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落 陽  作者: nonono
第三部 冬
37/78

37 贈り物をする子供

「せしりあー、これあげるー」

裏庭で洗濯物を干していたセシリアは、声の方向に目をやった。

男の子が何かを包んだ手をこちらにむけてつきだしている。

たしかこの子は遊んで塀から落ちて足を切ったロニーという子。

怪我はたいしたことなかったけど、あまりの元気ぶりに、再びここに来ることにならなきゃいいけど、と気をもんだ。

「あら、なにかしら」

それをうけとるとロニーはにやりと笑った。

セシリアの手の平にのっかったのはカエルだった。

「あら、ありがとう。可愛いカエルねー」

にっこり笑って感謝するセシリアにロニー少年はぶーたれた。

「ええー。なんでびっくりしないんだよー。おんなってこういうのこわいんじゃないのかよー。かあちゃんすげーわめくぞー」

「ええー。だっていっぱいいるから怖がってたらキリがないでしょう? 池にだっていたし、川にも丘にもいたし……」

のどかだった景色を思い出しているとロニーが目をきらきらさせていた。

「すげっ! いっぱいいるとこしってんの!? つれてってよ!」

「ああでもこの王都にはあまりいないもんね。よく見つけたねー、すごいねー」

セシリアが褒めると少年はへへへっとごきげんになった。


「ロニー、帰るわよー」

母親のジェーンが現れたのでセシリアはこんにちは、と挨拶をした。

「どうも、セシリアさん。まったくこの子はおちつかなくてねえ、多分またこちらにお世話になるかと思ってるのよぉ。いくらわんぱくでもいいたくましく~なんて言ったってやりすぎだっていうのよねえ」

ジェーンはため息混じりにまくしたてた。

その母親のおしゃべりが長くなりそうなのを察知したロニーは、つんつんとジェーンの袖をひっぱり

「かあちゃん、これあげる」

「あらなによ」

「!! うけとっちゃだめ!」


セシリアの制止は間に合わず、ジェーンの絶叫が周囲にこだました。

「やったあ!かあちゃんをたおしたぞー」

「あああんたって子はー!」

母に殺気を感じた息子は一目散にそこから逃げ、母はそれを全力で追いかけていく。

二人のやりとりの声が遠ざかっていき、しばらくするとどこからか

「かあちゃんごめんよー!」

「ゆるさん!」

と聞こえたので、攻防戦はおわったのだな、と分かった。


「まあまあにぎやかだったわねえ」

エレンディラが次の洗濯物を持って現れた。


「あの子あんなに走ったらまた怪我しないでしょうか」

「そうねえ。常連になりそう。まあ、彼女も心配性なのよねえ。その気持ちも分からないでもないけど」

その言い方にひっかかったところがあり、尋ねてみる。

「それは、ロニー君に何か心配になるものがあるということですか…?」

セシリアの質問にエレンディラは、あ、とつぶやいた。

「そうか、あなたは知らないんだものね。ロニーはね、実の親に虐待を受けて孤児院に預けられていたの」


さらっと言われて、何か聞き流しそうになった。

「……なんてこと…」

「体中あざやコブだらけで、誰が見てもわかったわ。飲んだくれの母親にやられてるって。

それで近所のみんなで母親から引きはがしたの。母親は男とどこかへ逃げたわ」

エレンディラは青ざめるセシリアを元気づけるかのように、ことさら明るい声をあげた。

「かえってロニーにはいいことだったのよ!ジェーンに巡り会えたんだから!だってあんなに元気に走りまわってるロニー、見たことなかったのよ?いい親子よね。そう思わない?」

「そうですね。元気いっぱいで」


 セシリアも、本当にその通りだ、と笑った。


 切ない気持ちが生まれる。




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