「あたしとしては、べつに手を出してくれてもかまわんがな」

「遠慮しときます。番犬がこわくて」


 なんでスィへリヴェがボクをみるんだろ? にやにやしていやな感じだ。 ボクは犬じゃないよ。ただの特技兵なのに。


「――ということで、市長に寝技かける方法は提供したわ。これに、さっき提示した金をくわえたら、あんたたちどのくらい手を貸してくれるわけ?」


 キァハががちがちに鎧を着込んだギルドの人にたずねた。たぶん交渉がてらつれてきたんだろうね。


「三秒ほどだな。それ以上は無理だ」


 なんのみずみずしさもない大人の男の口調だった。


「三秒ってなによ、それ?」

「三秒は三秒だ。我らのギルド職階は正二位上。キァハ君が提示した額なら従六位下の団体程度なら雇えるだろう。いまから雇用するには時が足りないが」

「三秒でどこまでやれる?」

「武装した人間相手にて当方が素手ならば二人殺せる。妖獣相手だと不明だが、少なくとも一通り殺せるだろう」

「役立たずね。じゃあ、契約の話は無し。さっきの市長を脅迫する種代は貸しにしとくわ」

「わかった。そう伝えておく。御武運を」

「はいはい。じゃあね」


 鎧を着た強そうな二人は、かぎ爪つきの長縄をすっと出して城壁のすき間にひっかけると、ぽんっ身軽にとびおりちゃった。ボクはあわてて下を見たけど、かろやかに縄をつかって地上におりて、道具を回収して街中に消えていった。


「で、司令。どうなったの?」

「あー、ごめん。甲案は失敗。乙案はなんとかなったわ。城壁内に侵入した妖獣は自警団がなんとかするってことになった。弾も借りたわ。市民の避難誘導も任せた。あたし達は余計なこと考えずに城壁の外に集中すればいい。いまから作戦計画について説明するわ」


 ま、キァハなりにできることをやったということかな。よくわからないけど。


「じゃ、小隊長までの各級指揮官を集合させなさい。防御塔のボロい部屋で作戦会議を行う。かかれ」

「かかります」


 ボクとスィヘリヴェは敬礼する。スィヘリヴェは自分の部隊のところに走っていったけど、ボクは何もしない。ボクは大隊直轄中隊の小隊長三人を集めてこなくちゃいけないとおもうんだけど、たぶんキァハは忘れてるんだろう。


「あんた何してんのよ? 直轄中隊の小隊長たちをつれてきて」

「キァハ。それまだ決めてないよ? 中隊長はキミが兼務してんだけど」

「……やばい。しまったわ。なんか大事なこと忘れてると思ってたのよね」

「どうする?」


 ボクがちゃんとはやめに助言しとけばよかったなぁ。キァハによけいな負担をかけさせることになって申し訳ない。


「憲兵班長は除外するとして……。緊急事態だから仕方ないわ。あんたの勘で適当に三人連れてきなさい。理由とかはあたしが後付するから」

「じゃあ、それでいこう。ボクがやってくるよ」

「よろしく。あたしはエリシュカを連れて防御塔で待ってるわ。さっさと決めてきてね」


 彼女はすぐに行動を開始した。ボクも仕事にとりかかろう。あんまりいい仕事じゃないんだけど。







 選ぶ基準――ボクはあたまが悪いから、やっぱりこの子がよさそうだと思ったら理由なしで決めちゃおう。


「直轄中隊のみんな、ボクの周りに集まって。足もとに気をつけてね。あわてたら城壁からおちて死ぬよ。せまいからね」


 ボクが号令じゃないことをいったら、みんなぞろぞろ集まってきた。なぜかボクとの距離がちょっとあきすぎてる。へんなの。


「三人つれてこいって命令されたんだ。ボクが決めるね。ことわっていいって命令は受けてないから、断れないよ。あきらめてね」

――あのー、どういう理由ですか?


 どっかから質問がとんできた。


「ボクは質問を許可してないよ。とにかく命がけの仕事に必要な三人をさがしにきたんだ」


 うわあ、みんな目をあわせないようにしてる。ひどいねえ。

 ん?

