表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落 陽  作者: nonono
第三部 冬
34/78

34 新しい縁


「女があんな仕事できるか!!」

 エレンディラの夫、ジルは熊のようにのっそりと大きくヒゲだらけの男だった。

 大声で言われセシリアは少し萎縮したが、同じように体の大きい父の冷酷さに比べれば感情がストレートなジルの方がまだましだった。

 だがエレンディラはまったく負けていない。

「読み書きができるから問診書の整理が頼めるわよ。私は無理だし、あなたいつになったら整理する気?」

「う……」

「室内の清掃はどうするの?あなたに耐えられる殿方はいらっしゃるかしら」

「ぐ……」

 助手を付けても、ほとんど室内の清掃に仕事を費やされ、

「僕は掃除婦ではない!!」

 と辞められるのが常らしい。

 男の身で掃除をするのはそれはごめんこうむりたいものなのだろう。

 小間使い女を雇おうにもこの時代、女性の識字率は低い。


「最近は看護学校もできているからそちらから求人は…?」

 こそりとセシリアはエレンディラにたずねた。

「ああいうやからは大病院へ行くし、給料が高くつくのよ。もちろんあなた血は大丈夫よね?」

「血…」

「ここは外科の仕事がほとんどだからな。流血沙汰の患者が多い。暴れるし、グロいぞ」

 ふん、と大男は鼻で笑う。

「あら、医師見習いのぼんぼんなんか血を見たことがない連中だらけじゃない。何度ぶっ倒れたかしら。それに比べ女性はしょっちゅう見ているのだから。ね?」

「え、ええ。はい、大丈夫です!」

 多少(?)のことで仕事と住居をのがすわけにはいかないと強がってみせる。

 ジルはうなり声をしばらく上げていたが、観念したようにセシリアを見下ろした。

「しょうがない、見習い期間を1ヶ月もうけてやる。駄目なようだったら即追い出すからな」

 そう言って奥へ引っ込むジルを見送りながらエレンディラとセシリアは手をとりあって喜んだ。

「エレンディラさん、本当にありがとうございます!なんて感謝していいのか…」

「いいのよ。がんばってちょうだいね」

「はい…でもこんなにしてもらっていいんですか?私まるっきりの素人なのに…」

 少しエレンディラの顔がすまなそうになった。

「ごめんなさい。私あなたの背中、見てしまったの。それでこれは何か大変なことがあったのねって…安い同情心よ。安心して。誰にも言わないから」

「エレンディラさん…」

 今度はセシリアがすまない気持ちになった。

「いい人なんて思っちゃだめよお?きつくて後悔するかもしれないんだから」

「そんなことしません。このご縁を大事にします」

 あらあらとエレンディラは笑った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