55 病
最初に謝っておきます。
話が説明ばかりです。作者の力不足により説明下手で、頭がこんがらがったら本当に申し訳ございません!
「スタンリィが過去にもユーリス達にするように、人を意味もなく嫌った事があるかというと私の記憶ではまずいない。
とすれば何が原因か。 彼の周辺に聞き込んで、もう一人彼から憎悪に近い対象となった人物がいることを知った。
彼らの母親、エレナだ」
あのアルバ王家の血統の。
アーサーの話や、荘園屋敷の女中たちの話だと、確かに愛はない結婚であったろうが、貴族としては当たり前の結婚の形であり、憎悪するまでのことはないはずである。
「彼女との結婚生活当初からスタンリィは徐々に変わっていった。
私は驚いたよ。 スタンリィとエレナは10代前半に出会い、特別な仲でもないが兄妹のような程度には良好な関係だった。 私も彼女を知っているが、人から憎まれる人物ではない。君はユーリスの妹君をよく知っているだろう? ならばどんな人物かよく分かるはずだ。彼女は母親に身も心もうり二つといっていい」
イアンもそう言っていたのを思い出す。
ルーシー・アンの純粋さを思い出し、憎悪を向けられるどころか誰からも好かれるに違いないと断言できる。
「荘園屋敷の古株の人間から聞いた話によれば、スタンリィが次第にエレナを避けていき、彼女がユーリスを妊娠した頃、彼女を罵倒しだしたという。
“お前のようなあばずれなど知らない”
“ここから出て行け。お前など知らない”
皆、エレナが妊娠して体型が変わったからといって酷い、とエレナに同情した。
様々な理由があってそのうち2人は生活を共にしなくなっていった。
これらの状況が今のユーリス達兄妹に対する行動と似通っている事から、彼女が来た辺りに何かあったのではないかと睨んだ。
そして原因がやはりあった」
ダティラーは指で自分の耳の上をとんとんと叩いた。
「スタンリィのこの辺りや顔に複数の傷があるのを見たかね?」
「はい」
あの傷が彼の表情に凄味を作っていた。
「傷は後頭部、側頭部、あちこちに見られる。彼女と再婚する直前に作った傷だそうだ。
崖から落ちて、なんとか一命をとりとめたような状況だったらしい。 私はこれが全ての原因だと気づいた」
「傷が……?」
「外部からの衝撃で脳神経はまれにずれてしまうことがある。大概は気づかれないままのことが多い。この傷の位置から私はとある脳神経が彼を変えてしまったのだと診断した。そして他国の資料や症例も含め調べた結果、この脳神経のズレがどんな影響を及ぼすかが分かった」
「それは一体……?」
「まず特定の人間に対するアイデンティティの欠如。それも家族、恋人、身近な人間。過去の症例では父親を見知らぬ誰かとしか思えなくなった例もあれば、妻を全くの赤の他人だと言い張った例もある。
記憶という一枚の布に一カ所、虫食いができたかのように、今まで知っていた人物の姿形を認知できなくなるのだ」
「!?」
「だがその人物が存在していたという記憶はある。では目の前にいる人間はなぜ自分の父親を名乗るのか? なぜ妻だと言い張るのか? 自分の知っている家族は何処へ行ったのか? そういう考えに辿り着く。するとどうすると思う?」
「わ、わかりません。探すのですか?」
「矛盾が生じている脳はとある行動でそれを埋める。『攻撃』でだ」
「攻撃……!?」
セシリアはその言葉の音にすら恐怖を感じた。
「脳は愛する人を追い求める感情には動かず、別人が愛する人に成りすましているのだと認識して不具合を解消する。 『不確定という不安』がこの感情を生むのだと思っている。 そして正体不明の人間は自分を脅かす『敵』とみなす。この『敵』に定義はない。正体不明の場合や架空の人物、動物の場合もある」
「…………」
「妻を他人だと言い張った男は長年連れ添った彼女を寒空の下へ追い出した。男を説得した近所の者は“あいつの仲間か。一緒になって騙す気だな”と斧を振り回されケガを負った。
父親を見知らぬ他人にしか思えなくなった男は、父親を、槌で叩きのめした。父親を慕っていた弟をも次第に“他人だ”として一室に閉じこめていた」
自分が青ざめていくのがわかる。
「……そんな病があるなんて……」
にわかには信じがたい。
※カプグラ症候群※
家族や恋人、身近な人、鏡の中の自分を別人と認識する。
そしてその人物を憎悪する例が多い。
世間に知れたのは1923年。
当時はめずらしい病気だったが今は患者数が増えている。
※注意※
カプグラ症候群は実在しますが、まだ解明されていない部分がある病です。この話はあくまでも架空です。実際の症状と同じにはさせていません。
カプグラ症候群に似た架空の病気ということでお願いします。