 でも、ただ目を合わせないだけじゃない女の子がいる。こんなときなのに小さな本を読んでる。すごい。命令をきくつもりがないどころか、戦争してるって思ってないんだ。


「そこの本を読んでる女の子。キミのなまえは?」

「パステル」


 すごくそっけない。本もとじない。ボクのことをしゃべるトウモロコシだと思ってるのかな。

 見た目からしてなんとなくへん。

 とてもいいインクみたいな黒い髪を耳にかかるくらいに伸ばしてる。月みたいに白すぎる肌と、伏せがちなまなざしに、ボクは暗い人だなと思っちゃう。へんだけど……なんとなくこの子はわるくない。


「なんの本を読んでるの?」

「解析幾何学」

「なにそれ?」

「そういう本」


 黒髪の女の子はそういってぺらっと本をめくる。


「じゃ、キミはボクについてきて。細かい役割は司令に決めてもらうから」

「そう」


 ぜんぜんおどろかないみたい。こういう子でほんとにいいのかなぁ。でも、キァハが適当に決めていいっていってたし、ボクは悪くないはずだよ。うん。

 後二人決めなきゃ。でも、いまいちわからないな。


「ねね、パステルさん。あと二人決めなくちゃいけないんだけど、どの子がいい? 友だちとか教えてくれないかな?」

「友だちはいない」

「そか。それはさみしいよ。ボクとともだちにならない?」

「なる」あっさりと友だちになってくれるみたい。

「そか。よろしくね、パステルさん」

「うん」


 パステルさんはまた本をはらりとめくる。ほんとに話を聞いてるのかな?


「で、相談なんだけど、誰がいいかな?」

「ランヌ。それからポーニャ」

「だれ?」ボク、いまいち人をおぼえてないんだけど。

「じぶんで探して」


 パステルさんはそのまま本に熱中してる。こまったなあ。


「ランヌって人とポーニャって人は前にでて」といってみる。


 すると長銃をしっかり保持した、まさに歩兵な男の子が列外に出てきた。


「ランヌ二○一です。特技兵です」


 うけこたえもしっかりしてる。まわりの子たちみたいに怯えがないんだ。銃もピカピカだし、装具もゆるみとかが全然ない。


「わ、ボクのなかまだね。ボクはニック〇一七だよ。しってる?」

「おそらく研修所が違うかと。私は第二研です」

「ボクはマル研だったなぁ。ちがってそうだね。あとで司令にきいてみよう」

「で、ご用命は?」

「ついてきて。役割はキァハが決める」

「了解」


 むだのない銃礼をしてくれた。銃礼ができる子なんてこの部隊にはボクとキァハくらいだけだと思ってたから、ちょっと感心する。ランヌ特技兵はボクよりずいぶんしっかりしてるし、これならキァハも安心だ。


「あとは、ポーニャさんはどこですか?」

「ポーニャではありませんわ。わたくし、ポニャトフスキ侯爵家が三女、エミリア・プラテーリャ・ポニャトフスキ」


 なんだか偉そうな女の子がでてきた。


「えっと、さいしょだけおぼえた。ポーニャさんだね」

「いえ、名はエミリアですわ」


 ポーニャなのかエミリアなのか分らないけど、派手なかんじの金髪でツンツンしてる女の子ってことでおぼえとこ。さらさらの金髪ってはじめてみたけど、キァハがうらやましがるだろうな。キァハはしょっちゅう自分が赤毛だのなんだのって飲み屋でグチグチいってるし。


