37 贈り物をする子供
「せしりあー、これあげるー」
裏庭で洗濯物を干していたセシリアは、声の方向に目をやった。
男の子が何かを包んだ手をこちらにむけてつきだしている。
たしかこの子は遊んで塀から落ちて足を切ったロニーという子。
怪我はたいしたことなかったけど、あまりの元気ぶりに、再びここに来ることにならなきゃいいけど、と気をもんだ。
「あら、なにかしら」
それをうけとるとロニーはにやりと笑った。
セシリアの手の平にのっかったのはカエルだった。
「あら、ありがとう。可愛いカエルねー」
にっこり笑って感謝するセシリアにロニー少年はぶーたれた。
「ええー。なんでびっくりしないんだよー。おんなってこういうのこわいんじゃないのかよー。かあちゃんすげーわめくぞー」
「ええー。だっていっぱいいるから怖がってたらキリがないでしょう? 池にだっていたし、川にも丘にもいたし……」
のどかだった景色を思い出しているとロニーが目をきらきらさせていた。
「すげっ! いっぱいいるとこしってんの!? つれてってよ!」
「ああでもこの王都にはあまりいないもんね。よく見つけたねー、すごいねー」
セシリアが褒めると少年はへへへっとごきげんになった。
「ロニー、帰るわよー」
母親のジェーンが現れたのでセシリアはこんにちは、と挨拶をした。
「どうも、セシリアさん。まったくこの子はおちつかなくてねえ、多分またこちらにお世話になるかと思ってるのよぉ。いくらわんぱくでもいいたくましく~なんて言ったってやりすぎだっていうのよねえ」
ジェーンはため息混じりにまくしたてた。
その母親のおしゃべりが長くなりそうなのを察知したロニーは、つんつんとジェーンの袖をひっぱり
「かあちゃん、これあげる」
「あらなによ」
「!! うけとっちゃだめ!」
セシリアの制止は間に合わず、ジェーンの絶叫が周囲にこだました。
「やったあ!かあちゃんをたおしたぞー」
「あああんたって子はー!」
母に殺気を感じた息子は一目散にそこから逃げ、母はそれを全力で追いかけていく。
二人のやりとりの声が遠ざかっていき、しばらくするとどこからか
「かあちゃんごめんよー!」
「ゆるさん!」
と聞こえたので、攻防戦はおわったのだな、と分かった。
「まあまあにぎやかだったわねえ」
エレンディラが次の洗濯物を持って現れた。
「あの子あんなに走ったらまた怪我しないでしょうか」
「そうねえ。常連になりそう。まあ、彼女も心配性なのよねえ。その気持ちも分からないでもないけど」
その言い方にひっかかったところがあり、尋ねてみる。
「それは、ロニー君に何か心配になるものがあるということですか…?」
セシリアの質問にエレンディラは、あ、とつぶやいた。
「そうか、あなたは知らないんだものね。ロニーはね、実の親に虐待を受けて孤児院に預けられていたの」
さらっと言われて、何か聞き流しそうになった。
「……なんてこと…」
「体中あざやコブだらけで、誰が見てもわかったわ。飲んだくれの母親にやられてるって。
それで近所のみんなで母親から引きはがしたの。母親は男とどこかへ逃げたわ」
エレンディラは青ざめるセシリアを元気づけるかのように、ことさら明るい声をあげた。
「かえってロニーにはいいことだったのよ!ジェーンに巡り会えたんだから!だってあんなに元気に走りまわってるロニー、見たことなかったのよ?いい親子よね。そう思わない?」
「そうですね。元気いっぱいで」
セシリアも、本当にその通りだ、と笑った。
切ない気持ちが生まれる。




