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落 陽  作者: nonono
第三部 冬
33/78

33 仕事

 女性向け職業斡旋所をたずねたが、これといっていい返事はなかった。

 

 隣の島国は今、国が傾くほどに農作物の大不凶が人々を貧困に落とし、難民となった彼らこの国に押し寄せていた。

 その為仕事を探す女性は山のようにいる。

 知識がある女性に向いた仕事は大半が身元保証人証明か、紹介状が必要になる。

 さも訳ありのセシリアには難しい状態だ。

 なにかを察した係の者は、

「あなたは他の方より有利なものをもっていますから諦めずまたお越し下さい」

 と言ってくれたのがうれしかった。

 とりあえずそこを出て、仕事を募集している所はないかとたずね歩く。

 そして雨がまた降ってきた。


 雨に打たれすぎた。

 ひとまずどこかに雨宿りしたいが、大雨が視界をぼやけさせていて、周囲になんの建物があるのか判別しにくい。

 乗り合い馬車も通らず、人の通りも減り、地面を叩く水が轟音となって吠える。

 こういうときにかぎって目に入るのはパブばかり。

 女性が一人こういったところに入るのは気が引ける。

 だがそれ以外は店じまいをしてしまい、扉も閉ざされている。


「あ」

 ようやく開いていたそこは小さな診療所だった。

 中へ入ると

「ごめんなさーい。今医師ちょっといないのよーこの雨で足止めくらってるみたいねー」

 という女性の声が返ってきた。

「あ、すみません。この辺に宿がないかお聞きしたいんですが」

「あら、それなら隣よ」

 黒い巻き髪の中年女性が奥から現れて、愛想よくその方向を指さした。

 なんだ、となりにあったのか。雨でよく見えてなかった。

「ありがとうござ……」

 最後まで言えず、セシリアはふらりと倒れ込みそうになった。

 自分はどうしたんだろう?

「あら大変!」

 黒い巻き髪の中年女性が体を支えた。ややふっくらした彼女の温かみが伝わる。

「あなた熱があるじゃない!ほら、座って」

 女性に促されてソファに横になる。

 「…すみ…」

 彼女をぬらしてしまったことが申し訳ない。が、うまく舌が回らない。

「さ、濡れた服はぬいで。体を拭いて」

 ぼんやりして、言われたままにする。

 不思議なもので、熱があると言われたことで脳もそれをようやく認めたのか、とたんにぼーっとしてきた。



 気づいたら太陽が窓から差し込んでいた。

 体はいつの間にかきれいに拭かれてあり、清潔なベッドに横たわっている。

 女性の話だと糸が切れたように意識を失ったらしい。一晩泥のように眠っていた。

「疲れが貯まっていたんじゃないのかしら?医者じゃなくてもあなたの顔をみるとそれくらい分かるわよ。もう一晩休んでいきなさいな」

 女性の親切さが心地よさを与えてくれる。

 彼女の名はエレンディラといい、医師の妻だった。

 それに対してもう一度感謝するとエレンディラは明るく笑って

「いいのよ当たり前の事。それよりあなたもうちょっと太りなさいな?なんだったら私が太らせてあげるわよ、さ、食事よ」

 朗らかな彼女にほっとする。


 エレンディラは話好きで、女中のアンを連想させた。

 こういう女の人がセシリアは実は好きだった。

 自分が世間知らずなためか、いろんな話が聞けるのは楽しい。

 そんな彼女にぶしつけとは思いながらも頼み事をした。

「あの…私、仕事を探しているんですが…。どこか仕事を募集しているところとかご存じないですか?」

 エレンディラはじっとセシリアを見つめた。

 そしてわっと泣いた。

「あなたなにがあったか知らないけど…わかったわ!うちで働きなさい!」

「えっ?」

「助手がまた逃げたのよ。ちょうど人手が欲しかったの。そんなに高給取りにはさせてあげられないけど、住み込み完備よ!」

 それは助かる。いっぺんに仕事と住まいが手に入るなんて。


 あ、でもまって、とはやる気持ちを止める。

「…ここの診療所って、医学生さんが研修とか見学にきませんよね」

「やだこんなゴードン通りのちっさい病院にくるわけないじゃない」

 

 よかった。これ以上のはち合せはなさそうだ。

 考えてみればここは郊外に近い、多分階級の低い者達が大半の場所だろう。

 ユーリスが来る理由がない。

 それに話を聞く限りユーリスの師匠は内科方面の人間だろう。王立医師団の人間は内科が大半だというし。

 ここは外科だ、接点がない。 


 実はユーリスの話を聞いて、医療関係の世界に少し興味があった。

 少しのわくわく感があった。

「ぜひ、お願いします!」

「ええ!うちの旦那は私が説得するから!任せなさい!」


※医療世界の設定※


・貴族の子弟たち

王宮が決めた大学で単位をとって王立医師団へ。宮廷医になるか医療研究に進むか。内科系。


・貴族じゃない人

大病院で医師に弟子入りして学んで免許試験を受ける人もいるが、19世紀末だと医学校も結構増えたのでここに入る子が多い。選択科目あり。


・医学校に入る金がない人が医者になりたい

医師に弟子入り。現場で学ぶ。外科と歯科が大半。

免許の規定はゆるい。少し前まで理容師も兼ねてたよ。


あまりに嘘くさい世界もアレだなと思い、全部が現実と同じではありませんが、似せるように心がけたつもりではいます。

力不足が勝って読みづらいでしょうが、何卒ご容赦くださいませ。

そのうち設定集でも上げておきます。



    

    

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