「で、ポーニャさん。とにかくえらそうだからキミ、ボクについてきて」

「偉そうなのではなく、実際に偉いのですわ。本来はあなたなどわたくしの足もとにも及ばぬのです。爵位などお持ちではないでしょう?」

「よくわかんないけど。とにかく、死ぬときはみんな平等だからこれから一緒になかよくしようね、ポーニャさん」

「……だから、エミリアですわ」


 ポーニャさんがぷんすかしてる理由はよく分らないけど、なんとか三人選んだし、さっさともどらないとキァハがおこっちゃうぞ。







 ――はい。ごめんなさいキァハ。つぎはちこくしません。

「まったくもう。先にエリシュカとスィヘリヴェには計画を伝えたわ。あいつらはもう仕事始めてる。あとはあんた達だけよね」


 キァハはボクへの説教はあとまわしにして、カビが生えた机に広げた地図をながめてる。

 地図には何だかいっぱい書き込みがされてる。


「あのぉ、キァハ様? オレたちは……?」


 とくに仕事もないとおもわれるリベロたち憲兵班六人が、理由もなく防御塔のせまい部屋にいる。あいつはバカだから自分で仕事をみつけられないんだとおもう。


「あんた教範読んだ?」

「すんません。文字ばっかりの本って苦手でして、はい」

「あたしの盾よ。盾。あたしのために死ぬの」

「いやぁ、それはちょっと……」

「憲兵班、頭――右!」


 キァハが号令すると、憲兵班は気を付けをして、ななめ右方向を一斉にむいた。


「憲兵班、目を閉じろ」


 憲兵が目をとじると、キァハはずかずかと憲兵達に近付いていって、みんなのほっぺたにチュッとくちびるをつけていった。

「なんて破廉恥な!」とか分けわからない言葉を金髪のポーニャさんが甲高い声であわててる。

 でもボクとランヌはよくわかってないし、パステルさんはむつかしい本読んでるだけ。


「あんたたちはあたしの特別な犬よ。いまのがその証ね。いいこと? あたしのために死ね」


 キァハは唇のはしをゆがめて高らかに宣言した。


「きいたか! テメぇら。俺たちはキァハ様の特別な男達だ! 男の中の男! いっちょ気合入れてキァハ様をお守りするぞ!」

――おう!


 なんだかかってに憲兵班はもりあがってる。やっぱりバカなんだなあ。あいつらは。


「じゃ、外であたしを待ってなさい」

「行くぞテメェら!」


 おうっ、おうっと動物みたいな雄たけあげながら憲兵班は出て行った。やっぱリベロがバカだからみんなバカになっちゃうんだろうな。


「さてと、口付けひとつで命張ってくれるんだから安いもんよね」


 キァハはそういって袖でくちびるをぬぐった。


「司令、あなた男の純情を踏みにじるなんて最低ですわ。恥を知りなさいっ! そもそもわたくしをここに呼び立てた理由もいわずにあのような破廉恥行為に及ぶなど言語道断ですわ!」


