52 突然の来訪
次の日の休日までは6日あった。
その間、なんとかジルと話し合おうとするが、あまり会話が成り立たない。
何か言おうとしても、
「あんなめんどくさい家の奴が」
「お前ら頭冷やせ」
と吐き捨てて立ち去ってしまう。
ため息まじりの6日間が過ぎ、ダティラー卿の元へ出かけるために支度をしていた朝。
「セシリア、お客様よ」
階下からエレンディラが呼び、降りてみて驚いた。
ジルより体の大きい男と、少年臭さがまだ少し残る見覚えのある青年。
「レイ様と……アーサー様!?」
「お久しぶりです、先生!」
セシリアは久方ぶりの再会を喜びたいところだったが、彼らの表情を見てそれをやめた。
レイの顔から以前のような朗らかな表情が消えている。
アーサーですら、あの輝くような顔つきが消え、険しさを見せている。
「会えてよかった。ユーリスから先生のことは色々聞いていたんです」
「もしもの時の為にって。聞いておいててよかったぁ……」
「な、なにかあったのですか?」
アーサーの手には新聞が握られていた。
客間に案内しようとしたが、ここでいいと手近の待合室で彼は新聞を広げた。
大衆向けの新聞で、内容はどこどこの男爵令嬢が春の新しいドレスを披露しただの、王室で今好まれているお茶はどこどこの産地のだ、だのゴシップにもならないような記事が多い。
その二面のけして小さくない記事をアーサーは紹介した。
その見出しを目にしてセシリアは小さく息を飲んだ。
『ライベッカ伯爵家の後継者 病により余命わずか3年』
「あの方が……!?」
そこにはユーリスの兄、サイラスの事が書かれていた。
倒れたのは5日前。ユーリスと会った次の日だった。
記事によれば病名が判明したのは昨日。
手足の筋肉が徐々に動かなくなり、3~5年で呼吸すら困難になる、死に至る病だった。
治療法は皆無。死を待つしかない通称『石化病』と呼ばれる難病。
「そんな……」
横顔しか記憶にないくらいにこちらに興味を示さない人だった。
だがこんな大病を患ったその身を思うと、あまりの痛ましさに言葉もない。
レイが急くように問いかける。
「会ったことあるんですか? じゃあの父親にも? あ、雇い主だからそれはそうか。 その様子だと、ユーリスからは連絡はきてないんですね」
「はい。最後は6日前です……」
レイがチッと舌打ちし、アーサーが頭をかかえる。
「あの家はまったくよ……。俺らもこの一週間近く、あいつと連絡がとれないんですよ。あの家のモン総出で閉じこめやがって」
忌々しげに吐くレイの隣でアーサーが話を続けた。
「リアム先輩の話ですと先週、兄君が倒れた連絡を受けたユーリス先輩は実家に戻っていたんですが…昨日、あの家の使いが大学に休学届けを出したそうです」
「…なん…え…?」
戸惑うセシリアに眉をひそめたままのレイが言う。
「兄が死にそうだからさっさと見切りをつけて弟にすげ替えるつもりなんですよ。ユーリスは爵位を継ぐことになります」
「…………」
声が、出なかった。
足元が崩れそうになる。
「あいつは、医師の道を絶たれました」