 ありゃ、ポーニャさんがかみついちゃった。


「ニック戦士長。このきゃんきゃんうるさい血統書付のメス犬もお前が選んだのか?」

「メス犬とはなんですか!」ポーニャさんはキァハがこわくないみたい。へんだなぁ。

「うん。なんだか華やかだったし、えらそうだから選んだよ」

「そ。名前なんだっけ?」

「ポーニャさんだよ」

「ですから、ポニャトフスキ侯爵家が第三女――」

「じゃ、ポーニャ。あんた大隊管理小隊長に任命するわ」


 キァハがポーニャさんの自己紹介をさえぎった。たしかにポーニャさんの自己紹介はちょっと長いしね。


「――わたくしが、隊長?」


 あっけにとられたみたいで、ポーニャさんは二の句を失ったみたいだ。


「そゆこと。ってことで、強行偵察小隊の人員引き抜きがおわったら、全員を集めてきなさい。強行偵察小隊の人員はそこのヤツにやらせるから」


 そういってキァハはランヌのほうを指さした。


「で、そこの純粋戦士、あんた名前は?」

「ランヌ二〇一。特技兵です」


 ランヌはきれいな立て銃の姿勢をとって、銃礼をした。

 キァハはまんぞくそうな笑顔をうかべながら答礼する。


「こんな優秀な兵士、何であたし見落としちゃったのかしら?」

「失礼ながら、大隊の管理状況を調べさせていただきました」


 ランヌはふところから一枚の紙をとりだした。人事記録票だった。


「書類管理がなっておりません。しかるに、防諜能力の不備を指摘しようと時機を待っていたのですが、このような緊急時を迎え、機を逸しました。処分はうけます」


 なんだかよくわかんないけど、書類をキァハから盗んだんだね。 

 それはまずいよ。


「なるほどね。書類を抜いてあたしを試したわけか。特技兵も優秀なのとそうでないのがいるものなのねぇ」


 キァハがなぜかボクを見る。ボクは教官どのに『上官に従ってる限りは優秀』っていわれてたから、優秀なヤツはボクで、そうじゃないのがランヌだとおもってるのかなぁ、キァハは。


「ランヌはボクよりも優秀です」


 ボクはとりあえずランヌを助けとく。処分されたらかわいそうだ。


「……つくづく思うけど、タンポポみたいなヤツよね、あんたって。ランヌを処分するわけないでしょ? こんな優秀なやつはそういないって」


 なぜかキァハがあきれてる。でも、ランヌが処分されないなら安心だ。せっかくの仲間が銃殺とかになったらいやだもんね。


「御寛恕いただき感謝します」

「じゃ、あんた強行偵察小隊の隊長にするから、適当に優秀なのを三十人ほど選んで部下にしときなさい。必要なものがあるなら、生き残ったあとに報告書にまとめといて。じゃ、すぐに状況開始。かかれ」

「かかります」


 ランヌはパッと敬礼してシュッと方向転換して、カッカッと足音をならして出て行った。なんだか何でもかんでも素早くて鋭いかんじだ。オオカミみたい。

 そんな彼を追いかけるかたちで、ポーニャさんの金髪がゆれる。彼女はキツネかなぁ。






「で、そこで勝手に地図に書き込んでるヤツは誰?」


 パステルさんは、さっきまで本を読んでたのに、いまは地図にコンテ(顔料をまぜて固めたろうそくみたいなやつなんだってキァハがいってた)でお絵かきしてる。


「えっと、パステルさん」

「パステルね、ふーん。あんた一般募兵志願よね。なにが狙いなのかしら?」


 キァハはパステルさんがイスにほっといた本をぺらぺらめくりながらきいた。


「大学が面白くなかっただけ」

「なるほどね。専門は? 士官準備過程は?」

「位相幾何学。士官なんてめんどくさい」


 キァハの質問にたんたんとこたえるこの子は何物なんだろうか? 少なくともボクとことをしゃべるトウモロコシ程度にしかみてないのは明らかだ。


「じゃ、そういうわけで砲兵小隊を任せるわ。ここに書いてある射撃計画はわるくないんだけど、火薬の消費をケチった形で再計算してもらえる?」

「散布界はこのまま?」

「ええ。あと、観測手の養成ができてないの。だから間接照準射撃はあやしいから、計画射撃でいくわ」


 とりあえずボクは彼女たちがのぞきこんでる地図をみる。

 そこにはミミズがうねった絵がかいてあった。ほんとはもっとたくさん書いてあるんだけど、よくわかんない。こんなのみて、なんで真剣な顔をしているんだろう? キァハはほんとは賢くないのかな。こんなのわかるわけないし。


「こっちが撃破確率の大小目標で、こっちの上の式が損傷率。真ん中が散布界。ってことは一番下が弾着?」


 え? なにいってるのキァハ。これはたぶんミミズの絵だよ。バカだなぁ。むつかしい顔しちゃって。


「そう。条件をかなり捨象した基礎式。問題は空気抵抗、地盤、公算誤差、射爆誤差観測の値を測定できないこと」


 パステルさんは表情を変えないでむつかしいこといってる。キァハはふんふんいってるけど、わかってんの?


「それは時間があるときに考えましょ。条件を変えて射撃緒元を入力して出力できる? あたし計算遅いのよ」

「五分かかる」

「じゃ、いまから言う条件に変えてほしいの。単発ではなく連射。射撃対象は集合大目標。散布界はそのままでいいから。できるなら馬鹿でも分かる仰角方位角表をつくってくれると嬉しいけど」

「緒元数値は? それがないと無理」

「こっちに数字は出しといたわ。あたし砲兵の専門教育うけてないのよ。あんまり射爆理論詳しくないから間違ってたらごめんね」


 キァハはなんだ眉間にしわがよってる。いままでにないむつかしそうな顔だ。


「ねぇねぇ司令。ボクは何をすればいいの? なんでミミズの絵を描いてるの?」


 おわ、なんかじゃましちゃったみたいだ。ミミズのお絵かきがそんなに面白かったのかな。


「――あんたまだいたの? 仕事は?」


 キァハがいらいらしてる。


「命令してないよ?」

「じゃ、あたしの直衛。ここにいて大隊長が何をするのかみて覚えるのよ」

「おぼえるの? ムリだって」

「約束」


 キァハにそれを言われたらどうしようもない。ボクは彼女との約束がある。


「わかった。あきらめないよ」

「それでよし。今日が最後かもしれないけど、勉強はするのよ」


 ボクはとりあえずキァハのやってることをみてることにする。ぜんぜんわかんないけど、とにかく火力が大事なんだな、というのは大体分ってきたよ。






 キァハとパステルさんが地図のわきの紙に、なんだかむつかしいことやってるときに、ランヌとポーニャさんが部屋にはいってきた。


「報告します。発煙信号装備の強行偵察をだしました。とりあえず騎乗経験がある者を全員選抜し、二騎一組で各方向へ走らせています。敵発見次第発煙があるでしょう」


 たんたんとランヌが報告する。


「馬はどこで調達したの? 三十頭なんて簡単じゃないでしょ?」

「司令官殿の発言内容から推察し、商工業組合のモモポフ殿に『借りを返せ』とキァハ司令の名を出して請求いたしました。すると喜んで提供してくださいました。独断専行が過ぎるかと思いましたが、やむをえない現場判断かと。もし不満であれば処分を」


 なんかわかんないけど、馬ってたかいの? 安いの?


「しびれるわ、ランヌ小隊長。あんたの階級とこいつの階級を交換しようかしら」


 キァハがボクのほうをみる。どゆこと? 


「階級よりも、次の命令と決断を。キァハ司令」


 ランヌが背すじを伸ばして不動のしせいをとる。


「いまのうちに休憩とって。あんたに倒れられるとたぶんあたしたち全員死ぬから」

「了解。この部屋の隅をお借りします」


 ランヌはカッカッと軍靴をならして冷たい石壁に背をあずけてすわると、銃をかかえこんで目を閉じた。そしたら、すぐに寝息がきこえはじめた。疲れてたのかな? それとも命令だから寝たの? 

 ボクは命令で寝ろっていわれても寝れないけどなぁ。


「で、ポーニャ。あんたの報告は」

「各中隊との伝令網を構築いたしましたわ。エリシュカ中隊長は必要性を説明しなければ理解なさらない方でしたし、スィヘリヴェ中隊長はナンパ者で苦労いたしましたわ。もちろんわたくしの高貴なる美しさをみて甘い声をかけない男などいないでしょうけれど、おほほ」

「仕事はしてるみたいね。あと、防御塔のバリスタの修理はやってるの?」

「わたくし、バリスタという言葉の意味がわかりませんのよ」


 キァハがゆっくりとため息をつくと、キァハが持ち込んだ教範本をあごで示した。


「要約はなくて?」


 なぜかポーニャさんはキァハにえんりょしない。へんな子だなあ。それにキァハもおこらないし。なんでだろうねぇ。


「あったら苦労しないわよ! さっさと読め、この血統書付」

「高貴なる身分に雑事をおしつけるなど言語道断ですが、命令ですから。主命は貴族の忠誠の対象ですのよ」


 ふーん。まあ、なんでもいいから仕事してよ、ポーニャさん。


「でんれい!」

 

 いきなり小さな女の子がとびこんできた。ボクより幼い子に伝令とかいう仕事をさせてるのか、ポーニャさんは。ボクは特に仕事ないけど……。


「伝令兵、報告せよ」


 キァハが型にはまってるけどやさしい口調でたずねる。


「ひがしにきいろ。きたのほうできいろ。なんせいであおいろです」


 こども伝令兵はそういうと、とことことへやを出て行った。


「パステル。射撃計画は甲の十二番でいくわ」

「そう」パステルさんは軍隊のことばを使わないみたい。でもキァハは注意しないんだ。

「ランヌ!」


 キァハが大声をあげると、ランヌはキケンを察知したオオカミみたいに飛び起きた。


「状況は?」ランヌはねぼけていないようだ。ボクはむりだなぁ。

「黄色信号は北東方面から二。援軍が南西から向かってくれてる」

「了解。強行偵察小隊を後退させます。以後はどうしますか?」

「強行偵察小隊は独立行動を許可する。方針は出血を強いること。絶対的禁止事項はランヌ、あんたが死ぬことよ。部下は替えがきくということを忘れないこと」


 キァハの声は冷たかった。ほんとうはみんな助けたいんだろうな。だけどそんな命令はだせない。だってキァハは指揮官だから。


「了解。バリスタの使用許可を」

「ごめんなさいね。わたくしそれの修理終えてなくてよ」

「あの短時間では仕方ありません。ポーニャ小隊長、貴女の隊の協力を要請します」

「まあ、司令と違って紳士的ですわね。もちろんお手伝いさせていただきますわ」


 ポーニャさんがなんだかランヌをほめてる。キァハだってホントはやさしいんだぞ!

 




 二人が銃をもって出て行くと、いれかわりに女の子の兵がはいってきた。


「ほうへい小隊にはいぞくされた兵ですけど、たいちょうはだれですか?」


 女の子はなれない感じで敬礼した。ボクがキァハのかわりに答礼してあげる。そして、地図をみて絵をかいてる黒髪の女の子が隊長だよと教えてあげる。


「パステル。部下が待ちかねたみたいね」キァハが言った。

「そう」と、パステルさんはミミズがいっぱい書いてあった地図を入れ物にしまった。

「あのね、ちゃんと指揮をとってよ? 計画は甲の十二番だからね」

「やってみる。そこのあなた、ついてきて」


 パステルさんは部下の女の子をつれて出て行った。大丈夫かなぁ。ボクは不安だよ。


「でんれい!」


 こんどはまた小さい伝令さんだ。男の子になったけど。


「伝令兵、報告を」

「だい二ちゅうたいは、きたのじょうへきにてんかいしました。もんくはあとできく、です」

「ご苦労様。いい判断だと伝えてちょうだい」

「しつれいします」


 伝令の男の子は、いっしょうけんめい走っていった。とびらを閉め忘れてるから、ボクが代りにしめる。とびらの向こう側は、補助兵士たちが銃の最終動作確認をしてた。なんだか隊長とかを配置するだけで、みんなの動作が軍隊らしくなってきた。


「でんれい!」また伝令だ。


 すごいな。ボクとキァハの二人だけの軍隊だったときはこんなに人が出入りするなんてなかったよ。こんなんだったら、この防御塔をもっときれいにして、司令部として機能しやすくしとけばよかったなぁ。


「はいどうぞ」

「だい一ちゅうたいはひがしじょうへきに、さんぺいせんをしく、です」

「浸透は気にするな。自警団にまかせろと伝えてね」

「りょうかいです」


 伝令の子がまた扉をしめ忘れて出て行った。やれやれ。


「配置完了ね」


 キァハが地図にいろんな色の針をさしてる。色つきの糸とかもあって、なんだか華やかだなあ。それってどんな意味があるんだろう?


「あとはどんな敵が来るかだね」

「そこだけは運よね。こっちの都合で来てくれるわけじゃないし」

「ねえ、キァハ。みんな役職をもらってるけど、ボクはなにが仕事なの?」

「知りたい?」

「うん」

「おしえなーい」


 そういってキァハは笑った。ボクは彼女の笑顔のためなら死ねるな、と思ったんだけど、へんなのかなぁ。

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